世界の化物
「もちろんルシフェルは知らないだろうから、ここからはワタシ達の話ね。ルシフェルは天界のゲートを通りリーベン島に降り立った。あの島には何かがあると見ていいわね」
「シュエンの話じゃとてつもない化物がいたと言っていた、龍王達の手で封印されていたと。その封印が解けた後に、シュエンはその化物を退治した。その後、ルシフェルが憑依していた少女と出会っている。タイミングはバッチリだと思わないかい?」
「そのゲートは、化物が封印されていた場所と繋がってたって事ね」
シュエンの名前を聞いて、ルシフェルはやっとポテトチップスを取る手を休めた。
「あの黒髪のクソ野郎か……オレ様はあいつだけは許さねぇ」
「考えてみなさいよ、子供から得体の知れない何かが出てきたらどうにかするでしょ」
「まぁ……そうだが……」
「シュエンちゃん優秀だったのよ。向こうに帰っちゃったじゃない」
「魔力障害で暴れてないのか?」
そうだ、確認したいことがあった。
「そうそう、アレクサンド。ユーゴとアナタの娘が『父さんは治せる』って言ってたの覚えてる?」
「あぁ、言ってたな」
「ねぇサラン、魔力障害を治せる程の術ってあるの?」
「いいえ、見当もつきませんわ。そんな事が出来たらわたくしが治して差し上げてますわよ」
それもそうだ。
アレクサンドの娘はおそらく回復術師、しかも相当な腕だと見ていい。
「話を戻そう。シュエンはその化物の革鎧を身につけていたが、あれはSSレベルの魔物のものじゃない。もっと上だ」
「ねぇ、他にそんなレベルの魔物いるの?」
「あぁ、パラメオント山脈にはニーズヘッグという個体種がいる。あれは王都のギルドではSSSランクで出ていたよ」
――SSS……確かに化物ね……。
それならと三兄弟が口を開いた。
「魔都の一番東の山はおそらく金山だろうと言われているねぇ。山裾でも金が取れるからねぇ」
「あぁ、その山には『ファーヴニル』と呼ばれるドラゴンがいるが、あれも固体種だろう。一体しか確認していない、繁殖するようなものでは無いと見ている。リリスの指示で何度か討伐に向かっているが、結果は全滅だ。あのドラゴンのせいで採掘も出来ない。こっちから手を出さない限りは動く事もないがな」
――なるほど……リリスの指示で軍の壊滅を繰り返してるのね。そりゃ国も傾くわね……。
「鬼国にもおったのぉ。山脈の名前……何じゃったかのぉ?」
「エルドラース山脈ね」
「そう、その山脈に連なる山に『ヤトノカミ』と呼ばれる大蛇がおったのぉ。誰も手を出した事がないがな」
「地図に印をつけてみよう、分かるだけでも四箇所か」
アレクサンドが地図に印を付けてテーブルに広げた。ルシフェルが地図を覗き込んで観察している。
「へぇ、これは興味深いな、四つの位置関係が天界のゲートの位置に似てるぞ」
「ビンゴだね、かなり強力な魔物が天界へのゲートを守ってるって事だ。龍王はおそらくそれを見ているね」
一番近いのは東のファーヴニルだ。
ついでに大量の金まで手に入る可能性がある。
「じゃあ、ファーヴニルってのを倒しに行く? ついでに大量の金で国を立て直すわよ」
「SSSの魔物か、腕が鳴るよ」
明日は各自ゆっくりするよう伝え、食事会はお開きになった。
ルシフェルを解放してまた面白そうな事が動き出した。
――楽しみだわ。
◇◇◇
一日ゆっくりと過ごし、次の日の朝を迎えた。今日はファーヴニルの討伐に向かう。
アレクサンドを盾に、回復サポートにサラン。マモン、ルシフェル、テンの三枚アタッカーの五人パーティだ。あまり大人数で行っても役割が難しい。
討伐メンバーで朝食後のティータイムだ。
「ねぇルシフェル、アナタの魔術ってのは闘気を使ってるわよね?」
「んぁ? トウキ? 何だそりゃ?」
テンが闘気を右手に纏い実演して見せた。
「あぁ、そうだな、特に名前は知らねぇが方法は同じだ。それを属性魔力に混ぜ込んで放つのが魔術だ、簡単に言えばな。気力の変質とは言ってたが、オレ様も闘気と呼ぶ事にするか」
「そういえば、テンの闘気には魔力が混ざってるって言ってたな、無意識だと」
「うん、無意識だな、混ぜる魔力量を増やせと言われても方法も分からねぇ」
「なるほどな、今のところルシフェルにしか出来ない術か」
シュエンの守護術を突破し、瀕死のダメージを与える程の術だ。向こうには凄腕の回復術師がいる、おそらく命までは奪っていない。
「で、アナタ剣は使うのよね? ワタシの剣を使ってトドメをさそうとしたくらいだから」
「あぁ、剣は使う。でも、オレ様の異空間は開かないからな、再度開いてもその中にオレ様の剣がそのままあるかは分からねぇ」
「じゃあ、あげるわね。好きな方を選びなさい」
そう言って、龍国で拾った残り一本のリンドウの刀と、サランの父親ラオンの使っていた剣を差し出し、選ばせた。
「ほぉ、見事な武器だな。悩ましい……オレ様の剣は両手剣だ。これは綺麗な剣だな、こっちにする」
ルシフェルはリンドウの刀を選んだ。割と長めの刀だ。
「刀よ、斬ることに特化した片刃の武器ね。持ち方は教えるわ」
ルシフェルにシュエンから教わった持ち方を教えた。
「ほぉ、両手剣と通ずるものはあるな、違うのは形状と片刃ってだけか。道中の魔物を斬ってみるか」
「剣には闘気を纏うのか?」
「あぁ、そうだな、身体に闘気を纏うことで防御もするし、身体能力をあげるのにも使う」
「ほぼ鬼族の戦闘法だな……それプラス魔術って事か」
長々と話していても仕方ない、話は道中で出来る。距離でいえば一泊は必要だが夕方になりそうだ、山に近い町に寄って一泊してからファーヴニル討伐に向かう事で話は纏まった。
各自準備をして城を出発した。




