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家族団欒


 夜にはオーベルジュ城に戻り、龍族の幹部とジュリア、シュエンとソフィアを交えて食事をとっている。

 もう皆ナイフとフォークの扱いには慣れた。が、ヤンガスだけは自作の箸を持参して食べている。相当合わないらしい。


 食事を終え、それぞれコーヒーや紅茶を飲んでいる。


「仙王とは話したが、儂らがここにおる意味は無くなった。そろそろ里に帰ろうと思うが、明日はそれぞれゆっくりと過ごし明後日の朝にここを立とうと思う。皆それで良いか?」


 皆こくりと頷いた。


「父上、俺もソフィアと帰りたいと思います。結婚してから一度も二人で帰っていない」

「えぇ、ご一緒させてもらっても良いですか?」

「当然だ、お主の屋敷は定期的に掃除しておる、ユーゴも使っておったしの。では明後日の朝に皆でここを立つ、準備しておくように。シャオウ、騎士団の宿舎に世話になっておる兵達にも伝えておいてくれるか?」

「へい、任せてつかぁさいや」


 両親共に島に帰る事を決めた。


「オレ達はどうする?」

「ワタシも行ってみたいな、龍族の料理好きなんだよ」

「じゃ、私達も帰ろっか!」

「僕も久しぶりだな、そうしよう」


 里長達は相当久しぶりに里から出たようだ。レトルトコメルスでも何泊かして帰ろうということになった。ユーゴもエマの店の状況を見たいからちょうどいい。



 ゆっくりとコーヒーを頂き、ダイニングルームから出る。


「ユーゴ、ちょっと」

「ん? どうした母さん?」

「明日の夜、父さんと三人で食事でもしない?」

「あぁ、いいね、じゃあ店は任せてくれ。どこでもいいよな?」

「うん、任せたわね」


 家族三人で食事か。

 そうだ、これからいつでも出来る。


 今日はかなり疲れた、シャワーですまそう。ベッドに入り目を瞑るとすぐに眠りについた。



 ◇◇◇



 窓から差し込む陽の光で目を覚ました。

 夢も見ない程ぐっすりと眠れた、いつぶりだろう。ソフィアはユーゴの中ではない、シュエンも戻ってきた。

 爽やかな朝だ、朝食を頂こう。


「あ、リナさんおはよう」

「おはようございます、ユーゴ様!」


 リナは朝からいい笑顔だ、一日の始まりをいい気分にしてくれる。

 ユーゴの他にはメイファ親子が紅茶を飲んでいるだけだ、皆ゆっくりしてるらしい。二人に挨拶をして少し離れた席に着いた。


「いつもありがとね、頂きます」

「はい、ごゆっくりどうぞ」


 厚切りトーストとスクランブルエッグにカリカリのベーコン、ユーゴが一番好きなコンボだ。卵かけご飯と味噌汁には敵わないが。


 食べ終わるとリナが紅茶を持ってきてくれた。


「ありがとう、オレ達明日から当分ここを出るよ」

「そうですか……寂しくなりますね」

「オレの父さんと母さんが帰ってきたんだ、母さんなんて15年振りに会ったよ。今日久しぶりに家族三人で食事に行くんだ」

「15年振りですか……それは楽しみですね! 両親かぁ……私も会ってないですね……」

「リナさんが帰省する時の護衛はオレが請け負うよ、また言ってね」

「ユーゴ様ほどの冒険者にお願いするって……そんなお金無いですよ……」

 

 紅茶を飲み終えたメイファ達が立ち上がった。


「ごちそうさま、美味かったよ。随分と仲がいいな、ユーゴの彼女か?」

「えぇっ!? かっ……かっ……彼女だなんてっ! ユッ……ユーゴ様に失礼です!」


 真っ赤な顔で凄い勢いで否定している。


 ――そこまで拒否されたら少しヘコむ……。


「こんな可愛い子が彼女だったらいいんですけどねぇ……ハハッ」

「かっ……可愛いだなんてユーゴ様ったら!」


 手で顔を覆いながらバシンと背中を叩かれた。


「あっ……失礼しました……」

「いや、いいよいいよ」



 

