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ベルゴール家

 

 次の日の午後、ホテルに手紙が届いた。今日、明日なら何時でも構わないという返事だ。

 一週間は各自自由に行動しているので、一人で食事を済ませ紅茶を飲んでいる。少しゆっくりして早速屋敷に向かおう。


 

 ベルゴールの屋敷の門に着いた。

 鉄格子の立派な門の前には門衛が一人。


「こんにちは、ワタシはマモン・シルヴァニアと言うの。話は伝わってるかしら?」

「お待ちしておりました。案内の者をお呼びいたしますので暫くお待ちください」


 門衛が呼鈴を鳴らし、少しするとエナリアが歩いてきた。


「あら、エナリアが案内してくれるの?」

「ちょうど空いていて良かったです。ご案内致します」


 エナリアの後に付いて広い敷地内を歩いて移動する。そのまま屋敷の中に入り、ドアの前まで案内された。

 

「こちらでございます。お話が済むまでロビーでお待ちしておきますね」

「悪いわね、ありがとう」


 ドアをノックし中に入る。

 執務室の中には、モレクよりも少し年が上くらいの男が椅子から立ち上がり出迎えた。


「お待ちしておりましたマモン様。私はヴェネシテラ領主の弟で、ネトラス・ベルゴールでございます」

「初めまして、マモンよ。いきなりの面会に応じてくれてありがとね」


 ネトラスに対面しソファに深く腰掛け、メイドが運んできた紅茶を頂く。


「何か聞きたいことがあると伺いましたが?」

「えぇ、アナタ鬼人討伐部隊に参加してたんでしょ?」

「はい、結果は散々でしたがね。良く生き残れたものです。その後の鬼人封印の部隊にも参加しました」

「その話を聞きたかったのよ。どんなヤツだったの」


 ネトラスは思い出したくもないという表情で語り始めた。


「……あれは本物の怪物でした。まだあどけない少年の様でしたが、二百人の精鋭でも全く歯が立ちませんでした。自我は無くただ暴れるだけの怪物に、なすすべもなく敗走しました」

「それは凄いわね……その後に鬼族と一緒に封印したんでしょ? 封印術に長けた者がいたの?」

「いいえ、魔族と鬼族の二つの宝玉で封印しました。かなりの損害を出しましたが……」


「……なんですって? 宝玉にはそういう力があるの?」

「えぇ、宝玉の力の一つだと聞きましたが、誰も理解している者はいませんので分かりませんね」

 

 力の一つか、他にも何か力があるのだろう。

 ダラダラ喋るより、記憶を貰っておいた方が早そうだ。

 

「ワタシ、人の記憶を読み取る能力があるの。鬼人討伐の記憶、ワタシに貰えない?」

「ほぉ、そんな能力が。私は構いませんが」


 ネトラスの頭に手のひらを置き、記憶を抜き取った。

 

「鬼国寄りにある『オオイブキ山』ね。なるほど……壮絶ね」

「えぇ、思い出したくない記憶ですよ」 

「地図とかはないの? 凄くこの話に興味があるの」

「ありますよ、お待ちください」


 ネトラスは書庫から四つ折りの地図を持ってきて広げた。


「鬼国寄りの方は大まかな地図にはなりますが。魔都は割と正確に作られていますね」

「へぇ、ここ以外にも町があるのね。ワタシここしか寄った事がないから。地図を見るのも初めてだわ」

「そうですね、ここより大きな町は他にもありますよ。オオイブキ山はこれですね、山の配列に関してはある程度正確だと聞いていますが」


 自分の生まれた国の地理も把握していなかった。


 ――ん? これは。


「この一番北の町についてるバツは何?」

「あぁ、鬼人討伐の失敗からとんでもない重税になった時期があったんです。それに耐え兼ねて潰れた町ですね。皆他の町に移ってゴーストタウンと化してますよ」

「なるほどね、人族の国にも流れてるみたいね」

「そうですね、あの重税は大変でしたよ……」

 

「他の町にも行ってみたいわ、この地図の写しはないかしら?」

「えぇ、取り寄せればございますので、この地図を差し上げますよ」

「あら、いいの? ありがとね」


 鬼人を解放したいなどと言えば恐らく報告される。とりあえず地図は手に入った。

 城を落としたら他の町にも行ってみよう。


「良い話が聞けたわ、忙しいところありがとね。地図もありがとう」

「こんな話で宜しかったので? なんのお構いも出来ず……」

「いいのよ、いきなり押しかけたのはこっちなんだから。また何かあったら宜しくね」


 ロビーに戻りエナリアと共に屋敷を後にした。


「思った以上の収穫だったわ、取次ぎありがとうね」

「それはよろしゅうございました」

「またここによった時には顔を出すわね。元気でねエナリア」

「はい、是非。マモン様もご自愛くださいね」

「えぇ、またね」


 

 ベルゴールの敷地を後にし、ホテルに戻った。

 一週間ゆっくりするとしよう。

 


 ◆◆◆


 

 久しぶりの魔都の町での生活。

 シルヴァニア城へはマモン達の移動速度だと二日もかからないだろう。目と鼻の先に憎きリリスがいる。


 ――次に戻ってきた時にはこの国はワタシの物だ。



 最後の夜、皆でエナリアお気に入りの店を予約し、ディナーを楽しみ食後のコーヒーを飲んでいる。


「明日には出発か、話は聞けたんだろ?」

「えぇ、地図も手に入れたわ。これよ」


 テーブルに地図を広げる。 


 この山の(ふもと)に封印されてるみたいね。(あか)()の宝玉で封印されてるみたいよ。封印術式が組み込まれてるようね。この一週間で少し勉強してみたの」

「ほぉ、鬼人を解放したついでに宝玉が二つ手に入るのか」

「ここからは当分は町に寄ることは出来ないな。風呂釜は準備してあるから、ゆっくり浸かりたい時には言ってくれ」

「ワタシはシャワー派だわ。水魔法と火エネルギーでシャワーは作れるわよ」


 日用品の質はウェザブール王国の品の方がいい、多めに買ってあるから問題は無い。



 腹を満たしホテルに戻った。

 野営は簡易ベッドを用意してはいるけど、ホテルのベッドには敵わない、ゆっくり休もう。


「じゃ、明日の朝ね」

「あぁ、おやすみ」

 

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