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シュエン・フェイロックの日記 2


 治療術で腕の傷を癒やしながら、新しい刀をマジマジと見る。木陰から差す陽の光が、刀身に反射して目に刺さる。


「しかしすごい切れ味だな」

「だろ? 文句なしの特級品だ。これ以上の刀ぁ打てる気がしねぇ」


 とんでもない刀をもらったもんだ。

 こいつに見合う様な剣士にならないとな。


「さて、帰るか!」


 町に向かって帰ろうと、数歩進んだ時だった。

 ドンッ! と突風の様に禍々しい魔力が背中を押した。


「なんだよこの魔力……」

「そういやここ、封印の祠の辺りじゃねぇか……?」

「これ、逃げたほうが良いよな……」


 そう思ったときにはもう遅かった。


「おいおい……マジかよ……」

「実在するのかよこいつ……」


 八つの首に八つの尾。

 神話の世界の化物が目の前に現れた。


「ヤマタノオロチだ……」


 八本の頭が、それぞれに俺達を視界に捉え揺れている。


「やるしかねぇぞ! 気合い入れろ!」

「全力で攻撃する! 守りは頼んだぞ!」


 ヤンは化物の正面に立つと、練り上げた気力を幅広の愛刀に注ぎ身構える。

 八つの首が、それぞれ意志を持つかのようにヤンに降り注ぐ。


「うぉー!! シュエン、横から叩き斬れ!」


 言われるまでもなく渾身の力で斬りかかる。


「キィーン!」


 高い金属音が鳴り響いた。


「何だよこの硬さ!」


 普通に斬りかかったんじゃどうにもならない。更に精度を上げ気力を練り上げ、刀に纏う。


『剣技 乱れ氷刃(みだれひょうじん)


 練気で研ぎ澄ました刃を、無数に斬りつける連続攻撃。


「ギャァァァ!」


 首を一本切り落とした。


 よし! いける!

 と思った瞬間、八本の尾が俺に襲いかかった。


「ぐぁっ!」


 後ろに突き飛ばされる。


 ヤンは残り七本とはいえ首で手一杯だ。近づけば八本の尾が飛んでくる。

 どうする……。


「ヤン! 十分……いや五分だけ持ちこたえれるか!?」

「言ってる間に早く練り上げろぉ!」


 体中の気力。頭の先からつま先までの全気力を練り上げる。

 集中しろ……失敗すれば俺たちは死ぬ。

 ヤンが鍛え上げたこの刀を信じろ。薄く鋭く、全ての練気を刀に纏わせる。今の俺が繰り出せる最高の一撃だ。


「ヤーン! 伏せろォォォー!!」


『剣技! 横薙一閃(よこなぎいっせん)!!』


 全力渾身の横薙ぎの斬撃が、ヤマタノオロチの全ての首を切り飛ばした。

 斬撃はそのまま後ろの柳の大木を切断し、岩山の奥深くに吸い込まれた。


「うぉぉ……すげぇ……」


 顔を上げたヤンが感嘆の声をあげた。


「ヤン、この刀の名前決めたよ」


 今の一撃で閃いた。


柳一文字(やなぎいちもんじ)だ」


「おいおい、柳の前にとんでもねぇもん斬ってるだろ……まぁお前らしいわ」


 二人で力尽きて倒れ込んだ。


「死ぬかと思った……気力切れだ」

「だな。良く生き残ったよ……気力吸い取りゃ良かったじゃねぇか」

「流石の俺も気力まで吸収できねーよ」


 こんな禍々しい魔力だ。誰も気づかない訳がない。父と兄二人が駆けつけて、目を丸くして見ていた。


「お主らがやったのか……?」

「貴方の息子と俺の刀が斬ったんですよ。里中に触れ回ってくださいよ……」


 そのまま二人で気を失った。

 


 ◆◆◆


 

 丸二日寝込んだらしい。

 全気力使い果たしたんだ。よく死ななかったもんだ。


「シュエン様、ご無事で何よりです。目覚め次第御前にと里長より言付かっております」

「あぁ、わかった。でもヤンが心配だ。その後に行くよ」

「かしこまりました。そのようにお伝え致します」


 二日も床に伏せていたからか、体がダルい。

 鍛冶屋街のヤンの鍛冶場に入ると、元気に金属音が鳴り響いている。

 今日も元気に武具制作に勤しんでいるようだ。


「おいおい、お前鉄人だな……もう大丈夫なのか?」

「おぉ、生きてたか! 昨日ヤマタノオロチの体皮を持ち帰ってきてよ。すごいぞこいつぁ!」


 変態だなこいつは……。

 身の危険よりも創作欲が勝るらしい。


「体皮は大量にあるからな。とりあえずは革鎧と篭手と脛当てを作るか。当然お前の分もな、出来たら伝えるわ」

「そりゃありがたい。相当な物が出来そうだな」

「これも見てみろよ。こんなもん見たことねぇよ」

「でかいな。確かにここまでデカいのは見たことない」


 拳大の『魔晶石』だ。小さい魔晶石ですら、通常の魔石とは比べ物にならない。

 長い年月で出来た幾重にも重なる層が、鍛冶場の灯りを蓄え発光しているようだ。

 

「そうだ、春雪はどうする?」

「あぁ、俺にとってもヤンにとっても思い出深い刀だ。でも、お前さえ良ければそのまま俺が持っておきたい」

「元々お前ぇに譲った刀だ。返せなんて言わねぇよ。最高の状態に研いでおくからまた取りに来いよ。柳一文字も手入れしとくから置いていけ」

「分かった。ありがとな」


「ヤン……」

「ん? なんだ?」


「いや、何でもない。お前が親友で良かったよ」

「何だよ気持ち悪ぃな」

「刀と防具はまた取りにくるよ」

「おう、楽しみにしとけよ!」


 柳一文字を手渡し父の元へ向かう。

 

 

 ◆◆◆


 

 龍王の御前。

 二人の兄、カイエン、コウエンが両脇に立っている。


「体はもう大丈夫か?」

「えぇ、二日も休みましたので」


 心なしか、父の顔が優しく見える。


「封印が何故解けたのかは判らぬ。しかし、お主らが祠の前に居たお陰で里の危機は免れた」

「たまたまですよ。俺たちが一番驚いた」


「儂らがヤマタノオロチを封印したのは知っておろう」

「へ……? いや、存じませんでした。神話の化物が目の前に出てきて驚いたんですから」


「そうか、儂らですら封印するので精一杯であった化物をお主は斬り伏せた。お主らを認めざるを得ぬであろうな。なんぞ望みはあるか?」


 俺の心はもう決まっていた。

 

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