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真面目な男

 

 まだ夕方にもなっていない。

 明日には王都を出るという事で、久しぶりにジュリアとエミリーはギャンブルに出かけた。


「オレはここを出る前にサンディを見て来ようかな。教えてしまった手前何も言わずに帰るのもな……」

「じゃあ、僕もついて行くよ」


 あれから一週間近く経っている。家に居ない可能性もある。

 住所は東エリアだ、いなければそのまま繁華街に遊びに行こう。



 城を出て東の大通りに出る、住所は深く路地に入った所だ。

 着いた、階層の高いマンションだ。


 その一室の呼鈴を鳴らすと、少しして額に汗を浮かべたサンディが出てきた。


「おぉ、師匠じゃねぇか。あんたも久しぶりだな、まぁ上がってくれ」

「誰が師匠だよ、お邪魔するよ」


 一人暮らしには割と広い部屋だ、修練用に片付けたのか、何も無い部屋が一部屋。


「練気を纏う修練なら動く必要はねぇからな、部屋の中で十分だ」


 サンディはコーヒーを淹れながら喋り始めた。


「ここ一週間で守護術、回復術、補助術の基礎を学んだよ。まだまだ初歩的な事しか出来ねぇが、あとはこれを地道に繰り返して行くだけだな」

「サンディ、意外と真面目なんだね……」

「あぁ、俺は強くなりてぇ」


「これはまだ王都の兵士しか知らないんだけどな」と前置きし、聯気(れんき)について解説した。練気と自然エネルギーを理解しているサンディには造作もない事だった。


「ほぉ……これはまた別物だな……これを剣に纏う修練は変わらねぇって事だな」

「あぁ、やる事は一緒だ、オレ達は明日ここを出る。おそらく当分帰ってこないからな、最後に顔出したんだ。頑張ってな」

「おう、ありがとよ。なぁ、良かったら飯奢らせて貰えねぇか? こないだだいぶ儲けさせてもらったからな」


 シャワーで汗を流すサンディを待っているといい時間になった。

 

 東エリアの繁華街、シャンガルド通り。

 東門から城を繋ぐ王都一賑やかな場所だ。商業施設も金持ち向けのハイブランドが多く、飲食店も規模が大きい上に高級だ。深く路地に入ればリーズナブルな店もあるらしい。


 大きなバーに入り、メニューを開く。


「オレ東エリアでご飯食うの初めてだな……へぇ、見た事ないメニューだ」

「骨付きの大きなステーキや少し変わったピッツァ、フライドポテト等が俺のお気に入りだ。聞くところによると、ここのオーナーは魔族らしいぞ」

「へぇ、って事は魔族の料理なのか」


 切り分けられたステーキを一口頬張る。これは上手い。


「肉はもちろんだけど、ソースが美味しいね。これは売ってるのかな」

「あぁ、ボトルで売ってるはずだ」


 三人でテーブルに並んだダイナミックな料理をビールで流し込んだ、フライドポテトが止まらない。

 サンディは仲良くなったらよく喋るしよく笑う、最初の印象は悪すぎたが鼻を折ってしまえば良い奴だ。意外に努力家だ、強くなるだろう。


「なぁ、俺もこの先もう一度パーティーを組むことがあるかも知れねぇ、その時は仲間にこの戦闘法教えても良いのか?」

「そうだな、誰にでも教えるってのは問題かもしれないけど、信頼する仲間なら教えてもいいんじゃないか? 元々はオレ達も教わった身だし」

「そうか、信頼出来る仲間を見つけてSSランクを目指すよ」

「そうか、頑張れよ」


 サンディはまだ三十歳過ぎ、まだ現役バリバリの年齢層だ。取り戻した情熱で頑張って欲しい。

 


 サンディにたらふく奢ってもらい、城に戻った。明日はレトルコメルスだ、ゆっくり休もう。

 


 ◇◇◇

 

 

 ゆっくりと朝食を頂く、いつも通りの朝だ。

 いつもと違うのはリナとの距離間だ、いつもの元気な挨拶と癒しの笑顔は変わらない。ただ距離を感じる、何だろうか。


「さて、とりあえず夕方にはレトルコメルスには着くであろう、そこで一泊して里に帰るかの」

「分かりました、昼食はお願いしてます。オレが預かりますね」



 朝食を終え、皆が準備に部屋に戻る。


「昼食のサンドイッチです、ユーゴ様にお渡しして宜しいですか?」

「あぁ、はい頂きます。ありがとう、お世話になりました!」


 頭を下げるユーゴにリナはニッコリ微笑んで会釈し、奥に下がって行った。


 ――何だ、何が違うんだろう……。



 レオナード王に礼をし、全力でレトルコメルスに向かって飛んだ。

 風属性の魔聯気で飛んでみたが、魔力を無駄に消費するだけであまり意味は無いようだ。



 ひたすら黙々と飛び続け、夕方前には目的地に到着した。


「予定より早く着いた、明日までゆっくりとするかの」

「オレはエマのとこ行ってきますね」

「そっか、私もニナのとこに行ってこようかな。泊まるのはこのホテルだよね? いなかったらここに泊まろうかな」


 里長とレイは勿論一人部屋、トーマスとジュリア、両親はツインルームに泊まるようだ。


「エマちゃん紹介しなさいよね!」

「あぁそうだな、明日の朝連れてこようかな……では明日の朝にここに来ますね」



 エマの部屋の前、呼鈴を鳴らす前にドアが開いた。


「うぉっ! びっくりした」

「やっぱりそうだ、おかえり! 私、魔力を感じることが出来るようになったみたい」

「へぇ、オレの魔力が分かるのか?」

「うん、この前微かに感じてたんだ、魔力量まで分かる訳じゃ無いけどね。まぁ上がってよ!」


 部屋に上がりコーヒーを淹れてもらった。


「ありがとう。新しい戦闘法習得したんだ、すぐにできるような事だから教えとくよ」


 そう言って聯気(れんき)への変質方法を教えた。


「なるほどね、順番が違うだけで全然別物だね……今日仕事行ったらみんなに教えとくね」

「目標は変わらず練気で空を駆ける事だな、聯気の精度を上げるのに一番いい方法は変わらない」

「うん、頑張るよ!」


 

 エマは店の周りの事について話し始めた。


「レトルコメルスには主に東西二つの繁華街があるのは知ってるよね? 店がある東のソレムニーアベニューを縄張りとしてるマフィアのボスが女性なの。今のお店結構大きいでしょ? 店を開く時に一度会ってるんだけど、今晩ボスの所に来るように言われてるんだよね」


 ――マフィアのボスに呼び出されるって……。


「大丈夫なのかそれ……?」

「ソレムニーアベニューの土地の殆どは女豹(レパーデス)の所有なの。あ、レパーデスはその組織の名前ね。私は店を借りてる身だからね、呼び出しには応じなきゃ」

「そうか、じゃあオレがついて行くよ」

「ロン君にお願いしようと思ってたんだけど、ユーゴ君ならもっと安心だな……お願い出来る?」

「もちろん! 待ってる方が心配だ」


 エマは一度お店に出勤してからマフィアのアジトに行くらしい。出勤前に一緒にディナーを食べてから店に向かおう。

 

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