神龍 レイ・フェイロック
ベルフォールの城の一室、メイドが忙しく動いている。
「いきなり押し掛けて料理作ってもらって……なんか悪いな」
「突然の来客なんて王城じゃ日常だろ。気にする事ないぞ」
王族と平民の意識の差だ。
ユーゴはどれだけ城に世話になっても平民意識で気を使ってしまう。
大皿に様々な料理が並んでいる。それをビュッフェ形式で席について食べる。
ユーゴ達にはこういう形式の方が合っている、女王が気を使ってくれたのだろう。
「てか、ラファちゃんから通信を貰ったのが四日前で、もう着いてるって早くない? 通信入れてすぐに出たの?」
「いや、出たのは一昨日です。レトルコメルスに一泊してさっきここに着きました」
女王は首を傾げたが、すぐに理解した様だ。
「あぁ、もしかしてみんな自然エネルギーの体内増幅を習得したの?」
「あぁ、こないだお祖父ちゃんから教わったんだ」
「そかそか、練気に混ぜたらあの速さだもんね、納得」
「女王はもう使ってるんですか?」
「うん、やってみたょ。呼吸が出来ないから顔の前に守護術張ったでしょ?」
――エミリーがいなかったら多分オレ達そこに行き着いてないな……。
「明日は神龍の思念を見に行くんでしょ? ゼウスの思念の話はその後まとめてするってラファちゃんは通信で言ってたけど」
「そうだな、今回はそのために来た」
「そかそか、んじゃ明日も宴会の準備しなきゃだね」
「良いんですか……?」
「問題ないょ、ウチらも宴会したくてウズウズしてるんだから。宴会三昧してたって魔族達にビクビクしてたって五年後は来るんだから、楽しんでた方がいいっしょ?」
その通りだ、周りをみると皆の顔が綻んでいる。
この国は二人の王のゆるい性格で上手く治められてるのだろう。税金を取らなくても各町から寄付金が来る程だ、国民から相当愛されてるのが分かる。
「とりあえず楽しんで帰ってょ! 城下も行ったことないとこいっぱいあるでしょ?」
「そうだなソフィア、明後日にでも出かけるか」
「そうね、武術ばっかじゃね……15年間を取り戻さないとね」
確かに北や東エリアに行ったこともない。
少しゆっくり過ごすとしよう。
美味い食事と美味い酒、気心知れたメンバーとの楽しい酒を遅くまで楽しんだ。
◇◇◇
次の日の朝、オーベルジュ城で朝食を頂いている。リナ達、メイドも顔見知りだ。
各自準備を終え門前に集合した。二人の王も来ている。何があるか分からない、皆が武装済みだ。
「揃ったな、ではひとっ飛びで行くとしよう」
西門からニーズヘッグが生息していた山の山頂に飛ぶ。
SSSの冒険者が全員集合だ。しかも里長とシュエンとソフィア、もう何が出てきても問題ない。
パラメオント山脈に連なる山の一つ、あの化物を倒したのはいい思い出だ。
周辺を見渡すと、探すまでもなく山頂近くに横穴を見つけた。岩山を綺麗にくり抜いた洞窟で、島にあった祠のような装飾は無い。
「ニーズヘッグ倒すのに精一杯で気づかなかったな……」
「そうだね、倒した後もヘトヘトだったもんね……」
中に魔物の気配は無い。
ユーゴを先頭に火魔法で中を照らしながら進む。そこまで深い穴ではなく、すぐに四つの窪みがある台座が現れた。
「これですね、左下が緑色に染まってます。龍族の元の国は大陸の左下だ、おそらく各種族が生まれ落ちた位置を表してるんですね」
空間から翠の宝玉を取り出し、緑色に染まった窪みに嵌め込んだ。
辺りが緑色の光に包まれ、台座の上に黒い長髪を高い位置に束ねた老人が浮かび上がった。神族と同じ青紫色の眼だ。
――なんだ? ゼウスの時と様子が違う。
神龍レイであろうその人物は、自分の両手を見た後、皆を見回した。そもそもゼウスの思念の様に透けていない。
「まさか……思念ではなく、実体なのか……?」
「……その黒髪……青い目……其方らはまさか下界の民か?」
「お主は儂らの創造主である神龍レイということか……?」
神龍は信じられないといった表情で皆の顔を見ている。今自分に起こっている事を確認しているのだろう。もちろん誰も何が起こっているのかは分からない。
その老人は台座の上に浮いていたが、ゆっくりと地面に降りて話し始めた。
「いかにも、某は『レイ・フェイロック』だ、神龍と呼ばれていた。黒い髪の三人は龍族か……?」
「儂は龍族の長、クリカラ・フェイロックと申します。こやつらは儂の息子と孫です」
「敬語など不要、某は創造主であるからと言うて其方らを下に見る事はしたくない。それにはもう懲りた」
「では、遠慮なく……」
こんな暗いところで話す事ではない。
宝玉を回収し、二人の王の提案で城に戻る事になった。