眼の力とは
念の為、エミリーが全員に快癒をかける。
「ユーゴが気付かなんだらどうなっていたか……」
「毒を浴びる覚悟で突撃してもあのレベルの魔物だ、相当動きが早いと見て良い。避けられたら終わりだ。これは厄介な敵だ……」
「この様な魔物を生み出すとは……あの二人の性格が出ているな……すまぬ、某には昔程の力がない」
「いや……元より儂らで片付けるつもりであった故に」
――どうする、大人数が徒となっている……。
「レイさん、オレの眼は神眼と言われてるらしいんです、時を止める程の力だと」
「なんと……神眼とな……」
「ただ、扱い方が分からない……」
レイは眼の力についての説明を始めた。
「まず思い出して欲しい、眼の力を得る前の事を。なぜその力を手に入れたのかを」
――なぜ手に入れたのか……? どういう事だ。
「そうか……僕は親方から貰ったこの盾の特性を守護術に乗せる事が出来たらと常々思ってた、その想いがニーズヘッグの風魔法から皆を守らなきゃならない場面で開眼したんだ」
「私の眼の力は、本質を鋭く見抜く洞察力だって言われた。小さい頃から目を閉じて生きてた私には一番欲しかった力かもしれない……」
「私は歴史が好きだった、魔神ルシフェルが封印されていると知り、その封印術を勉強した。その封印が解けたら私が封印するんだって思ってたわ……」
「アタシは単純にユーゴの先を見る力が心底羨ましかったな……剣士として相性の良さはこの上ない能力だ。アタシにはそういう欲はあまり無いが、あれほど欲しいと思ったのは初めての事だった」
――オレが神眼を開眼する前……夢で母さんと話す前の事か……。
「……ジュリアの魔法剣技の習得に付き合った時だ、ヒッポグリフが地上に降りなかったから途絶が使えなかった。ヒッポグリフを止めないとって思ってたら周りの動きが遅くなったんだ。次はルシフェルが父さんにとどめを刺そうとした時だ、助けたいけど間に合わないと思った時、瞬間移動したかのようにオレはルシフェルの剣を止めていた……オレは時を止めたんだ……」
レイさんは頷いて話を進めた。
「そう、眼の力とは言わば『願望』だ。その能力を得るに相応しい力を持った者の眼に、その願望は宿る」
黙って聞いていた仙王が口を開いた。
「なるほど……言われれば確かにそうだ。仙族は生まれつき眼が青く空間魔法は扱えるが、他の能力は誰もが開眼するものでは無い。むしろ開眼する者の方が稀だ」
「神族でも必ず開眼すると言うのはこの青紫の眼の話。友人が幼少期に異空間生成の能力だけでこの眼を開眼した時、慰めようの無いほど落ち込んでたわね……」
――願望……時よ止まれと願えばいいのかな。
確かにシュエンを助けに入った時、そう願った。ソフィアからユーゴの眼が時を止めるほどの力だと言われたのもあるが。
時が止まれば、その隙にヤトノカミを斬る事ができる。
「オレが斬ります、時を止めます」
「出来るのか……?」
「出来るかじゃない、やります。ただ、皆のサポートは欲しい」
――オレなら出来る、大丈夫だ。
「オレには龍眼の能力で毒霧が可視化されています。そのギリギリまで近づき奴に対峙します。誰でもいい、突風タイプの風術で毒霧を吹き飛ばしてもらいたい」
「うん、私がするよ、サポートは任せて」
「頼む」
アタゴ山に戻った。
効果の高いエミリーの強化術を掛けてもらい、更にトーマスの守護術で準備は完了だ。
腰には不動一本。
錬気と増幅エネルギーを、鞘に納めた刀に込め続けている。
未だとぐろを巻いてこちらを警戒しているヤトノカミと距離を置いて対峙する。
ここまで近づくとよく分かる、可視化された毒霧はかなり濃度が高い。
「エミリー、頼む」
『風遁 烈風!』
――よし、モヤが晴れた。
『居合術 抜刀一閃!』
――止まれぇ――!!!
時よ止まれと念じながら地面の形が変わるほど強く踏み込み、増幅した風エネルギーを込め、抜刀の速度に乗せて切り込むユーゴ最速の剣技。
ヤトノカミが動かないのか、ユーゴの眼の力で止まっているのか。そんな事を考える間も無い刹那。
気が付くとユーゴの前にヤトノカミはいなかった。
仕損じたかと思い振り返る。
白蛇の頭は無くなり、首がクルクルと回ったのち地に落ちた。
――やったのか……?
辺りを見回すと、長い角の生えた首が転がっている。
――斬ったんだ、オレは時を止めた。
ゴッソリと減った魔力がそれを証明している。
向こうから歓声が上がった。
歓声の方に向かって歩く、皆が拍手で迎えてくれた。
「見事だユーゴ……お主は間違いなく里一番の剣士だの……」
「強くなったなユーゴ……俺はお前を誇りに思う」
「ホント、真後ろから見てたけど、気付いたら蛇の首が無かったんだもん……」
「一瞬でこの魔力の消費量……使い所が難しいですね……」
一瞬で疲れた。とりあえずミッションは成功させた。
ヤトノカミの体皮を剥ぎ取り、念の為に角や牙、目玉などを採取する。毒がないかユーゴの龍眼で確認しながらの作業だ、牙には毒が付着していたので革袋に入れトーマスがしまった。
「よくこれを斬ったね……自然エネルギーの増幅は相当斬れ味を増すようだ」
「まぁ、オレは切るべきところが視えるからな。胴はこの硬さだ、斬りかかっても頭を素早く動かして弱点が逃げ回る、しかも周りには高濃度の毒霧だ。普通ならヤバい相手だったな……で、ニーズヘッグの体皮と比べてどうだ?」
「うん、硬さはニーズヘッグだね、防具は今のままでいい。ヤマタノオロチは属性防御がかなり高いから盾で使ってるんだ。この体皮は持ち帰って研究だね」
残りを火葬すると大きな魔晶石が二個と小さい魔晶石が五個出た。
「里長、魔晶石使いますか?」
「良いのか? 仙王はどうだ?」
「あぁ、君らはガントレットに嵌め込んで使うんだったな、我らもしてみようか」
「オレらはニーズヘッグのが埋め込んであるんで。他の皆で使ってください」
仙王とティモシー、里長と両親でちょうど五個だ。
「よし、台座のある場所を見つけましょう」
「いや、どこ見てたの……そこに見えてるじゃん」
――あ、ほんとだ。必死になったら視界が狭まるんだな……。
一応確認する、中には魔物の気配は無い。が、警戒は怠らない。
トーマスはまだ指先に多少の痺れがあるようだ、エミリーの快癒で完治しない神経毒、相当だ。
ティモシーを先頭に火魔法で照らしながら中に入る。
あった、四つの窪みのある台座だ。
「さぁ、壊して帰ろうかの」
あまり強力な術では洞窟が持たない、里長の小規模な風遁で切り刻み皆で粉々に踏み壊した。
「これで悪鬼ラセツの復活は無かろう」
「懸念は晴れた、外に出て昼食にするか」