紅の思念
宿敵ゼウスとの争いも埒が明かない。
何故争い始めたのかも覚えていない、今更共存など有り得ない。
「ラセツよ、我輩に考えがある」
「考え? またろくでもねぇ事押し付けんじゃねぇだろな?」
悪鬼『ラセツ』は我輩の従者だ。
いや、従者と言うより友の様に思っている。
「我輩の因子と汝の因子を掛け合わせ、新たな種族を創造する。我輩の魔力量と汝の強靭な肉体が合わされば、相当な種族が生まれよう。我輩の様に特異な能力を得る者もおるかもしれん」
「へぇ、オラ達の代わりにゼウス達と戦わせるって訳か、良いんじゃねぇか?」
魔将サタンと悪鬼ラセツの因子を持つ種族『悪魔族』を創った。
それに対抗したのは仙神ゼウスだった。
従者の神龍レイと共に『神族』を創造した。
「やっぱ対抗してくるわな」
「これより天界は二種族の争いとなろう。我々は悪魔族に術の指南をしてやろうか」
どれ程の時が経っただろう。
天界は二分し、神族と悪魔族の争いに変わった。
悪魔族は創造主である我々に従順だった。我々を王とし、身の回りの世話をした。そして、自身の持つ我々二人の因子を合わせ『魔術』を作り上げた。我々も持ち得ぬ力を武器に、神族との争いを激化させていった。
神族も、ゼウスの眼の力と神龍レイの気力量と俊敏性で対抗した。
そしてその日は来た。
「サタン様、ラセツ様、機は熟しました、奴らとの決戦で壊滅させてやります。是非指揮を執って頂きたい」
「分かった、行こう」
決戦の場に相応しい何も無い広い平原。
屈強な悪魔族を背に、我輩とラセツが並んで奴らと対峙した。
眼前には神族を背に、ゼウスとレイが立っている。
「いつぶりだろうか、ゼウスよ。変わらんな」
「うむ、これで余が貴様より優れておる事が証明されようの」
ラセツとレイも睨み合っている、この二人も相当な因縁がある。
「皆の者! 根絶やしにしてしまえ!」
ゼウスの怒号で開戦すると思ったが……兵達は動かない。
「根を絶やすのは貴様らだ、なぜ我等よりも劣る者に付き従わねばならん」
「何……だと……? 貴様誰に物申しているのか分かっておるのか……?」
神族の謀反か? 愚かな。
「汝等、今のうちだ、やってしまえ!」
「サタンさんよ、アンタもだ。覚悟しな」
「汝等……もか……」
我々は嵌められた。
神族と悪魔族は共謀して創造主である我々を消そうと画策していた。
「貴様ら……おいサタン! 一先ずは共闘じゃ!」
「やむを得んか……」
我々四人は奮闘した。
しかし多勢に無勢、どんどん追い込まれた。
「こやつら……サタン! 余に力を貸せ! 別の世界を創るぞ!」
「我輩の命もここまでか……タダでは終われまい、その世界に各自種族を創るぞ!」
「ふんっ、貴様等との共存など有り得ん、我等四人の思念を封じた玉を創る」
我々個々が創る四種族では二つの因子が合わさった天界二種族には敵わない。四種族が争い、又は共闘する事で力を付けさせる。
ゼウスが言うように我々の共存など有り得ん、しかしそれは我々のエゴだ。我々が生み出す者達にはこの恨みの記憶を持たせないでおく。
封玉に我々の思念を封じ、それを見てどう感じるかは彼等に任せる。
「この愚か者共を根絶やしにするのは、余の創る『仙族』ぞ」
「いや、ゼウス殿。某は我が『龍族』に全てを託すとしよう」
「フン、我輩の『魔族』こそ至高。貴様らを併呑し、天界を制すのは魔族だ」
「面白ぇ! オラの『鬼族』も混ぜて貰おうじゃねぇか!」
我等四人は最期の力で下界を創造した。
「我らに弓を引きし愚者共よ。仙、龍、魔、鬼、我等の創りし四種族が、四つの封玉と共に天界を滅ぼすであろう」
各自がそれぞれの種族を創造し、下界に生み落とした。
◇◇◇
「これが我輩の記憶である。先程も申したように、これらを見てどう思うかは汝等次第。しかし我輩の恨みを晴らしてくれるのならば、四つの封玉を集め、天界への道を創るが良い。頼んだぞ……我が子等よ……」
魔将サタンの思念は消え、洞窟内は暗闇に包まれた。マモンの火魔法で辺りを照らす。
「なるほどね、不器用な人達……四つの因子で種族を作るのが一番なのにね」
「それが長年争った者の意地なんだろ、分からなくもない」
「オレ様が来ちまった事でサタンの思念も台無しになったな。悪い事した気分だ」
「でも、なぜ四種族に記憶が無かったのかは分かりましたわね、ファーヴニルも力試しの為。あんな化物を創造する力って相当ですわよ……」
結局マモン達は四種族の戦闘法を混ぜて強くなった。彼等にとって思い描いた方法では無かっただろうが。
「何にしても面白そうだわ、ワタシ達四種族が争う意味も無いように思えるわね」
「まぁね、でもこの二千年以上の歴史で色々あっただろうからね。確かにこれを見てどう思うかは、個人によって分かれるだろうね」
マモンは天界に興味がある。
しかし仙族、龍族との共闘が良いのかは分からない、元々争っていた種族だ。
紅の宝玉を回収する。
「封印術式と思念が封じられた玉で『封玉』ね。確かに綺麗な玉だもの、宝玉ってのも分かるわ」
洞窟を後にし、グラシエルに飛んだ。




