魔王 リリス・シルヴァニア
次の日の正午前、鬼族約三万の軍勢はテンとベンケイを先頭に布陣している。
その先には魔族が数万、次男アグレスと三男マルバスを先頭に布陣している。
長兄ベアルはリリスを連れてくる手筈だ。
マモン達四人は魔族達の様子を見て取れる位置にいるが、極限まで魔力を抑えて後方に待機している。さすがに仙族や龍族の魔力が混ざっているのはおかしい、マモンの魔力もそうだ。
正午前から睨み合い少し経った頃、リリスの魔力を感じた。
「……これが魔王の魔力ですの……?」
「えぇ、平常時でこれよ。相変わらずとんでもない魔力だわ」
魔族軍の頭上に魔王リリスが到着した。
恐らく風魔力で浮遊させているのだろう。豪華な輿の四方に手下を置き、その上で優雅に扇子を扇いでいる。
「おいおい……魔王って二千歳超えてるよな……? なんだあの若さは……サランと変わらないぞ」
リリスの見た目の年齢は、人族の二十代半ば程だ。その美しさは誰もが認める。
「えぇ、あの女は性交で相手の生気を奪いながら永遠の若さを保ってる。男を虜にして全てを吸い尽くす。それがあの異常な魔力の理由よ。何故あの魔力量で正気を保っているのかが分からないわ……魔力の許容量が異常よ」
「……それは流石のボクもご遠慮願いたいね……」
魔族の前線にリリスの輿が降りた。
その横には魔族の幹部が侍っている。
「鬼どもや、あの猪王を落として図に乗っておるようじゃの。妾がわざわざ見に来てやったぞぇ、せいぜい良い戦を見せてたも。よし、妾を安全な場所へ連れて行くがよいぞ」
魔族達は動かない。
「これ、早うせぬか。妾を護るのが貴様らの役目ぞ」
もういいだろう。
マモンは三人を連れて鬼族の前線に出た。
「久しぶりねリリス、覚えてるかしら?」
リリスは目を細めてマモン一瞥し、首を傾げた。
「……誰じゃ貴様は、気色の悪い」
「相変わらずね、自分の子を忘れるとはね。まぁ、驚きもしないけど。ワタシはマモンよ、アナタと人族の子よ」
「あぁ、あの欠陥品かぇ、何故鬼側におる? 早うそ奴らを蹴散らさぬか」
マモンは歩いてリリスに近づいた。リリスの周りの魔族が離れていく。
まだ何が起こっているのか分かっていない様だ。
「さぁリリス立ちなさい、殺してやるわ」
『火魔法 煉獄』
自然エネルギーを込め圧縮した渾身の火魔法を放った。
『水魔法 魔力の洪水』
途轍もない水魔法で相殺された。さすがは前魔王アスタロスの妻、魔法を放つスピードが早い。しかも仙術を扱う。恐らく性交相手の人族から教わったのだろう、厄介だ。
「貴様ら……この魔王リリスに弓を引くとは……相応の覚悟をもつが良いぞ」
唇を噛み表情が歪む。
リリスは怒りで震えている。
「覚悟するのはアナタね。自分が尊敬されていない事に気付かないとはね、可哀想な人。でも安心して、相手はワタシ一人よ」
「貴様一人で妾の相手じゃと? 笑わせる」
ようやく立ち上がったリリスは杖を構えた。
杖の先には見た事が無いサイズの魔晶石がはめこまれている。さっきの水魔法の増幅効果は確かに凄かった。
「今の妾はアスタロスよりも強い。覚悟せぇ」
「ふん、強がりはよしなさい。旦那様に直ぐに会わせてあげるわ」
マモンに魔法は効かない。
仙術は守護術でガードすればいい。
――さぁ、どうするリリス。
『氷魔法 氷柱の矢』
――え……?
鋭い無数の氷の矢が高速で飛んできた。
『守護術 堅固な城壁!』
急いで守護術を張った。
一本の氷の矢が守護術を突破し、アズガルシスのガントレットを掠めた。
――氷の魔法……こんな特異能力を持ってたなんて……これは吸収できない。
連発させる訳にはいかない。
『火魔法 火焔流』
炎の自然エネルギーと魔力をふんだんに圧縮した渾身の魔法。
『氷魔法 絶対零度』
渾身の火魔法を氷の力で無効化されたうえに、氷の粒に襲われた。
全てを守護術でガードする。
――舐めていた……ここまでとはね。
「その顔は、妾の能力を知らなんだかぇ。愚かな息子じゃ、自分の弱さを償って死ぬが良いぞ」
「ここまで強いとは予想外よ。でも、ワタシはもっと強いわ」
「ふん、強がりも大概にせぇ」
腰に下げたデュランダルを抜いた。
今やマモンは立派な剣士だ。
「杖使いが仇にならないと良いわね」
『剣技 流星斬り』
地を思いっきり蹴り、一瞬で間合いを詰めた袈裟斬り。
『氷魔法 氷の障壁』
「キィィ――ン!!」
鋭い金属音が響き渡った。
魔力の障壁など比ではない。自身の前面を完璧に覆う氷の絶対防御だ。
「ほぉ、魔族が剣とな。剣を扱うのが自分だけだと思うな、たわけ」
『氷魔法 氷剣創造』
リリスはわざわざ装飾を施した美しい氷の剣を創り出した。
『剣技 魔突』
速い。
防具を媒介とした最大の守護術で迎え撃つ。
鋭い金属音と共に弾いた。
氷で出来た剣だと思わない方が良い。殺傷力はかなり高い。
――さすが魔王を名乗るだけあるわね……。
マモンは相手が強い程燃える。
「ワタシの全てをぶつけられるわ! 楽しいわねぇ! 全力で叩き潰してあげるわ!」
自然エネルギーを込めた強化術をかけ直す。
聖剣デュランダルには、薄く鋭く練気と風エネルギーを込め続けている。
練気で駆け続けてきた、本気のスピードで翻弄してやる。
「覚悟なさい、暗君リリス!」
正面から斬り掛かる。
リリスは氷の障壁を掛け直しガードを固める。
マモンの狙いはそこではない。
一気に斜めに方向転換し、リリスの横で更に地を蹴り裏に回った。
『剣技 刺突剣!』
練気の高速移動に乗せた渾身の突き技。
リリスは完全にマモンを見失った。
辺りは静まり返っている。
マモンの剣はリリスの心臓を貫いた。
リリスの氷の障壁は、強度を増す為に前面にしか張らない。見失う程の速さで後ろから攻撃すれば為す術は無い。
「なっ……」
「禁呪を撃たせる程ワタシの詰めは甘くないわよ」
『剣技 斬首一閃!』
心臓に刺さった剣を引き抜きそのままリリスの首を落とした。
『火魔法 炎熱葬送』
リリスも禁呪を持っているに違いない。
刺された自覚も無いまま塵にしてやった。
――勝った……ワタシの復讐は成った。
暫しの静寂が辺りを包む。
『ウォォォ――ッ!!!!』
魔族達の歓声が起こった。
「あいつ……本当に……」
「兄さん達、これで解放ね」
兄達三人は呆然としている、その後目に涙を浮かべた。千年の苦労は言葉には出来ないだろう。
魔族の歓喜はしばらく止むことは無かった。
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