恩人
四日分の垢を落とし、外出の準備をする。
メイクを終え洋服を着終えた時、呼鈴が鳴った。
「お客様、エナリア様というお連れの方がお見えです。ロビーでお待ちいただいておりますがいかが致しましょう」
「あら、そう。分かったわ、すぐに行くと伝えてちょうだい」
「かしこまりました。そのようにお伝え致します」
外出の準備はあらかた出来ている。アクセサリーを身につけてロビーへ向かった。
「マモン様……お久しゅうございます」
「エナリア、変わらないわね。元気にしてた?」
「ええ、城での生活は慌ただしかったですから。こちらに帰って来てからは悠々自適に暮らしていますよ。それにしてもマモン様、ますますお綺麗になられて」
「あら、ありがとう。こうやって自分をさらけ出せるのもアナタ達のおかげよ」
「モレク様はご一緒ではないのですか?」
「ワタシ達、人族の国で店を開いたの。モレクはその店を経営してるわ」
「そうですか、お元気そうで安心しました」
魔都の各町の領主の娘は、シルヴァニア城に使用人として働きに出る事が多い。ほとんどはそのまま城での生活を続けるが、エナリアは故郷に帰ることを選んだ。
ロビーで紅茶を飲みながら昔話に花を咲かせていると、皆がロビーに降りてきた。
「おや、マモン。レディと二人で会話とは珍しいね、ボクも混ぜてくれよ」
「あぁ、紹介するわね、エナリアよ」
「マモンの恩人のメイドさんですわね。わたくしサランと申しますわ」
皆が一通り自己紹介を終えた。
「そうだわ、今からディナーに出かけるんだけど、エナリアも一緒にどう? お願い事もあるし」
「ご一緒してもよろしいのですか?」
「あぁ、レディが多い方が場が華やぐよ。是非乾杯しよう」
昼とは違うエナリアおすすめのレストランに向かった。
「ほぉ、昼の店とは違って落ち着いた雰囲気だね」
「えぇ、私の一番お気に入りのお店です」
テーブルに料理が並ぶ。
「魔族は牛肉を好んで食べる様だね」
「そうですね、各町で牛の飼育が盛んです。町の周りにはホーンオックスが多いですから、この店の様な高級店では魔物の肉を提供していますね」
「この間すき焼きで食べた牛ですわね。確かにあの魔物の肉は美味しかったですわ」
「このステーキも美味い、ソースが良い。骨付きか」
「えぇ、リブロースのステーキですね」
「……ウイスキーが美味いね、ウェザブールの物とは香りが違うよ」
「このポテトチップスという食べ物、止まらんぞ。フライドポテトといい中毒性があるな」
皆で魔族の料理を堪能した。
ウイスキーを飲みながらポテトチップスをつまんでいる。
「ねぇエナリア、アナタのお父さん鬼人の討伐部隊に参加したんでしょ?」
「いいえ、父ではなく叔父ですね」
「あら、そうだったかしら、自分の記憶は曖昧ね。その叔父さんは今は何処に?」
「うちの敷地内に居を構えてますよ。父の下でこの町の行政に携わっています」
「叔父さんに少し聞きたい事があるんだけど、面会をお願いしてくれないかしら?」
「聞きたい事……ですか? えぇ、分かりました。時間と場所はホテルに言付けますね」
「いいえ、ワタシが屋敷まで出向くわよ。一人で行くわね」
「ご足労おかけしてよろしいのですか?」
「何を言ってるの、ワタシを魔王の子と見なくて良いわ、ただの冒険者よ」
「そうですか、かしこまりました」
この店の方が落ち着いて食事が出来た、もちろん美味しい。他の三人も気に入った様子で満足気だ。
「ふぅ……美味かったな」
「そろそろボクは夜の街へ繰り出すよ。魔族のレディは情熱的なんだろ?」
「えぇ、調子に乗って刺されないようにね。あと、絡まれても殺しはやめときなさいよ?」
「あぁ、もちろんだよ」
「エナリアさん、また一緒に食事できるのを楽しみにしておきますわね」
「えぇ、私で良ければまたお願いします」
エナリアと別れ、アレクサンドは夜の街に消えていった。仙族が一人でウロウロして大丈夫なのだろうか。相手の生死が心配だ。
ホテルに戻り旅の疲れを癒そう。




