鬼人誕生
サンキチとその姉『スズカ』は双子で産まれた。
両親と上の兄二人は普通の鬼族、いわゆる『大鬼族』だ。
「普通に産んでやれなくてすまねぇな……」
母親は二人にいつもそう言った。いつも『小鬼族』だと差別を受け、陰湿な虐めにあっていたからだ。
「何が大鬼族だ、ウスノロの木偶の坊なだけだろ。ウチらの何があいつらより劣ってるってんだ!」
スズカのこの言葉は強がりではない、スズカ達が大鬼族に劣るなどという事は無い。一長一短あるからだ。
実際スズカは特に強かった。差別を受ければ、そいつに喧嘩で勝って証明して見せた。十数人の小鬼族をまとめ、差別や虐めを受けないように群れて行動した。
スズカとサンキチは、小鬼族の中でも一目置かれる戦士だった。
二人には強さの秘密があった。
「爺さん! 遊びに来たぞ!」
「おぉ、お前らか、最近よく来るな。ワシは大歓迎じゃが」
「どこにも居場所なんて無いしな。ここが一番落ち着くよ、ここに住みたいくらいだ」
「ワシは構わんぞ? お前らさえ良ければな。お前らにとっちゃソウジャは住みにくかろう」
鬼国ソウジャから北に二日ほどの山の麓に住んでいる爺さんの屋敷。鬼王と並び称された程の戦士だったらしいが、何があったかこんな所に数人で住んでいる。
腕試しに皆で魔物を討伐しようと山に向かった時に偶然屋敷を見つけた。
薙刀術の創始者であるベンケイに弟子入りし、スズカ達は実力をつけた。薙刀術が上達するに連れて、闘気の練度が格段に上がった。しょっちゅう遊びに来ては薙刀術の指南を受けた。
これが彼等の強さの秘密だ。
「お前らの武器も強化する頃じゃな、ワシが打った薙刀をやろう。さすがに特級品や一級品はやれんがな」
「いいのか爺さん!? 14人いるんだぞ!?」
「あぁ、構わん。そこまでいい品じゃぁない」
それでも二級品の下位程の薙刀だ。彼等には勿体ない品だ。ますます薙刀術に打ち込んだ。
更に実力も付いてきたある日。
「なぁみんな、人族の世に行ってみないか?」
「人族の世に行く者も多いしな、オラァは構わねぇ」
スズカとサンキチの他、12人の仲間達も賛成した。
「そうか、寂しくなるのぉ、戻った時はまた遊びに来なさい 」
「あぁ、その時はここに住ませてくれよ」
「うむ、待っとるぞ」
鬼国に戻り荷物をまとめ、両親にすら告げずに国を出た。
大まかな地図しかなく、慣れない野営に四苦八苦しながらウェザブール王都を目指した。日が経つにつれ、仲間の中で自然と役割の分担ができ、順調に旅を進めることが出来るようになった。
国を出て一ヶ月程が経った。
「やっと着いたな……多分あれがウェザブール王都だな。凄いな……なんだあの高い壁は」
「門に凄ぇ列が出来てるな。あれに並ぶのか?」
「並ぶしかねぇ様だぞ? 通行手形の類いなんて持ってねぇしな」
どれくらい並んだだろう、やっと門番の前まで来た。
「鬼族か、冒険者カードは持ってないのか?」
「冒険者……? なんだそれは?」
「基本的に他種族を王都に入れることは出来ん。他の町で冒険者ランクを上げて来ることだな。我が国で身分を証明するには冒険者カードが一番手っ取り早い」
「あとは……分かるよな?」
金か、どこの世界にも汚い奴がいるものだ。けど彼等はこの国の金など持ってない。
「これだけ並んだのに入れないだって? ウチらが中で暴れるとでも言うのか?」
「それが分からんから検問があるんだろ。出直せ」
「だめだ姉ちゃん、問題を起こすのは不味い」
「クッソ……行くよお前ら」
スズカ達は諦めて列を後にした。
「何処も見た目で判断する世の中なんだな。身分証明があったらどうだってんだ、ウチら自身は何も変わらないじゃないか。そうだろ?」
「あぁ、全くだ」
「……よし、ウチらは人族の世界で山賊として生きるよ。こうなったらとことん悪党になってやろう」
「面白そうじゃねぇか、賛成だ!」
スズカ達は血の気が多い。
ベンケイの薙刀指南を受けて落ち着いてはいたが、元々荒くれ者の集まりだ。
そうなれば住処を探さなければならない。
王都から離れて森に入り散策していると、開けた場所に建物があるのを見つけた。
「へぇ、こんな所に良い住処があるじゃないか。14人で入っても問題ないね。横に川が流れてる、最高じゃないか」
おそらく人族の小規模な演習場か何かだろう。が、スズカ達には関係の無い話だ。奪った建物、山賊の住処にはちょうどいい。
奪った根城を守る者を数人残し、十人近くで行動する。街道を見張っていれば商人が荷物を運んで来る。護衛の奴らがいるが、スズカ達は人族達に比べれば相当強いらしい。
「おい、今日は酒が手に入ったぞ!」
「酒なんて久しぶりだね! 今日は酒盛りするよ!」
酒が手に入った日は遅くまで飲んで騒いだ。
毎日荷物を奪いに行く訳ではない。食材は獣や魔物で事足りる。
生活物資が無くなる前に奪いに行くという日々を過ごした。




