宝玉の所在
「分かった? アナタの中には面白そうなヤツが居るみたいね」
ユーゴは呆然としている。
整理しているのだろう。さぁ、どう受け取るか。
「ユーゴ……大丈夫かい?」
「あぁ、大丈夫だ、皆には後で話す。マモン、礼を言うよ」
「良いわよ、これから聞くことに繋がるからね」
「あぁ、知ってることなら話すよ」
――しっかり正面から受け止めたわね、強い子だわ。
「アナタの母親は封印術に長けてたみたいね」
「あぁ、そうみたいだな」
「ワタシ達が鬼人シュテンを解放した時、そこには黄と紅の宝玉があったの。シュエンちゃんの話では、リーベン島にはとんでもない化物がいたそうね」
「ヤマタノオロチの事だな?」
「そう、それを龍王が封印したと。その化物を、翠の宝玉で封印したんでしょ? 龍族の元の土地にあるなんて嘘ね。かなりの無駄足を運ばされたわ。少し怒ってるのよ? まぁ、いい掘り出し物があったのは事実だけどね」
「……あぁ、嘘だ。オレが持っている」
「え!?」
「ユーゴが持ってるの!?」
「……仲間も知らなかったようね」
――なんて事、ユーゴが持ってるのね。フフッ、思ってもいない良い方向に向かってるわね。
「オレのこの眼は何か分からないが、空間魔法が使えるようになった、その中に入れている。オレは誰とも契約していない。アレクサンドにはこの意味が分かるな?」
「……あぁ、キミを殺せば諸共消えるな」
「なるほどね、力ずくで奪うのは無理って事ね」
なるほど、龍王に空間魔法は使えない。
ならばユーゴに託すのは自然な流れだ。
「……なぜ宝玉を集める?」
「宝玉には強力な封印術式が組み込まれてる。封印術の勉強をしてみたの。宝玉を四つ集めると、封印術式が反転する可能性がある。アナタの中の悪魔を復活させる鍵があるとすれば、宝玉以外に考えられないと思わない? アナタを殺しても出てくるかもしれないけど、悪魔は霊体みたいだし。封印の術式によっては一緒に消えてしまう可能性もある。しかも宝玉までとなるとアナタは殺せないわ」
「……おい、復活させようとしてるのか? どうなるか分かってるのか?」
「面白そうじゃない? ワタシ達より強いヤツだったら喜んで従おうと思ってるわ。その時はアナタ達に宣戦布告ね」
「宝玉を集めた所で、何も起きない可能性もあるぞ?」
「そうね、その時は別の方法を考えるわ。ワタシ達は気が長いの」
今は宝玉の所在が分かればそれでいい。
問題は蒼の宝玉だ。
「蒼の宝玉は仙王の空間魔法の中かしらね?」
「さぁな、その可能性が高いんじゃないか? オレは当然知らない。黄と紅はアレクサンドの空間の中だろ?」
「そりゃそうね」
「あぁ、ボクが持っている。もちろん契約は解除してるぞ」
おそらく蒼は仙王が持っている。
全ての宝玉は異空間の中にあるという事だ。
(アレクサンド、仙王はここにいるとみていいわよね?)
(あぁ、僅かに魔力を感じるからな。魔力を解放している。抑える気がないってことは、迂闊に攻め込ませない為の牽制と見ていいだろうね)
(じゃあ、この間してた話を実行しても良いわね。条件は揃ったわ)
(そうだね、どう実行する? 考えがあるのか?)
(任せてちょうだい)
「提案があるわ」
「なんだ」
「そこの二人はワタシ達に恨みがあるのよね? 戦ってあげても良いわよ? 殺されても文句は言わないわ。ワタシ達は半殺しにはしても、殺さないであげる」
「で? こっちが負けたら宝玉を寄越せと?」
「理解が早くて助かるわ」
ユーゴが二人の方を向く。
「私は今すぐにでもあのクズに斬りかかりたいよ。でも、そんな事を勝手に決められる立場じゃない」
「僕も同じ意見だ。その宝玉の価値は知らないけど、勝手に賭けていい代物じゃない事は分かる」
「まぁそうね、相談するといいわ。ワタシ達は魔都のシルヴァニア城にいる、返事はいつでも良いわよ。ワタシはウソが大っ嫌い、ここを攻める気がないのは本当よ」
「分かった……お前らは本当に暇潰しで行動してるんだな……」
「あら、悪い事じゃないでしょ? ワタシ達は寿命が長いの、楽しく生きなきゃ。じゃあね」
マモン達は帰ったと見せかけて、そのままの足でレトルコメルス方面に向かった。
ただ、マモン達の行動を感知出来る者がいるのは間違いない。レトルコメルスの門衛にカードを見せるのは危険だ。領主のオリバーはやり手だ、魔力を極限まで抑えて空からヴァロンティーヌのレオパルドに行こう。
「さぁ、あんな話を素直に飲むはずが無いわ、必ず後ろに兵を配置して反故にしてくるはずよ」
「必ず仙王と龍王は来るね、ボク達を一気に仕留めたいはずだ」
「その時に実行ね、楽しみだわ」