 その後はゆっくりと午後を過ごし、城の門前で待ち合わせた。


「おまたせユーゴ!」


 オシャレに着飾ったソフィアと、いつも通り服に無頓着なシュエンが並んでいる。


 ――こんな日が来るなんてな、感慨深いな。


「どう? 似合う? 父さんと一緒に選んだの」

「うん、よく似合ってる。ほぼ母さんが選んだんだろ?」

「よく分かってるわね、父さんほんと服に無頓着なのよね」

「俺には分からん。絹のシャツが一番良いからな」


 母と言うよりは姉の様だ。見た目はユーゴより少し年上くらいだ。


「さぁ、行こうか。オレ達がいつも行く大衆酒場だけど美味いよ」

「そう、楽しみね!」


 

 南門に向けて三人で歩く。

 最後のハイキングの時はユーゴを真ん中に手を繋いで歩いていたが、今日はソフィアを真ん中に並んで歩いてる。ユーゴが一番背が高くなった。

 両親から見たらユーゴはしっかり成長してるのだろうか。二人の横顔を眺めながら歩く。


「着いた、ここだよ」

「あら、冒険野郎」

「知ってるのか?」

「あぁ、俺達も良く行ってたな、ここの他の町にもあったな。懐かしい、良い店を選んでくれた」


 中に入り三人ともビールを注文し、両親に食べ物のチョイスを任せた。


 三人でグラスを合わせる。


「あんなに小さかったユーゴとお酒を飲めるとはね」

「あぁ、あの魔神が解放されたと言う事実はあるが、今日くらいは楽しんでも罰は当たらないだろう。マモンやアレクは案外あの魔神を上手く扱う気もするな」

「えぇ、シュエン……苦労かけたわね……」


 ――おいおい、暗くなってるって……。


「はいはい! そんな空気じゃ酒が不味くなるって!」

「あぁ、そうだな」

「もう一回、カンパーイ!」


 ビールが美味い。

 そういえばシュエンが酒を飲んでいる姿を見るのは初めてだ。中の魔神の事もあって飲んでいる場合じゃなかったのだろう。目の下のクマもすっかり無くなっている。


「このソーセージが美味しいのよね」

「あぁ、本場のベールブルグの物には敵わないが、ここのも十分美味い」

「あぁ、二人とも王国内を旅してたんだもんな。オレも行ったことない所ばっかだなぁ」


「明日から向かうのはレトルコメルスでしょ」

「あぁ、そうだな。何泊かしようって話だったな」

「良かったね、ユーゴ」


「良かった? 何が?」

「何がって、エマちゃんに会えるじゃない」


 ――あっ……そうか、母さん全部知ってるんだ……。


「おい! 趣味悪いぞ母さん!」

「フフフッ、あなた結構モテるのよね」

「おいおい、エマって誰だ?」

「ユーゴの良い子よ、また紹介してもらいましょ」

「ほほう、それは楽しみだ」

「まだ紹介する様な間柄じゃねーよ……」

 

 あのハイキング以来の家族団欒。

 明るい母さんのお陰で、いつも笑いが絶えない家庭だったのを思い出した。これからいつでもこんな時間を過ごせる。

 


「そうだ、春雪はどうする? 母さんが使ってた刀だろ?」

「でも、あなた今二刀流じゃない」

「ユーゴ、二刀流なのか?」

「あぁ、里長からリンドウさんの打った刀を貰ったんだ。これだよ」


 龍胆(りんどう)を父さんに渡した。

 

「これがリンドウ兄さんの……? おいおい、とんでもない物貰ったんだな……」


 シュエンも流石に驚いた。

 確かに斬れ味は凄まじい。


「メインはこの龍胆を使ってるから、もう一本ヤンさんから買おうかなと思ってる。父さんの置き手紙の通り、春雪はオレと里を繋いでくれた。母さんが帰ってきたならこの刀は母さんが使うべきだ」

「そう? じゃあ預かるわね」


 春雪をソフィアに渡した。

 


 

「ふぅ……いっぱい食べたわね……ユーゴ、今から父さんとデート行ってくるわね!」

「あぁ、15年振りだもんな。ゆっくり楽しんできてよ」


 冒険野郎を出て二人と別れた。

 二人は腕を組んで繁華街のある路地に入っていった。



 楽しかった。

 仲間達と飲むとはまた違う楽しさだった。

 

 さぁ、城に帰ろう。

 シャワーを浴びてベッドに横たわる。いい一日だった。

 

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