龍国散策
魔都と同じだ。
王が愚かだと国が傾く。
「なるほどね、魔都シルヴァニアも暗君リリスのせいで傾いた。ワタシもリリスに恨みを持ってる、アレを殺そうと思ってるの。ねぇアナタ達、まずは皆で鬼国を落とさない? 他種族の戦闘法を取り入れると戦闘能力が跳ね上がるわ。ワタシ達が指南するわよ」
「なるほどのぉ。確かに皆の戦力を上げるのが先決じゃのぉ」
皆が賛成した。
まずは、マモン達が習得した戦闘法がどんなものなのかをベンケイに見せる。
「なっ! なんじゃこれは!」
「心配しないで。ワタシの能力よ。これが練気術、これが仙術よ。魔族の戦闘法もあるわ」
「……なるほどのぉ。 練気術と言うのは気力を変質させるものじゃな? おそらくじゃが、練気という物を闘気に変えるのは難しそうじゃな……」
「そうか、確かに気力を変質させる点では同じだ。俺達も練気を更に変質させろと言われれば難しいな」
「自然の力を闘気に組み込むのは効果が上がりそうじゃ。後は闘気を圧縮解放か、このために練気術を習得する意味はありそうじゃのぉ」
「鬼族の回復術はあるの?」
「うむ、自身の患部に闘気を集めると治癒の効果がある。他人に闘気を注いで治す事も出来る。それを『加療』と言う」
「ホント、闘気って万能なのね……」
まずは仙術の習得を第一にする。
すべての基本である魔法を習得し、各属性の魔力を扱える様になる事で自然エネルギーを知り、取り入れる事が出来る。
自然エネルギーを自由に扱えるようになれば、練気術の習得は容易い。
更に修練し、練気で空を駆けることが出来れば空中戦で相手を翻弄出来るだろう。闘気の扱いにも寄与するかもしれない。
「最終目標は、練気を使って空を駆ける事よ。ワタシ達もそれで大幅に戦闘能力が上がったわ。アナタ達の闘気にも必ずいい影響を与えるはずよ」
「オラ、絶対強くなってイバラキを殺す。皆、頑張ろう!」
『オォ――!』
早速修練を開始した。
鬼族の戦闘には属性という概念は無い。魔法の習得は属性を知ることから始まる。
魔法の習得が出来た者は、仙術の習得に移行する。
二ヶ月程で集落の戦士の皆が仙術と練気術を習得した。
「さすが、皆優秀な戦士ね。次の段階はシュエンちゃんが指導するわ」
「で、やはり練気を闘気に変えるのは無理か?」
「あぁ、無理じゃな。ワシらにとっては闘気で戦った方が良い。ただ、練気は浮遊の術などに使うのに適しておる。闘気も気力の節約になるが、錬気には劣るのぉ。闘気の圧縮にも練気が良い」
「そうか、分かった。よし、では次は練気を使って空を駆けて貰う。これが出来れば身体操作の精度が跳ね上がる。闘気の精度も必ず良くなる。ただ、難易度は高い。半年を目処にしようか、出来なくても必ず成長はする」
「後は皆の努力次第ね。シュエンちゃんがいればワタシ達が教える事は無さそうだわ」
次の日から最終段階に入った。
「ねぇ、皆が頑張っている間に龍族が放棄した土地に行ってみない?」
「そうだね、宝玉同士が近付くと淡く光る事が分かったからな。埋めたとなると見つけるのは難しいかもしれないが」
シュエンとサランに指導を任せ、アレクサンドと南下して、龍族の元の国に宝玉を探しに出かけることにした。
「ワタシ達も鍛錬ついでに、浮遊術じゃなくて空を駆けて行かない?」
「そうだな、時間はあるからね。そうしよう」
◆◆◆
村を出て十日、それらしき場所に着いた。
「アレクサンド、アナタここに来たことあるんでしょ?」
「あぁ、千年も前の話だけどね。あまり覚えてない上に、こうも変わってしまっているとね」
龍族の島の建物は全て木造だった。
所々に朽ちた木材が散乱している。ここで間違いは無いはずだ。
「これは本当に骨が折れるわね」
「あぁ、来るんじゃなかったよ……」
二つの宝玉はアレクサンドが管理していた。
宝玉を外に出しても、アレクサンドの空間内の宝玉に反応して淡く光ってしまう。その為、黄の宝玉はサランに渡してある。
「さて、この宝玉が淡く光ればその辺に翠の宝玉があるって事だね」
「えぇ、歩き回りましょうか」
国と言うからにはかなり広い。隅から隅までどれくらい歩き回っただろう。結局、翠の宝玉は見つからなかった。
「十日は歩き回ったわね……」
「これだけ歩き回って反応が無いということは、そういう事だろうね」
「少し怒りが湧いてきてるわ……」
「少しで治まってるのはアレのお陰だな」
歩き回っている途中、朽ちかけた木箱の中から所々錆びてはいるが、刀を五本見つけた。
アレクサンドが言うには、引越しの際に忘れた物だろうとの事だ。
「そうね、シュエンちゃんの刀を見てワタシも一本欲しいとは思ってたのよね、メインはデュランダルなのは変わらないけど」
「あぁ、ボクもだ。コイツをベンケイ爺さんに渡せばキレイにしてくれるだろうね。ここまで古いと価値が分からない、いい品である事を願おう」
たまたま見つけた刀を土産に、また十日間の空中散歩だ。




