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リナの手作り菓子


「コンコン」


 ドアをノックする音で目を覚ました。

 ドアを開くとリナがいる。


「あ……もしかしてお休みになられてましたか……?」

「いや、結構寝たから大丈夫だよ」

「申し訳ございません! クリーニングする物がありましたらとお伺いしたのですが……」

「あぁ、旅で水洗いだけだったからな、お願いしようかな」


 シルクシャツとデニムパンツを麻袋にまとめてリナに渡した。


「ではお預かりしますね。あと……これなんですが……」


 リナは小箱をユーゴに差出した。


「マドレーヌを焼いてみました……お口に合うか分かりませんが、宜しければお召し上がりください」


 箱を開けてみると、貝殻を型どったお菓子が入っている。


「へぇ、初めてだな、ちょうど小腹が空いてたんですよ。頂くね、ありがとう」

「今日焼きましたので明日までは持つはずです、夕飯に差し支えても困りますし、宜しければごゆっくりお召し上がりください!」


 そう言ってリナは一礼して帰って行った。


「リナさん! クリーニング!」

「あぁっ! 申し訳ございません!」


 麻袋を持って小走りで戻って行った。あのおっちょこちょいがまた可愛らしい。

 

 折角だ、寝起きのティータイムにしよう。

 紅茶を淹れてマドレーヌを一口頬張ると、程よい甘さとバターの香りが口いっぱいに広がった。


「美味いなこれ……」


 今まで食べたお菓子の中でもトップクラスだ、これは美味い。口の中に広がる余韻を紅茶で流し込んだ。全部食べるのも勿体ない、半分は明日に残しておこう。

 誘惑に負け全部食べてしまいそうだったが、箱の蓋を閉めた。美味かった、お礼言わないと。



 そのままティーポットの紅茶を飲みながら読書をしていると、ディナーの時間が近づいている。

 

 着替えてベルフォール城に行き、ホールに案内された。


 給仕のメイドが忙しく動いている。


 ――なんかいつも申し訳ないな……あれ? リナさんだ。


「あ、リナさん、マドレーヌすごく美味しかったです。全部食べちゃいそうだったけど、勿体ないから明日にも残しときました」

「そうですか、お口に合って良かったです!」

「オーベルジュ城から手伝いですか?」

「はい、こういうお食事会等の時はお手伝いに来る事があるんです」

「そうなのか、いつもお世話になります……」


 ニッコリと微笑んで仕事に戻って行った。



 皆が円卓に座った。

 今日も色々な料理が大皿に盛り付けられて並んでいる、メイドが給仕してくれるスタイルだ。


 皆の前のグラスに赤ワインが注がれた。


「良し、皆に行き届いたな、とりあえず鬼国での仕事は終えた。シャルロットが酒宴を開いてくれた、存分に楽しんで欲しい」


 仙王がグラスを掲げると、皆もグラスを持ち上げた。

 

 各町の料理が並んでいる。


 ――やっぱりソーセージはあるな、これにはビールでしょ。


 席に戻りピッツァやソーセージをビールで流し込む。


 暫しの歓談。

 シャルロット女王が思い出したように叫んだ。


「あーっ! そう言えば、ジュリジュリとトムちゃん付き合い始めたんだって!?」

「えぇ、仙王様には報告させて頂きました。近々仙神国にもご挨拶に行かないとと思っています」


 トムちゃんとはトーマスの愛称だ、女王しか言ってないが。


 ――そうだ、この流れで女王にエマとの事を報告しとこう。


「シャルロット女王、オレはエマと交際させて頂いてます。エマはレトルコメルスで頑張って……」


『ガシャ――ン!!』


 ――なんだ!?


