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マモンの目論見


 朝日が昇り目を覚ます。


「おはようスヒョンちゃん」

「あぁ、朝か……おはようマモンさん。着替えて帰ろうかな」

「また機会があれば来るわ、またね」

 

 スヒョンを見送り、ホテルの朝食を頂く。

 今朝もアレクサンドは上機嫌だ。


 

 更に北のノースラインで一泊し、山を越え北上する。



 シルヴァニア城に着いたのは、レトルコメルスを出て一週間後の昼だった。


「やっと着いたね、充実した旅だったよ」

「えぇホント、とりあえずシャワーを浴びたいわ……」


 すぐにサランが駆けつけた。


「二人ともお帰りなさい、マモンの部屋の改修は終わってますわよ。シャワーもありますわ」

「あら、もう出来たの? でも出て半月経つものね、ありがとう」

「昼食も用意させますわ、後ほどダイニングにいらして」


 改修を終えた部屋に入る。

 センスのいい壁紙や装飾品、大容量のウォークインクローゼット、家具や寝具に至るまで全てが素晴らしい。さすがサラン、マモンシの好みを熟知してる。


 汗を流しメイクを直す。

 ダイニングに行くとアレクサンドは既に食事を終えかけていた。


「おぉ、流石だねサラン……マモンが来ると同時にランチが運ばれて来るとはね」

「秘書として当然の事ですわ。わたくしも隣で頂きますわね」

「完璧ねサラン……えぇ、一緒に食べましょ」


 食後のコーヒーを飲むアレクサンドの前でゆっくりとランチを頂く。


「ヴァロンティーヌはこちらに来ますの?」

「あぁ、そうだわサラン、ヴァロンティーヌ達は二、三ヶ月後に、おそらく50人足らずで来るわ。城下にでも彼女達の屋敷を用意出来る?」

「えぇ、分かりましたわ、レオパルドの様な屋敷が良いですわね」


 旅の話をしながら食事を終え、紅茶をお願いした。


「明日の午後、皆にホールに集まる様に伝えましたわよ。テンやシュエンにも伝令を送りましたわ。王都より使者が手紙を携えて来ましたの、明日までに読んでおいてくださる?」


 サランから手紙を受け取った。

 

「えぇ、アナタ秘書として完璧ね……明日の午後ね、分かったわ」



 ◆◆◆



 次の日の昼食後。

 サランの召集でシルヴァニア城の一室に皆が集められた。長机の奥にマモンが座り、それぞれが向かい合うように席に着く。サランはマモンの斜め後ろに(はべ)っている。


「いきなりの召集、悪かったわね。今から今後について会議するわ」

「まずは手紙の内容だね、王都での出来事から聞こうか」


 長兄ベアルが会を進行する。


「えぇ、王都ではシュエンちゃんの息子達が対応したわ。彼らにワタシとテンが魔王、鬼王になったことをウェザブール王に言付けて欲しいとお願いしたわ」

「ユーゴが? 何故奴らがそんな大任を?」

 

「……さぁね、ワタシとアレクサンドに因縁がある子がいるじゃない? だから頼み込んだんじゃないかと思うわ。あと、ワタシ達が王都に向かっているのが筒抜けだった。待ち構えていたから間違いない、そういう能力者がいると思っていいわね」

「あぁ、おそらく今話している声までは分からないと見ているよ」


 マモンが魔王を名乗ろうとしてる事を知らなかったし、ユーゴの中の魔神の事も初めて聞く様だった。マモン達が話している事までは分からないと見ていい。


「次だけど、ワタシ達は宝玉を求めてる。テンの封印に使われてた紅と黄の宝玉はアレクサンドが持っている。 (すい)はユーゴが龍王から託されているみたい、蒼は仙王が持ってると見ていいわね」


「宝玉を? 何の為にだ?」

「何が起きるか分からないなんて面白そうじゃない? シュエンちゃんの奥さんを助ける為にも使えないかとも思ってるの」

「ただの好奇心か、マモンらしいな」


 シュエンの前で魔神の復活の為だなどと言える訳がない。これも好奇心。シュエンの妻の事も嘘ではない。


「最後に王都からの手紙の内容ね。まず、ユーゴの二人の仲間はワタシとアレクサンドに恨みを持ってる。だから、一体一で戦ってあげても良いわよって話をしてきた。ワタシ達が殺されても文句は無い、その代わり向こうが負けたら宝玉を寄越すとね」


「……おいおい、一国の王が随分と無謀な約束をしてくるもんだねぇ……」

「手紙には、この申し入れは受けると返ってきたわ、半月後に場所は王都の北の砦よ。勿論、こんな話を素直に飲むとは思わない、兵を伏せてワタシ達を葬りに来るはずよ。そこにワタシの目論見(もくろみ)がある」


 皆何も言わずにマモンを見つめている。フラッと出ていって勝手に危ない交渉をして来ている、当然だ。


「目論見? 聞こうか」

「えぇ、今王都には仙王と龍王が来てる。ワタシ達の約束を反故にして砦に潜んで待っているはずよ。後は色々な可能性を考えて言わないでおくわ」

「まぁ、何が原因で筒抜けになっているか分からないからね」


「とにかく、ワタシとアレクサンド、サランとシュエンちゃん、テンの五人で行くわ。その後をベアル兄さんとベンケイがそれぞれ軍を率いて、魔力を抑えて潜んでいて欲しい」

「あぁ、分かった。物見が多数いる可能性もある、慎重に進もう」

「えぇ、ワタシ達も速度を落として進むわね。慎重に進むに越したことはないけど、別にバレても予定は変わらないわ。ワタシからは以上よ、他には何かある?」


 ベアル兄さんが静かに手を挙げる。


「王都に行って何を実行するのかは聞かないでおく。しかし、その延長上に奴らに対する宣戦布告があるなら、五年は停戦を約束をしてきて貰いたい。リリスの死後の後片付けはまだ残っているからな、国を建て直す時間が必要だ」


「えぇ、分かったわ。こっちにそのつもりが無くても、向こうは厳戒態勢を敷いてるからね。話し合いは必要だと思うわ。他になければ会議を締めるわね、錬気術と仙術の修練は引き続きよろしくね」


 

 手紙の日時は半月後だ、どう転ぶかは分からない。でも、タダでは帰らない。



【第四章 新魔王誕生編 完】

 

【作者からのお願い】


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