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鬼人誕生 3

 

 オーステンは顔を上げ、頭領であるスズカに向かって話し始めた。


「オレはスズカを初めて見て心を奪われた! こんなに強くて美しい女がいるのかと戦闘どころじゃ無かった! オレがここに来たのはスズカに近づくためだ!」


「……え?」


 あまりの事に皆があんぐりと口を開けて言葉も出ない。

 当然スズカもだ。


「スズカ! 何度もここに来ておまえと話して、更に想いは深まった。オレはおまえを愛している!」


「……えっ……ちょっと……待って」


 スズカは顔を赤らめてどぎまぎしている。

 サンキチの知る限り、超がつく男勝りのスズカが男から言い寄られたことは無い。


 オーステンはスズカに近づき手を取った。


「スズカ! もうオレは国には帰らない! オレと一緒になってくれ!」

「はっ……はいっ……」


 圧倒されたスズカは、頬を赤らめてそう返事をした。


「ぃよっしゃぁ――!!」

 

『ゥオォォ――!』

「おめでとうスズカ! オーステン!」


 皆が口々に祝福の言葉を二人にかけた。

 もうすでにオーステンは彼等の仲間だ。



 ◆◆◆



 スズカとオーステンが結ばれた事で少し状況が変わった。頭領の旦那になる男の同族を襲う事に、皆が抵抗を感じ始めたからだ。


「おいおい、オレはスズカの旦那だぞ。おまえらのしてる事も分かって求婚したんだ。山賊はおまえらの生業だろ」

「ウチらは本来、人族の町で生活がしたかったんだ。それを王都の門番に出鼻をくじかれて、今の生活をしてたんだ。この大所帯だ、もう今さら町で生活する気はない。なぁオーステン、ウチらの国に来ないか?」

「行っても良いのか……?」

「あぁ、お前が居ても問題ない所がある。そこで皆で生活しよう」

「分かった、オレはどこでもついて行く」


 

 次の日から鬼国に向けて移動を始めた。

 もちろんソウジャに行く訳ではない、ベンケイの所に向かう。


 スズカ達の移動は、闘気を脚に纏い身体能力を高めて移動する。人族も補助術と言う方法で移動するが、彼ら程のスピードは出ない。


 一日目の野営。

 

「鬼族は速いな……合わせてもらって申し訳ない……」

「いや、分かっていた事だ。けど、それだけ速度が出ていれば問題ない。二ヶ月も見れば着くだろう」


 オーステンは他種族なりの悩みがあるようだった。スズカに対して色々考える事もあるようだ。


「……なぁスズカ、他種族間では子供は出来ないみたいだ。オレは問題ないが、おまえはどう思ってる?」

「ウチは誰かと一緒になれるとも思ってなかったからな、子供なんて考えたことも無かったな。正直どうでもいいよ」

 

「……そうか、それを聞いて安心したよ。それと、これが一番の問題だ。おまえは長寿族だ、千年以上生きるんだろ? オレは生きても百年だ」

「そうなのか。仕方ないだろうそれは、悲しい事だけどな」

「でもな、一つ方法があるんだ。オレと一緒に来た眼が緑色の騎士がいたのを覚えてるか?」

「あぁ、お前らの隊の頭領だろ?」

「あの人は昇化した人族だ。昇化すれば寿命が伸びるんだ。オレは今以上に鍛錬を積んで必ず昇化する。そしていつまでもおまえと幸せに暮らしたい」


 スズカは、オーステンのこの正直で真っ直ぐな所に惹かれている。頬を染めて頷いている。



 その後もオーステンは必死についてきた。

 鬼族以外の種族では闘気は扱えない。教える事は出来ない。かと言って彼等は人族の戦闘法を知らない、指導することも出来ない。

 オーステンは剣を使うが、薙刀に興味を持った。


「今から行く所には薙刀術の創始者でオラァ達の師匠がいるんだ。お前ぇも指導してもらうといい」



 行きと違い、迷う事が無かった事で一月半で着いた。


「爺さん! 帰ったぞ!」

「おぉ、おかえり。一年と少しくらいか? えらく早かったな。ん? 人族を連れて帰るとはな」


 スズカは顔を赤らめて報告した。


「ウチの……旦那だよ」

「ベンケイさん、初めまして。オーステンと言います。人族ですがスズカと一緒になりました」


 ベンケイは驚いたが、すぐに顔を綻ばせた。


「そうか、スズカがのぉ、それはめでたい。では、ここに住むということか」

「あぁ、構わないか?」

「前も言ったじゃろ、ワシは構わんと」

 

「よし、お前ぇら! 改めて祝いに姉ちゃん達の家を作ってやろうじゃねぇか!」


『オォ――!!』


 ベンケイとその弟子達は、長い間自給自足の生活を続けている。屋敷の改修や増築はお手の物だ。

 弟子達の指導で家を建てた。何棟か建てた上で、一番出来の良かった家を二人に引き渡した。


「皆で建てた家だ、大事にするよ。みんなありがとう!」


 ベンケイの屋敷の周りに数件の家が建ち、小規模な集落になった。

 


 オーステンはベンケイとその弟子達ともすぐに打ち解けた。やはり天性の人たらしだ。


「ベンケイ爺さん、オレにも薙刀術を指導して貰えないか? 一つの事を極めると人族は昇化する事があるんだ。オレは薙刀術に全てを捧げたい」

「そうか、良い目だ。お前はやり遂げそうじゃ、薙刀はワシが用意する。早速明日から始めるとするか」

「よろしくお願いします!」


 オーステンは剣を使えるし魔法も使える。ただ、剣をこれ以上極めるにも師匠がいない、魔法も然りだ。全てを薙刀術に捧げることを決めた。

 

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