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開眼

 

 皆はあまりの事に動けずにいる。

 それよりシュエンだ。


「エミリー! 頼む!」

 

 言い終える前にエミリーは駆けつけて、シュエンに快癒をかけた。傷だらけだった身体が癒える。大丈夫だ、生きている。


「そっちの女性はおそらくオレの母さんです! 手当てお願いします!」


「よし、治療施設へ二人を運べ!」


 ソフィアであろう女性は砦内に運ばれて行った。その声でシュエンが目を覚ました。


「ん……」

「父さん! 大丈夫か!?」

「あぁ……ユーゴか……俺は……そうか、あの魔神にやられたんだな……」

「あぁ、エミリーが治療した、大丈夫だ。オレへの恨みはまだあるか?」

「お前への……恨み? 何の事だ……?」


 魔力障害が治っている。

 エミリーの快癒はやはり万能だった。


「良かった……父さん、魔力障害に冒されてたんだぞ……」

「俺が、魔力障害に……? そうか……マモンやアレクは?」


 ――そうか、マモン達が仲間だという記憶のままか。


「それは後で話す、立てるか?」

「あぁ、大丈夫だ」


「シュエンよ、正気を取り戻した様だの」

「あぁ、父上。正気……か……迷惑をかけたようだ」

「お前ぇ……良かった……」

「おいおい、ヤン。泣く奴があるかよ」


 

 想定外の事が起きすぎた、軍議にかける他ない。皆が砦に向け帰陣した。

 


 

 ユーゴとシュエンは治療施設に向かった。

 エミリーとメイファがベッドの脇にいる。横たわる女性は間違いなくソフィアだ。ユーゴの記憶が鮮明に呼び起こされた。


「ソフィア……また会える日が来るとはな。姉さん、大丈夫だよな?」

「あぁ、問題は無い。気を失っているだけだ、直ぐに目覚めるだろう。念の為エミリーが快癒をかけている」


 いつ目覚めるか分からないが、シュエンは傍を離れない。皆で見守っていると数分後、ソフィアは目を開けた。


「ソフィア! 俺だ、分かるか!?」

「大きな声出さないでよシュエン……」

「良かった……」


 シュエンは、両手でソフィアの手を握り泣いている。


「息子の前で大泣きしないでよ……ユーゴ、久しぶりね。夢で会ったっきりかしら?」

「あぁ、今日一瞬だけど時が止まったよ。母さんの言う通りだった」

「そうね、両眼の色が揃ったわね。『神眼(しんがん)』の開眼よ、気付いてる?」


 ――両眼……?


「うん、ユーゴの両眼は青紫になってるよ、ほら」


 エミリーから鏡を受け取り確認する。

 ユーゴの両眼は、ソフィアと同じ青紫に変わっていた。新しい眼の力だ、扱い方はまだ分からないが。


「眼の力を使ったんだな、ごっそり魔力持っていかれたよ……多用できる力じゃないな」

「それでもすごい能力だよね……最強だよユーゴ」


 ソフィアは身体を起こし、ベッドから脚を下ろして座った。


「おいおい、無理をするなよ?」

「大丈夫です。シュエンのお姉さん、エミリーちゃん、ユーゴが大変お世話になってます。こんな息子ですが、これからもよろしくお願いします」


 座りながらではあるが、ソフィアが頭を下げている。


 ――なんだろう、凄く恥ずかしい……。


「母さん……今言うことかよ……」

「ずっと伝えたかったのよ。他の皆様にもお礼を言わないと」

「いいって! オレが皆様に伝えてるから!」

「いや、ユーゴ、母親ってのはこんなものだ。いつまで経ってもお前は子供なんだよ」

「はぁ……そんなもんですか……」


 メイファに言われるとそう答えざるを得ない。

 それより、ソフィアはユーゴの中に居ながら外の出来事は把握していたという事だ。メイファやエミリーを知っているという事はそういう事だろう。となるとあの魔神もだ。


「さぁ、お腹は空いてないか? 炊き出しのいい匂いがする、昼食にしよう」


 そういえば、もう正午を過ぎてだいぶ経ってる。皆で炊き出しを頂き、腹を満たした。ソフィアにとっては約15年振りの食事だ、本当に美味しそうにスープを味わっていた。




 炊き出しを食べた後に軍議に顔を出す様に伝言があった。シュエンとソフィアもだ、当然最重要人物だ。


 ホールに入ると、席に着いている皆の注目を集めた。


「目が覚めたか、我はラファエロ・ノルマンディだ。席についてくれ」

「初めまして仙王様。俺は龍王の末子、シュエン・グランディールです。こちらは妻のソフィアです。ご迷惑をおかけした様で……」


「ソフィアです。皆様、息子がお世話になっています。そしてシュエンがご迷惑をおかけしたようで……」


 ――母さん……目を覚ましてからずっと頭下げてるな……。

 

「君達の話はユーゴから聞いている。魔王マモンから君の記憶を見せられた様だ。君達二人は人知れずこの世を守ってくれていたようだ、礼を言う」

「いえいえ、そのような事は……結果的に失敗に終わった様です……」


 ユーゴ達が席に着いた事で軍議が開会した。


「さて……想定外の事態が起きすぎた。何から話を始めて良いやら分からん……まず、物見も帰って来ん、おそらく見つかって命を落としていると見る他ないようだ……後は、我々が動けんかった故に皆が動けんかったのは理解している。完全に我々の落ち度だ……」

「儂からも詫びさせてもらおう……すまんかった……まさか異空間内の宝玉が共鳴するとはの、完全にやられた。ユーゴ、宝玉を出してくれ」


 ユーゴは空間内から宝玉を出し、里長と仙王の方に歩いた。仙王に近づくにつれ、翠の宝玉は淡い光を放ち始めた。


「これに気が付いていればこの結果にはならなかったかもしれぬ……もう遅いがな」


 確かに、皆すぐに取り出せる様に常に少し空間を開いている。完全に閉じても共鳴するのだろうか。里長の言う通りもう遅いが。


「さて、ソフィアと言ったかの。お主は何者なのか、そしてあの魔神は何者なのか。もう隠すのは難しいと思わぬか?」


 母さんは真っ直ぐに里長を見つめて口を開いた。


「はい、お察しの通り私はこの世界の者ではありません。私が分かることであれば全てお話しします」


 ソフィアの正体が明かされる。30年以上連れ添ったシュエンですら知らない事だ。

 皆の視線がソフィアに集まる。


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