ソロ冒険者
目を瞑ったらすぐに朝だった。
疲れが溜まってるのかもしれない。でも、かなりスッキリした。
少し遅めの朝食を頂き、ゆっくりと紅茶を楽しみながら読書をしていると、もう昼前だ。何もしてないとお腹も減らない、外で食べよう。
午後からは北のギルドに行ってみようと思う。本気装備である必要はない、コカトリス装備で行こう。久しぶりに身に付けてみると少しキツい、自分では分からないが筋肉が付いたのだろう。ややこしそうだ、空間魔法は使わず二本の刀を腰に差して行こう。
歩いて北のギルドに到着し、中に入る。
「昨日はどうも、パーティーのマッチングお願いしたいんですけど」
「あぁ! 少しご案内しただけであんな大金を……マッチングですね、カードお預かりしますね」
カードを差し出すと、女性の目が見開いた。
「SSS……?」
「あ、ランクって伏せて募集できます……?」
「下に下げてなら大丈夫ですよ……何者なんですかユーゴさん……」
「んじゃSでお願いしようかな、食事して待ってますね」
「分かりました……」
ギルド内での食事はゴルドホーク以来だ。ステーキ肉のワンプレートランチをオーダーし、テーブルを探す。
さすがは大都会のギルド、人が多い。仕方ない、相席だ。
「相席良いですか?」
「あぁ、好きにしろ……って、テメェ!」
――ん? テンガロンハット……あぁ!
「おぉ、サンディ! 久しぶりだな!」
レトルコメルスのエマの店で絡まれて返り討ちにしたSランク冒険者、サンディ・ジョーンズだ。
「テメェはいつもいつも偶然を装って来やがるな……ん? なんだその眼は? そんな色だったか?」
「装ってねーよ、偶然だよ。あぁ、まぁこれはな……他のパーティーメンバーは?」
「俺は今ソロ冒険者だ、今マッチングして飯食ってるとこだよ」
「へぇ、オレも今マッチング申請したとこだ、良かったら二人で行かないか?」
「なんだと……? テメェもソロになったのか?」
「いや、みんな出かけたから暇つぶしだ」
「そうか……まぁテメェ程の冒険者となら問題ねぇな、いいぜ」
昼食を終え、サンディとのパーティ申請をし、依頼を選ぶ。
「最近他の冒険者に突っかかってないか?」
「あぁ、テメェらで懲りたよ。今は大人しいもんだ、そもそもここではSランクなんて珍しくねぇからな」
「そうかそうか、いい事だ。ガーゴイルだって、初めてだな」
「ガーゴイルか……Sランクでも上の方だぞ? 二人で大丈夫か……?」
「オレが盾役するから大丈夫だ」
Sランクのガーゴイルの依頼を受け、西門から依頼場所へと走る。
「サポートもオレがするよ」
サンディに迅速をかける。
「うぉ! 何だ!? 身体が軽い!」
サンディはかなりスピードアップした。やはり増幅エネルギーの強化術は相当能力を底上げしてくれるようだ。自分では分からないが人族でこの効果だ、すぐに依頼場所に着いた。
「あれがガーゴイルか」
額から二本の短い角が生えた毛のない猿のような風貌で、背はユーゴより少し大きいくらいか、背中にはコウモリの様な羽が生えている。
「よし、オレが守るから存分に戦ってくれ」
サンディに剛力、剛健、迅速を掛け、二本の刀を抜き上下太刀の構えで迎え撃つ。
『守護術 堅牢』
やはりニーズヘッグの防具は凄いらしい。コカトリスの革とは全く守護術の質が違う。二本の特級品の刀を媒介に張り直すとレベルが違うのが分かる。
ガーゴイルの敵意をユーゴが一手に受ける。
火魔法と、魔法や爪の攻撃を守護術で受けた。硬さの中にもしなやかさを、ティモシーの教えを忠実に守る。
「サンディ! 攻撃は任せたぞ!」
サンディは両手剣を正面に構えて機を見ている。さすがはSランク冒険者だ、薄く丁寧に気力を纏っている。
