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騎士団登用試験


【初春 レトルコメルス】


 いよいよロンが騎士団の登用試験を受ける。その為に昨日から前乗りし、ロンの部屋に迎えに行った。

 皆で見に行くのはさすがに迷惑だ。頼み込んでユーゴだけオリバーと一緒に試験を観る事になった。


「おっ、ちゃんと起きてたな」

「おはよう。いや……緊張で眠れなかったよ……」

「緊張する事ないだろ、お前の実力なら」


 ロンの顔は緊張で強ばっている。


 ――変なミスしなけりゃ良いけど……。



 試験は領主の屋敷に隣接した演習場で行われる。各町にも軍人が配属されており、定期的に軍事演習が行われている。稀に王達も顔を出すようだ。

 登用は15歳からだが、受験するのは十代ばかりでは無さそうだ。明らかにユーゴより上の人もいる。 

 王国騎士は軍人の憧れだ。実力主義のこの国では、いくつになっても出世の機会がある。昇化すれば若返る上に寿命が跳ね上がり、更にその機会は増える。


「やっぱり多いな。年に一度のチャンスだもんな」

「ダメだ……緊張してきた……」

「いや……お前は実力があるんだ、いつも通りでいい。どう考えてもSSランクの試験の方が緊張する場面だぞ……」


 試験会場でロンの受付を済ませた。オリバーの所に行くことにしよう。


「過酷な試練って訳じゃないんだ、肩の力を抜いてな」

「うん……分かってるけど……がんばるよ」


 ――大丈夫か……?

 

 ガチガチのロンに深呼吸をさせて、ユーゴは演習場を後にした。




 領主の屋敷に通ずる門扉、こちらから声を掛けずとももう顔見知りだ。


「お待ちしておりました、執務室までご案内致します」

「いやいや、執務室の場所なら分かってますから一人で行きますよ」

「左様でございますか……」


 執務室前まで歩くと、ドアは開いていた。軍服姿が数人で話し合っている。


「おはようございます」

「あぁ、ユーゴ君おはよう。今日はよろしく頼むよ、サイズの会う軍服を選んでくれ。君は背が高いが標準的な体型だ、合わせやすいだろう」

「へ? オレも軍服を?」

「審査をする者が平服というのもな、形式的な物だよ」


 ――審査って言った……? オレも審査員なの……?


「えっと……審査とは?」

「おかしな事を言うね、君が申し出た事だろう?」


 ロンが心配で見たいだけだったのだが。そう伝わってしまったのなら今更断れない。


「えっと……審査基準とかはあるんですよね?」

「いや特にない、騎士としての素質と実力があれば合格としているよ。その年にもよるが、大体毎年五人程が受かるね。一人だけって年もあったな」


 ――なんて事だ……オレの審査で他人の人生が決まってしまう……気合い入れて見ないとな。



 別室で用意された軍服に着替え、執務室に戻る。審査員はオリバーとユーゴを含めて六人、皆昇化した人族だ。


 そのままの足で演習場へ行く。

 受験者はさっきより増えてざっと200人程か。この中から五人程しか受からない、確かに狭き門だ。


 特に皆整列している訳ではない。何度も受験すると顔見知りも多いのだろう、雑談でザワザワしている。

 ロンは緊張の面持ちで直立不動だ。

 

 オリバーが演台に立ち、拡声器で挨拶を始めた。


「受験者の皆、本日はご足労頂き感謝申し上げる。レトルコメルス領主、オリバー・リオンだ。年に一度の登用試験、皆の力を最大限に発揮できるようサポートさせてもらうつもりだ」


 雑談も消え、皆がオリバーに正対し話を聞いている。


「皆も知っての通り、この国は実力主義だ。かく言う私も平民の出だ、努力次第で出世することが出来る。他人を超える努力ができる者がそのチャンスを掴むことが出来る。その道の一つが騎士団への入団だ」


 皆がオリバーの話に目を輝かせている。


「おいおい、貴様偉そうにしているが平民の出なのか?」


 ――なんだ?


 傷一つ無い綺麗な鎧を纏った若い男が前に出て、オリバーに向かって悪態をついた。両脇に同じくらいの若い男が(はべ)っている。

 かなり無礼な男だが領主サイドは特に動かない。


「あぁ、私は平民の出だ。何か問題でも?」

「平民風情がこの俺を審査しようとしているのか? 身分を弁えろと言っているんだ」


 ――なんだコイツ。高尚なご身分のガキなんだろうな。


「君が何者かはこの登用試験には関係ない。君が騎士に相応しいなら大人しく試験を受けてくれ。話はそれからだ」

「平民の分際で言葉遣いも知らん様だな。俺の姓はオーベルジュだ、それだけ言えば分かるだろう。父上に王都の登用試験を受けさせて貰えなかったから仕方なくここに来たんだ、便宜をはかれよ平民」


 オーベルジュ王家の血筋らしい。


 ――あの賢明な王の家系でこんなヤツいるんだな……。


「何度も言うが、君が何者かは関係ない。態度を改める気が無いのなら君は不合格だ。君の父上にはそう伝えておくよ」


 王家の少年は舌打ちしてオリバーに詰め寄った。


「おい……俺をあまり怒らせるなよ……父上に言うぞ」

「あぁ、伝えてくれて構わない。君に試験を受けさせないと決めた父上の判断は賢明だったね、今の君は騎士には向いていない。ちなみに君の父上は私の元部下だよ」

「なっ……」


 高尚な少年はそれを聞いて言葉を飲み込んだ。


「大人しくレトルコメルス観光でもして帰りなさい。この事は君の父上には黙っておいてあげよう」


 オリバーに恨めしそうな顔を向けて、何も言わずに引いて行った。


 ――優しいなオリバーさん、オレなら確実に告げ口する。


「皆にもう一度言おう。身分など関係ない、この国では誰にでも平等にチャンスが与えられる」


 受験者達から盛大な拍手が起こった。


「では早速登用試験を始めよう」


 そう言ってオリバーは演台から降りた。

 試験官の一人が代わって話を進める。


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