 振り向くと、リナが食器を落として呆然としている。数枚の皿が粉々だ。


「リナさん大丈夫!? 怪我ない!?」

「はっ! もっ……申し訳ございません!」


 他のメイド達が駆け寄り、割れた皿の掃除を始めた。


「申し訳ございません……申し訳ございません……」


 リナは涙ながらに破片を片付けている。


「ちゃんリナがミスって珍しいんじゃない? 怪我が無いようにしなよ?」

「泣かなくても大丈夫だょ。ウチも手伝うね」

「女王様いけません! 私共が片付けますので!」

 

 リナは泣きながら頭を下げ、奥に下がって行った。


 ――大丈夫かな……心配だ。


 エミリーが下がっていったリナの方に歩いていく。彼女と仲良くしているエミリーが慰めてくれると安心だ。



 ◇◇◇



 エミリーはリナがミスしてしまった原因が分かっている。後について行くとメイドの皆に慰められて泣いていた。


「リナさん大丈夫?」

「エミリー様……申し訳ございません……」

「謝る事ないよ。皆さん、リナさんと少しお話してきていいですか?」

「えぇ、では私達は持ち場に戻りますね。リナちゃん、大丈夫だからね」


 リナは皆に深々と頭を下げている。


「ちょっと! リナさん手切ってるじゃん! ちょっと見せて」

「あっ、これくらい大丈夫です!」


『治療術 再生』


「えっ……綺麗に治った……ありがとうございます」


 エミリーはコップを両手に持ち、生成した水を入れてリナに渡した。


「向こうで座って話そうよ」


 二人で夜風に当たりベンチに座った。

 少し沈黙が流れる。


「エミリー様……私、無謀な恋をしてるって分かってました、叶うことなんてないって。でも……いざユーゴ様の口から交際相手のお名前が出ると……身体の力が抜けてしまって……」


 そう言って肩を震わせて泣き始めるリナ。

 エミリーはその背中をさする事しか出来ない。


「私……メイド失格ですね……」

「そんな事ないよ! リナさん程のメイドなんて探してもいないんだから!」

 

「……今日もユーゴ様に手作りのマドレーヌを差し上げたんです……用事なんて無いのに、クリーニングを口実にお休み中のお部屋をノックしてまで……私……最低です……」

「そんな事ない、ユーゴに喜んで欲しいってリナさんが一生懸命考えてとった行動だよ?」


 ――自分を責め始めちゃった……これはダメだと思うな……。


「私は言えなかった……リナさんの気持ち知ってたのに、ユーゴには好きな人がいるって言えなかった……」


 涙が出てきた。

 エミリーにはどうする事も出来ない。


 ――これが失恋なんだ……。


 二人で抱き合って泣いた。エミリーは一緒に泣いてやる事しか出来なかった。


「よし! リナさん、遊びに行くよ! 次の休みはいつ?」

「えっ……? 宜しいのですか……? 次のお休みは明日です」

「明日なの!? ジャストタイミングじゃん! 明日の朝、門前に集合ね!」


 リナは更に顔を歪めて泣き始めた。


「えっ……行きたくなかった……? ごめんごめん!」

「違うんです……エミリー様のお優しさが嬉しくて……ありがとうございます……」


 リナは少しの間泣き続けた。

 そしてフゥっと一息、涙を拭いて立ち上がった。


「よし……もう大丈夫です、お仕事に戻ります。エミリー様、本当にありがとうございました、明日楽しみましょう!」



 二人でホールに戻った。

 リナは深々と頭を下げる。


「皆様、大変申し訳ございませんでした」

「いいょいいょ、仕事多いもんね……少しお休み増やしてあげてもいいんじゃない?」

「そうだなぁ……少し働き方を見直すべきなのかもね、皆の不満(マンフー)を聞くことにしよう」

「そんな! 滅相もございません!」


 テキパキと元気な普段のリナに戻った。


「リナさん、怪我はなかった?」

「はい、驚かせてしまい申し訳ございませんでした……あっ、ユーゴ様お飲み物はいかが致しましょう?」

「あぁ……そうだな、ビールお願いしようかな」

「かしこまりました!」


 ユーゴへの受け答えも笑顔だ。


 

 宴会は大盛り上がりで終わった。


 ――明日はリナさんと思いっきり楽しもう。

 

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