『剣技 ソードスラッシュ!』
迅速で上がった剣速、剛力が掛かった腕力で両手剣を振り下ろし、ガーゴイルを横から真っ二つにした。
「お見事!」
「いや、テメェのとんでもねぇ補助術のお陰だよ……強くなった気分だ」
「初めて実力見たけど、本当にSランクだったんだな、良い斬撃だった」
「どういう意味だよ!」
ガーゴイルの処理をして火葬する。
魔晶石と魔石を回収し帰ろうとすると、もう一体ガーゴイルが出てきた。
「おっ、あれオレが貰っていい? この刀の試し斬りがしたい」
「あぁ、好きにしろ」
二本の刀を鞘に納め、新入りの不動に増幅エネルギーを混ぜ込んだ錬気を纏わせて構える。
『居合術 閃光』
思いっきり地を蹴り、抜刀に乗せたスピードでガーゴイルを斬る。
振り向くとガーゴイルはユーゴに向かって飛びかかってくるが、届かずに腰から真っ二つになった。
「良く斬れるな……気に入った」
サンディに向き直ると、目を見開いて口をあんぐりさせている。
「テメェ……なんだよ今の……」
「へ?」
サンディは突然ユーゴに向かって土下座した。
「頼む! 俺を弟子にしてくれ!」
「……は? 弟子にって言ってもなぁ……オレ明日にはここ出るぞ?」
「時間のある時でいい! いつでもいい!」
――えぇ……正直めんどくさい……しかもこいつ性格悪いしな……。
「なぁサンディ、お前初めて会った時Sランクを振りかざして悪さしてたよな? あれは冒険者として最低な行為だ」
「あぁ……あんたにこっぴどくやられて懲りた……あれから俺なりに心を入れ替えて頑張ってるつもりだ」
「強くなるってのはいい事だよ。でも、その強さに酔って自分より弱い者を蔑む奴は最低だ、オレはそういう奴には教えることは無い」
「あぁ、分かってる。だからこうして頭を下げている」
――まぁ正直こいつは変わったよな、まぁいいか。
「分かったよ、心を入れ替えてるのは伝わってる、だから一緒に依頼受けたんだ」
「じゃあ!?」
「あぁ、さっきも言ったけど明日にはここを立つ、今日教えることを反復して修練を積めば確実に強くなる」
サンディはもう一度深く土下座をして立ち上がった。
練気術を教えるくらいだろう。
「サンディは魔法剣は放てるのか?」
「あぁ、最近は使ってねぇけどな、ありゃSランクの魔物には不利だ」
「そうだな、なら問題ない」
練気術を一から教えた。
サンディはすぐに理解し、練気を両手に集めた。
「おぉ、これはすげぇ……」
「それを剣に纏うんだ、半年はかかると思う。難易度は割と高いよ」
「おう、これは確かに高難度だ……頑張るよ」
「あとは、守護術、補助術、回復術全てを扱えるようになった方がいい、ソロ冒険者なら尚更な。それを錬気に置き換えたら効果が跳ね上がる」
「分かった、他の冒険者に頼んで習おう」
あとは自然エネルギーを取り込む呼吸法を教え、指導を終えた。
サンディはSランク冒険者にまで上り詰めた冒険者だ、センスはいい。あとは地道に修練を積むだけだ。
「これ、俺の住所だ、またここに来た時は見て欲しい」
「あぁ、暇だったらな。サンディの悪い噂を聞いたらここに殺しに行く事にするよ」
「大丈夫だって!」
「ハハッ、冗談だよ。頑張ってな」
北のギルドに戻り、報酬を半分に分けた。
魔晶石を篭手に埋め込んだ方がいいという事でユーゴの分をサンディに渡した。
しかし、あのサンディが丸くなったものだ。コテンパンにしてやったら誰でも会心するのだろうか。
――もしかしたらマモンやアレクサンドも……あんな奴らと本気で戦ったらどっちかが死ぬだろうな。絶対に圧倒してやる、オレはもっと強くなる。
明日は出発だ、街のサウナでリフレッシュして城に帰ろう。