魔力障害
「鬼人が鬼王に、ワタシが魔王になったからよろしく伝えといてちょうだい」
四人は分かり易く驚きの表情を浮かべた。
「鬼人の名前は……?」
「鬼王だって言ったじゃない。そうね、伝えとかないとね。『鬼王シュテン』よ」
「鬼族と魔族は共に動くのか?」
「そうね、今は鬼族も魔都にいるわ。魔都が拠点になるでしょうね」
相手がユーゴ達で良かった、話がスムーズだ。知り合いという感じではないが、因縁はある。
「……あとアナタ達、すごく警戒してるみたいだけど、ワタシ達にここを攻めようなんて気は無いわよ? 勝てる気がしないもの。今のところはね」
「勝てる見込みがあれば攻めるような口振りだな……けど、なんのために二国を落とした?」
「難しい質問だわ。そうね……暇つぶしかしら」
「暇つぶしで国を落としたのか……?」
「もちろんそれだけじゃないわよ。シュテンは鬼国に、ワタシは魔都にそれぞれ恨みがあったからね。王を討ったらこうなったのよ」
「恨みと言えば、トーマスとエミリーのお前達への恨みは消えてないからな」
「あら怖いわね。じゃ、また来ようかしらね、ワタシ達は暇だから」
仙、龍の戦闘法を取り入れてるうえに王都には魔族もいる。彼等も魔族の戦闘法も取り入れた可能性がある。
「父さんは何をしている?」
「シュエンちゃんはシュテンと……ややこしいわね二人の名前……魔都で鬼族と魔族をまとめているわ。シュエンちゃんは頭が良いからね、色々任せちゃってる。あとは、戦闘技術の指南をしといてって伝えといたけど」
「わざわざそれだけを伝えに来たのか?」
「ええ、必要でしょ? 勝手に四王を名乗ってるんだから。リリスもそうだったみたいだけどね」
――父親は気になるか、当然よね。連れてこなくて良かった、ややこしくなる所だったわ。
「こっちから聞いてもいいか?」
「さっきから色々聞いてるじゃない。いいわよ、なんでも聞いて」
「マモン、お前は魔力障害の自覚はあるのか?」
「は? ワタシが魔力障害? そんなわけないじゃない」
「モレクさんが、お前の魔力の変質を感じていたらしい。混血児は魔力が異常に高い。鬼人も魔力障害と自我崩壊で暴れ回ってたんじゃないのか?」
「シュエンちゃんはそうでしょうね。シュテンは魔力過多で自我崩壊してたのは事実。ただ、ワタシとシュテンは根っからの悪党よ。もちろんアレクサンドもね」
「モレクさんは、マモンは相手を傷つけられない優しい子だったと言ってたぞ」
「見当違いも甚だしいわね、何を見てたのよモレクは。私が闘争心を表に出さなかったのは、リリスにこき使われるのを避ける為よ。欠陥品を演じたのよ」
――ワタシが魔力障害……? 笑わせるわね。
やはりモレクと繋がっている。
だとすれば、魔族の戦闘法も習得している、厄介だ。
「ショーパブ・リバティは、お前が作ったんだろ?」
「そうね、あれは楽しそうだと思ったの。ただ、あの仕事はバカにされる事も多いわ。最初は楽しさが勝ってたけど、飽きてくると客を殺したくなったわ。だから殺してしまう前に辞めたのよ。店の子達の為にも、あの店は潰したくなかったしね」
「……モレクさんはお前を止めたがっている」
「無駄な努力ね。でも、モレクと魔都時代のメイドには感謝してるの。自分をさらけ出せるようになったのは二人のお陰。ただ、自分を出すと同時にワタシの凶暴性が表に出てきたのは確かね。魔力の変質っていうのはその事じゃない?」
――やっぱりモレクには会えないわね。懇々と諭されるのが目に浮かぶわ。
「父さんは魔力障害かもしれないって言ったな?」
「そうね、シュエンちゃんはそうでしょうね。なんであぁなったのか知りたい? アナタのお母さんの事も、ワタシは全部知ってるわよ。アナタに見せようと思ってたの。その後に話したいこともあるし、なかなか興味深い話よ」
――やっぱりこの話になるわね、シナリオ通りだわ。
「……ユーゴ、そんなの見せられて大丈夫なのかい?」
「知りたい……けど、オレのせいである可能性が高い……けど、大丈夫だ。父さんは治せる」
「うん、私が治すよ、だから何を見せられてもユーゴは気にしちゃダメ」
「あぁ、ありがとう」
――魔力障害を治せる……?
アレクサンドの娘がそれ程の術師だというのか。
「マモン、お前は敵だ。でも、父さんの過去を見せてくれるという好意は受け入れたい。頼めるか?」
「あら、ワタシの好意だと思ってるの? 見たくもない過去を無理矢理見せて、相手が悶えるのを見るのが好きなだけなんだけどね。性格の悪いワタシにはピッタリの能力よ。何の役にも立たないけどね。記憶を抜き取るのは至難の業だし」
「構わない、見せてくれ」
「そう言われて見せるのは癪だわ……まぁ、いいわ、そのつもりだったし見せてあげる。アナタには長く感じるでしょうけど、周りは一瞬よ」
マモンはユーゴに向け手を翳し、シュエンの記憶を彼の脳裏に映した。




