魔神の正体
「まず、私は『天界』から来ました。私は『神族』で、あの魔神は『悪魔族』です。正確に言えば、あの魔神『ルシフェル・ドラクロワ』は神族と悪魔族との間に生まれました。向こうでは『魔神ルシフェル』と呼ばれ恐れられていました」
ユーゴやマモンの様なミックス・ブラッドは魔力が異常に多い。魔神ルシフェルもおそらくそうだろう。
「その魔神は霊体だったと聞いた。お主に憑依していたと」
「えぇ、ルシフェルは大昔に命を落としたと聞いています。しかし、体外離脱の特異能力により、憑依を繰り返し生き長らえてきた過去があります。私も幼かった為詳しくは知りませんが」
「それが何故君に憑依した?」
「ルシフェルは我が国に封印されていました。その封印が何故か解けた、神国は大混乱に陥りました。国の騎士達は霊体となり逃げ出したルシフェルを追った。追い詰められたルシフェルがたまたま私に憑依し、たまたま私が『魔封眼』を開眼していた。そこからの記憶はありません。気がついたらこの世界にいました」
理解しようとソフィアの目を見て聞いている者、腕を組んで微動だにしない者、驚きの表情で口を開けて聞いている者、様々だ。仙王と里長以外誰も口を開かない。
魔神ルシフェルという者を実際に見てしまった。信じられない話ではあるが、事実として受け入れる他ない。
「気が付いたらリーベン島におったと言う事か?」
「はい、魔封眼の力なのか、私の自我が表に出た時に封印術を施しました。そして港付近で黒髪の皆さんに会い、良くしてもらいました。その後船で大陸に渡り、シュエンと出会い今に至ります。私は幼く未熟だった、今までルシフェルを封印できたのはシュエンのお陰です」
「……なるほどの。皆には話したが、封印の祠には宝玉がぴたりと収まる四つの窪みがあった。四つの宝玉をその窪みにはめると、その天界に通じる道が出来ると思って良いかもしれぬ」
「そうか、ヤマタノオロチの封印が解けたのは、君に憑依した魔神がそこを通ったからという事か」
「……はい、そうかもしれません」
シュエンとヤンガスが「あれは死ぬかと思った」と話している。
シュエンが身体中の全気力を使って倒した怪物だ。確実にSSSクラスの魔物だろう。
「鬼人シュテンの封印は、宝玉から出るオーラに触れただけで解けた。その仮説は間違いないと見て良いでしょう」
――そうか、父さんは鬼人の封印現場を見ているのか。
「なるほどの。そう考えればあの化物の封印が唐突に解けたのにも合点がいく。あれから様々な仮説を立てたが納得出来んかった。まさかの理由ではあったがな、考えても分からんはずだ」
これはもう軍議ではない。
皆の常識が追いつかない為に静まり返っている。
次の話は謎の多い宝玉の力についてだ。
「儂や魔王マモンが辿り着いた、宝玉を四つ集めると封印術式の反転と何らかの創造の力が働くという仮説はそう遠くは無かったようだ」
「そうだな、ソフィアの封印術式が反転して解かれ、彼女とルシフェル、二人の身体が創り上げられた」
「……はい、私が着ているこの服は、ルシフェルをユーゴに封印した時に着ていた服です。私の思念を元に創造されたのでしょうか……あとシュエン、宝玉によって復活したルシフェルは霊体と同じ姿だった?」
「あぁ、奴の霊体の姿はハッキリと覚えている、全く同じ姿だった。服は着ていたがな」
ソフィアは頭を抱えた。
「だとしたら……ルシフェルの生前の姿が宝玉の力によって創り上げられたと思って良いでしょうね……」
頭を抱えたソフィアは、思い出したように顔を上げた。
「あっ! ユーゴ、あなたルシフェルと剣を交えたのよね!?」
「あぁ、オレが受け止めた」
「眼の色はどうだった!? 琥珀色じゃなかった!?」
「んー、鋭い目つきだとは思ったけど、そんなに珍しい眼の色だとは思わなかったな……」
「そう……良かった。なら完全復活までは時間はあるようね……」
話が進む度に皆の表情がコロコロ変わる。
ギリギリ付いてきている印象だ。
「ソフィア……詳しく頼めぬか……」
里長が補足を求める。
「あぁ、はい。今のユーゴと私の眼の色は青紫色です。神族は必ずこの青紫色の眼を開眼し、何らかの能力を得ます。私であれば封印術に特化した魔封眼を10歳で開眼しました。ユーゴは今20歳です、ここまで完全に開眼しないのは稀なんです。私達が中に居た事で遅れた可能性もありますが、希少な能力ほど開眼が遅い、ユーゴの眼の力は神眼と言います。時を止める程の眼の力です」
さすがに皆がザワザワし始めた。
それはそうだろう、ありえない能力だ。
「確かに……あの時シュエンの命は儂ですら諦めた。気付けばユーゴが奴の剣を止めていた。目を疑った……それがその神眼とやらの能力という事か?」
「いや、まだ自由に使えません。しかもあの後ごっそり魔力が減っていました……乱発は出来ません」
――オレの眼の力は相当凄いらしい……これが自由に使えたら相当強いだろうなと思うけど……。
何せ使い方が分からないから仕方ない。
「ルシフェルは先程も言いましたが、神族と悪魔族のミックス・ブラッドです。神族の血で眼の力を開眼しました。でも奴の眼の色は琥珀色でした。『魔眼』と呼ばれ、ユーゴの神眼と同じく時を止める程の力です。再度開眼すれば、奴の相手はユーゴにしか出来ないと言っても良いでしょう」
一気に静まり返った。
最初に口を開いたのは里長だった。
「ユーゴがその力を開眼したのは僥倖であったの。強大な力に対抗できる能力者が味方におると言うのは士気に大きく関わる。ユーゴは儂の優秀な弟子だ、その力は更に大きく成長するものと儂は楽しみでならん」
里長の言葉で皆は大きく頷いた。
ユーゴにとってはプレッシャーでしかないが、魔神ルシフェルへの対抗戦力の筆頭である事は自覚しなければならない。
「ルシフェルとやらは、ユーゴに剣を止められた後に大人しく引いた。おそらくその眼の力を察したのであろう、勝ち目がないと。奴らは五年はここに手を出す事はない口ぶりであったの」
「あぁ、リリスが斃れたのもまだ一月程前の話だ。国を建て直す期間であると思ってよい。奴は相当な暗君であったと聞く」
魔都を建て直す期間、魔神が力を取り戻す期間。
前者は予め決めていた期間なのかもしれない。




