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指導の副産物

 

 三人はロックリザードの体皮の処理を始めた。ユーゴ達は口は出すが手は出さない。


「じゃあ、僕たちはお昼の準備してくるね。ユーゴ一人でいい?」

「あぁ、オレ一人で見とくよ、よろしく」


 ロックリザードの飛んだ首の断面を見る、かなり鋭い。ジュリアは仙神剣術と言っていた、自然エネルギーを使って剣速を上げたという解釈が適切だろうか。


 気持ち悪いとキャーキャー言いながらも体皮の処理をあらかた終えた。

 

「じゃあ、最後に火葬しようか」


『火遁 (ほむら)!』


 ニナが放った火遁では燃え残った。


「んー、もう少し威力が足りないか。オレがやるよ」


『火遁 炎葬(えんそう)


 燃え尽きたロックリザードからは小さい魔晶石と魔石が数個出てきた。


「やっぱすごいねユーゴ君……レベルが違うよ」


 ロックリザードの体皮と魔晶石をユーゴの空間にしまい込む。

 

「さぁ、皆が準備してくれてる、ランチにしようか!」


 ――さて、ある程度料理できてるかな。


 皆の魔力を辿り、浮遊術で飛び立った。

 


 

 緩やかに流れる小川の横で炊煙が上がっている。


「おかえり、あとは焼くだけだ。もう少し待ってね」

「スレイプニルとアルミラージがちょうど居たからな。馬の生レバー食えるぞ!」

「うぇ……生レバー不味いんだよな……」

「ロンにはまだ分からない美味しさだね!」

「ユーゴ、馬肉とレバーを切り分けてくれる?」

「あぁ、分かった」


 いい匂いがしてきた、この匂いは照り焼きか。ウサギ肉は初めてだ。

 皆が食器の用意を済ませている。円形に並んだ皆の真ん中に大皿が運ばれた。馬刺しと生レバーも一緒に置く。


「アルミラージの食感は鶏肉に近いけど、弾力がありながら柔らかくて癖がない。今回は照り焼きにしてみたよ。三人は初めて食べる味じゃないかな?」

「生レバーは塩かけて食べてくれ。馬刺しもあるぞ!」


 エマ達は並んだ魔物の料理に興味津々だ。


「いただきまーす!」


 アルミラージの照り焼きに皆のフォークが刺さる。

 確かに弾力があるのに柔らかい、不思議な食感だ。これは照り焼きで正解だ。


「美味しー! 何これ!」

「美味いよな! アタシも大好きなんだよテリヤキ」

「馬のお肉を生で食べるなんて初めてだなぁ。すごく美味しい!」


 大好評だ。

 トーマスがニコニコして皆の食べっぷりを見ている。これが作った側の醍醐味だ。


 

「はぁ……お腹いっぱい……幸せ」

「ホント、美味しかったー! 私達も魔物の捌き方教えてもらわないとね!」

「ロンの腕も上がってきたしな、教えてやってくれ」

「もちろん! 俺もまだまだ練習が必要だからね」



 湯を沸かし、食後の紅茶を皆に淹れる。


「至れり尽くせりだね……ありがとう」

「オレ達は見てただけだからな、野営も楽しいだろ?」

「うん、ハマりそうだね!」



 話は三人のランクアップ試験の反省会になった。


「私がエマを危険に晒しかけたね……ごめんよ」

「いや、結果ニナちゃんが気を引けたから問題ないよ。あれは仕方ない、その為のパーティーだからね。ジェニーちゃんはいい盾士だよ。僕なんかAランク試験の時は傷だらけだったからね……」

「うんうん、ニナのサポート良かったよ!」

「ホントに? ありがとう!」


「うん、良いパーティーだ。それにエマ、あの硬いロックリザードの首をあんなに綺麗に斬り飛ばすとはな……刀に練気と風エネルギーを纏ってたの自分で気付いてる?」

「え……そんな事してた?」


 やはり無意識らしい。


「浮遊術で風エネルギーを練気に混ぜてたから、それをそのまま刀に纏ったんじゃないか? それが結果的にあの鋭い斬撃に繋がったんだよ。オレ達もやった事ない方法だ、ジュリアは『仙神剣術』だって言ってたな?」


「あぁ、お前らに謝らないといけないな……」


 ――謝る? ジュリアなんかしたっけ……?


