Perch
早めに起きて朝食を食べた。
レトルコメルスまで行くには一泊野営を挟む。龍族の精鋭100人との移動だ。
南門付近に皆が集まった。
「これより南東のレトルコメルスを目指す! 野営地は儂らが決める、それまでは全力で飛ぶように!」
昼食は各自軽食を用意している。
レトルコメルスへ向けて皆が飛び立った。
◇◇◇
野営を一泊挟み、まもなくレトルコメルス。
「もう春も終わりかけてるもんな、約一年ぶりか?」
「そうだね、もう一年近く経つのか。色々あったね」
「ホテルはシャルロットが連絡して取ってくれてるみたいだ。兵達の検問も免除だって言ってたな」
さすがは龍王御一行様……。
門衛は何者か知らされないまま通すんだろうな。
そして昼前にレトルコメルスに到着した。
通行手形所持者用の入口から町に入り、宿泊ホテルの前に皆が集まった。
「この宿を三泊抑えてくれているようだ。四日後の朝ここに集まるように! 各自好きに過ごすが良い! 解散!」
高級ホテルにチェックインし、いつもの四人でランチに向かう。エミリーが選んだのはスパイス料理の店だ。
「マシューに教えてもらってからカレーがお気に入りなんだよね!」
「うん、僕もエミリーに教えてもらってから自分で作るくらいハマってるんだ」
ユーゴも何度か食べた事があるが、確かに美味かった。トーマスが作ったカレーの方が好みではある。
パンと食べても勿論美味いが、ライスとの相性が抜群だ。確かにランチには最適な料理だ。
カレーライスを平らげた。
初めてのチキンカレーだったが、ユーゴはやはりビーフが好みだ。
食後のコーヒーを注文し、一息つく。
「二人はスレイプニルレースか?」
「そうだな、王都には無かったからな」
「夜はカジノだね!」
「……まぁ、お前らが無一文になる事はもう無いだろうしな……オレらはいつも通り飲みに行くか」
「そうだね、ロンは元気かな?」
「明日あたりあいつの成長を見てもいいかなぁ」
「ロンとどっか行くの? 私も行く!」
「じゃあ、アタシも付き合おうかな」
「あいつの予定を聞いてからになるけど、多分大丈夫だろ。明日の昼過ぎにロビーに集合にするか。ロンは仕事だろうから朝は多分起きないしな……」
ホテルに戻り久々のサウナだ。
サウナからの水風呂は何物にも変えられない。
夜はいつもの冒険野郎。
王都の店舗とはメニューが違うからここも楽しめる。
ギャンブラー二人を見送り、店を後にした。
「じゃ、エマの店に行くか」
呼び込みを軽くあしらって目的地に向かう。
「あれ? 店名変わってるぞ?」
「ほんとだね、中で聞いてみるか」
エマの店の名前は『Perch』だ。鳥などの止まり木という意味で、冒険者や商人達がひと休み出来る場所になって欲しいという願いを込めてつけたとエマは言っていた。あと、娼館等で飼われていた女性が飛んできて止まる事ができる場所と言う意味もある。
「いらっしゃいませ!」
「すみません、ここの前の店はどこに行ったんですか?」
「あぁ、パーチ? それなら中心地の方に移転したよ! ここを出て左に真っ直ぐ行ってみて!」
「そうですか、ありがとう」
少しのお金をカウンターに置いて外に出た。店を大きくしないといけない時期だと言っていた。レトルコメルス東の繁華街、ソレムニーアベニューの中心地を目指す。
「あ、これか。随分大きな店になったな……」
「うん、規模が違うね……」
両開きの大きなドアをくぐる。
シックな音楽が流れた空間にボックス席が沢山並んでいる。かなり客が入っていて女の子も多い。
「ほぉ……凄いな、大繁盛だ」
入口付近で立ち止まっていると、若い黒服が近づいてきた。
「いらっしゃいませ。お席にご案内いたしま……え!? ユーゴさん!?」
「ん? おぉ! ロンか! お前、背伸びたな!」
「でしょ? 服がすぐにダメになるんだよ。エマさん呼んできますね」
席まで二人を案内した後、ロンは奥に下がっていった。
「あの小汚かったロンが、爽やかな少年になったもんだな……」
「分からなかったよ……少年の一年はすごいね……」
少しすると気品溢れる女性がこっちに向かって歩いてきた。見とれる程に美しくなったエマとジェニーだ。
「ユーゴ君! 会いたかったよ……」
エマはユーゴの横に座るなり腕に抱きついてきた。ジェニーはトーマスの横に付いて抱きついている。
「一年近く来てないもんな……お店相当大きくなったな。頑張ってるなエマ」
「うん、ロン君も頑張ってくれてる。他の黒服も鍛えてくれてるからね。見違えたでしょ?」
「あぁ、いい男になった。それよりエマ……元々綺麗だけど、見違えるほど綺麗になったな……」
「ホントに? うれしいな」
ウイスキーの水割りで久々の再会に乾杯した。
「私ね、ジェニーと黒服にホールを任せてこの店のマネジメントに回ってるの。ユーゴ君達みたいに大切なお客様が来られた時は出てくるけどね」
「そうか、こんな大きな店のオーナーだもんな。忙しそうだ……なかなか相手して貰えなくなるな」
「そんな事無いよ、みんな優秀だから私をフォローしてくれるの。だから前の小さい店より楽させてもらってるかな。今が一番楽しいかも」
「そうか、頑張ってるなぁ、オレも見習わないとな……」
あのこじんまりしたカウンターバーも良かったが、高級店で隣に座るエマもいい。思えば初めて会った夜もボックス席で隣に座っていた。あの時から見れば、お互い良く頑張ったものた。
「ユーゴ君、両目の色が揃ったんだね」
「あぁ、そうなんだよ、バランス良くなっただろ?」
「不思議な色ね、すごく綺麗な色」
楽しく飲んでいると、悲鳴が上がった。




