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差別


「茶を淹れる、そこに座ってくれ」


 言われるがままに灰が敷き詰められた穴を囲んで座った。


「これは何なの?」

「ん? 囲炉裏(いろり)の事か? ここに火を起こして鍋を煮たり暖をとったりすんだよ」

「なるほどね」


 テンもお茶を運ぶのを手伝い、皆でイロリを囲んだ。


「魔族に龍族に仙族か、お前は人族じゃな? こんな珍客は二度と無いだろう。どうやってテンを正気に戻した?」

「ワタシ、魔力を吸収する能力があるの。安定するまで魔力を吸収したのよ」

「なるほどのぉ。ワシらには場所すら分からんかった……許せテン」

「いいよ。それより爺ちゃん、周りの集落の皆は誰だ?」


 その時、屋敷の扉が勢いよく開いた。


「テン! 帰ったのか!」

「サンキチのおっちゃん!」

「全然変わってねぇじゃねえか! そんなことあるんだな……」

「おっちゃん、この人達に助けて貰ったんだ」

「そうか、ありがとなあんた達。オラァ達はどうすりゃいいか分からんかった……」

「サンキチ、茶は自分で入れてこい」


 サンキチと呼ばれた男は茶を入れに奥へ行った。


「さて、問いには答えねばな。テン、お前もサンキチも勿論ワシもじゃが、ソウジャでは差別を受けてきたな。そこまで言えば分かるじゃろ」

「あぁ、そうか。さっき見た奴らも()()()()()な。みんなをここに受け入れたのか」


 マモン達四人の頭上にハテナが浮かぶ。


「ちょっと……ワタシ達にも分かるように話してくれない?」

「なら、オラァが話すよ」


 奥から自分のお茶を持ったサンキチが来て座った。


「普通の鬼族ってのはオラァ達より頭二つ分はデケェんだ。テンくれぇの子供でも魔族のあんたよりデケェ」


 ベンケイとサンキチ、さっき見た鬼族達もマモンより頭二つ分ほど大きい。普通の鬼族は更に大きいと言う。

 テンは他種族の子供より少し大きい程度だ。


「何人か大きな鬼族がいましたわよ?」

「それはこの村で生まれ育った奴だ。鬼族の体躯の大小は遺伝もあるが、ほとんどは関係ねぇ。オラァ達小せぇ鬼族は差別を受けて生きてきたんだ。差別や虐めに耐え兼ねた者たちは人族の世に逃げる事もあった、見た事ねぇか?」

「えぇ、あるわね。確かにあなた達位の大きさだったわ」


「……その差別の原因はワシが作った様なもんじゃ」

「そんな事ねぇって、悪ぃのはイバラキだろ」

「鬼王が? 詳しく話して貰えるかしら?」


 ベンケイは曇った顔を上げて語り始めた。


「ワシとイバラキはこの世界に産まれ落ちた時からの仲じゃ。産まれた時の記憶は無いがな」

「仙王もそう言ってたな」

「あぁ、龍王もだ。何者かに創られた可能性を疑ってたな」


「うむ、その頃から鬼族には体躯の大小があった。その頃は差別など無く、皆協力して生活しておった。ワシには鍛冶の才能があった。皆の武具を弟子達と共に作り、始祖四種族で争い始めた際には、一際体躯の大きいイバラキを鬼王に置いて補佐した」

「鬼王の側近だったのね」


「……ワシはそのつもりじゃった。体躯の大きい鬼族はとんでもない力があるが魔力は少ない。ワシら小さい鬼族は速さに優れ、魔力が多い。それゆえ闘気を魔力に乗せて放つ事が出来る。ワシは中距離攻撃部隊の長としてイバラキを補佐した」


 ――そんな男が何故差別の対象になったのかしら、話が読めないわ。

 

 記憶を貰えば早い。ただ、流石に今日会ったばかりの者の頭上に手を置く訳にはいかない。


「ワシは武具の作成と同時に、薙刀術の創始者として弟子が多かった。千年以上前の話じゃ、四種族停戦のうちに皆の指導を担当した。停戦が明けた後の龍族との決戦の時、イバラキから国の守りを命じられた。魔族に対する抑えだとな」

「有名な大戦だな。龍族が圧勝し、鬼王は左腕を失ったと聞いた」


「……そうじゃ。命からがら帰ってきたイバラキは国に戻るなり、今回の戦の敗因は中距離攻撃部隊を国に留めると主張したワシにあると言い出したんじゃ……」

「とんだ言いがかりですわね……」


 ベンケイの胡座をかいた太腿に置かれた拳が震えている。


「……その後も、信用ならんだの、愛国心が無いだの……更にワシを遠ざけた。ワシを不憫に思ったイバラキの側近から聞いた話では、鍛冶や薙刀術で多くの弟子を持ち、慕われているワシに嫉妬していたらしい。ワシを国に留めて自らが先頭に立ち、自分の強さを誇示しようとしたらしいんじゃ。その下らん自尊心が国を傾ける程の大敗に繋がった」


「……鬼王ってバカなのね」

「奴に尽くしていた自分が馬鹿らしくなった。ワシは、どうしてもついて行くと言って聞かぬ弟子を数人連れて国から出た。それがここじゃ。それから、ワシの様な小さい鬼族への差別や虐めが酷くなり、国から出る者が増えた。ここに来るものも多くなり集落になっていったんじゃよ」


 喧嘩別れと言うよりは、ベンケイが鬼王に呆れて見限ったといったところだろう。


「一国の王の器ではないな。テンのイバラキに対する憎悪はまた別の話だろう?」

「うん、オラは父ちゃんと母ちゃんを奴らに殺された。イバラキだけじゃねぇ、オラは鬼国を許さねぇ」


「……なるほどね。テンはここで産まれたのかい? 人族がここに来るとは思えないが」

「テンの母親はオラァの姉だ。テン、お前の母ちゃんの話していいか?」

「あぁ、オラは構わねぇ、こいつらは恩人だ」


 サンキチはシュテンの生い立ちを話し始めた。

 

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