「アタシの剣は独学だって話をした事あるよな? アタシの師匠は回復術師だから、回復術と補助術、仙術を優先的に叩き込まれたんだ。でも、お祖父ちゃん達が扱ってた仙神剣術に憧れて、見様見真似で剣を振ってたんだ。結果褒められたからアタシは仙神剣術を扱えてたんだと思う」


 ――何の話……?


「えーっと……何を謝るんだ……?」

「仙神剣術は気力に風エネルギーを混ぜて剣に纏うんだが、ツヴァイハンダーは重いだろ? アタシはあの重い剣に浮力を持たせて、軽く振る為だけに仙神剣術を使ってたんだよ。だから『刀には必要ない技術』だってお前らに言ったんだ」


「……あぁ、言ってた気がするな」

「アタシは仙神剣術の本質を見誤ってた。剣の速さはそのまま斬れ味に繋がる。エマの剣を見て分かったよ、仙神剣術の本質は風エネルギーを付与した剣速にあったんだ」


 ユーゴも風遁を剣に纏ってみた事はあった。しかし、ユーゴはそれを魔法剣のように扱おうとした。風魔力に仙神剣術のような効果は無いだろう。


「まぁ、あの後すぐに魔法剣技に移行したからな。扱う事もなかっただろ?」

「あぁ、アタシ達はそうだろうな。でも、ロンやエマ達は違うだろ?」


 ――あぁ……そうか。

 

 急成長で薄れていたが、この四人は純粋な人族だ。気力は練気術でかなり節約できるが、魔力の量に関してはそうはいかない。その点で言えば遁術は人族に適さない、上位の遁術は魔力をかなり使う。だから魔法剣技も乱発は出来ない。


 ――オレはロンへの指導を間違ってたのか……。


「そうだな、オレも四人に謝る必要があるな……」

「ちょっと……話が読めないんだけど……?」


 ――んー、どう言えばいいかな……。

 

 考えをまとめていると、それを察したのかジュリアが喋り始めた。


「アタシが説明しようか。まず、アタシは仙族だよ」

「えっ……?」

「おい! 大丈夫なのか……?」

「こいつ等なら大丈夫だろ。他言するような事でもないし、バレても特に問題ない」


 ロンもエマ達もビックリして声も出さない。

 ようやくエマが口を開いた。


「仙族って、あの始祖四王の……?」

「あぁ、そうだ。仙王はアタシのお祖父ちゃんだ」


 四人は更に大きく目を見開いた。


「そうか、それで仙術なのか……そういう名前の術なのかってくらいで深く考えてなかったね……」


「トーマスの眼は緑色だろ? 昇化って言うんだ。人族が昇化すると魔力と気力の量が跳ね上がる、寿命もな。オレの眼も説明が難しいけど、同じようなもんだ」

「オリバーさんもそうだね」


「あぁ、だからオレ達は人族より遥かに魔力が多いんだ。ロックリザードを火葬した時、ニナちゃんの火遁じゃ燃え残っただろ? 術の精度も勿論あるけど、そもそも人族は込める魔力量に限界があるんだ」


「何が言いたいかっていうとだな、昨日ロンが扱った魔法剣技は、人族が乱発するのは難しい。扱えるに越したことはないが、基本は仙神剣術のように燃費のいい風エネルギーで剣速を上げる方法がいいと思うんだ。あとは遁術にも自然エネルギーを込めれば魔力量を抑えられて効果も高い」


 勿論ユーゴ達は仙神剣術を扱った事がない。実際にやってみない事には無責任な事は言えない。


「ちょっとオレ達も自然エネルギーを練気と一緒に纏ってみよう。片付けようか」


 水魔法で火を消し、小川で食器や調理器具を洗って空間にしまった。空間に入れていると勝手に乾くうえに雑菌の繁殖も無いから便利だ。


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