行く当て
夜になり、ロビーに集まった。
昼に食べた料理が忘れられない。もう一度同じ店に入り、違う魚のメニューをオーダーしワインで乾杯する。
「この魚のカルパッチョも絶品だな、こっちの方が好きかもしれない」
「えぇ、ワインが進みますわね」
「サラン、お使い悪かったな。明日の野営で皆に龍族の料理を振る舞うよ」
「それは楽しみですわ」
話題はアレクサンドの事に。
「アレクサンドに娘がいたとはね」
「ボクが一番驚いた。いたとしても焼き殺してたからね」
「初めて会った時から眼の色を隠してたからな、何か訳があるとは思ってはいたが。お前に相当恨みを持ってたな」
「オーベルジュと言ってたな、だとしたらボクが国を追われる原因になった女か。名前も顔も忘れたが」
「酷い男ですこと」
美味しい魚料理で腹を満たす。
まだまだ飲み足りない。ワインを一本追加し、話しながらグラスを傾ける。
「さて、明日から何処に向かう?」
「宝玉を奪い合っていたのは事実のようね、信憑性が増したわ」
「ただ、翠の宝玉の在処は分からずだな」
マモンは以前から思っていた事を口にした。
「ねぇ、鬼人の封印を解いてみない? ワタシ達ならヤツが暴れたって正気に戻せるわ」
「そうだな、俺の様に自我崩壊は魔力過多が原因だろうしな」
「わたくしはどこでもついて行きますわ」
「ボクも異論はないよ」
「じゃ、決まりね。レトルコメルスからジョカルドに戻って、旅支度をしましょうか」
今後のプランは決まった。
遅くまで魚料理とワインを楽しんだ。
朝からレトルコメルスに向け全力で飛び続ける。途中、牛の魔物ホーンオックスを討伐しシュエンが肉の処理をした。
「いい時間だな、野営地はあの辺でどうだ?」
緩やかに流れる川の畔に開けた場所がある。
「あぁ、いい感じだね。まだ暑い、水浴びもできそうだ」
「テントは任せるよ。良い肉も採れたし、約束通り龍族の食事を振舞おう」
「楽しみですわ、龍族のお酒も買ってますわよ。川で冷やしておきますわね」
「ほう! 気が利くねサラン!」
三人でテントの設営をする。
日が沈んだとはいえまだ暑い。
「サラン、水を浴びてこようか 」
「マモン、覗かない様に見張り頼みますわね」
「えぇ、いつも通り任せなさい」
「チッ……仙神国は混浴だったぞ? 良いじゃないかたまには一緒に浴びても」
「何回言っても無駄よ、諦めなさい」
時間差で水浴びを終えると、シュエンから食事の準備が出来たと声がかかった。
「嗅いだことない匂いね」
「あぁ、すき焼きと言う。食べてみてくれ」
牛の魔物の肉を薄切りにして、野菜などと共に煮た料理だ。お皿に生の卵が入っている。
「生の卵は勘弁して欲しいんだが……」
「卵を混ぜて肉をつけて食べてみてくれ。生卵ありきだ」
マモンも勿論、初の試みだ。
恐る恐る卵につけた肉を口に入れた。
「美味しいわ、なにこれ」
「ホントだな……美味い」
「えぇ、わたくしの故郷のプルコギとはまた違う美味しさですわ」
「そうだろう? 俺も40年振りだ、吟醸酒まで飲めるとはな……サラン、礼を言う」
「この酒も美味しいわね」
「ほんと、買ってきて良かったですわね」
すき焼きは本当に美味しかった。
これは是非また作って貰おう。
◆◆◆
次の日の夕方にはレトルコメルスに着いた。
特に滞在する用事もない、一泊して朝には出かける。
更に二日後、ジョカルドに到着した。
「料理もお酒も美味しかったし、いい旅だったわ」
「あぁ、少しゆっくりしてから旅に出ようか」
サランの屋敷で夕食を済ませ、今後の事を話し合う。
「鬼人を解放すると言っても、何処に封印されているか知っているのか?」
「ワタシが知ってる訳ないじゃない」
「おいおい、どうやって探すんだ」
そういえば言っていなかった。もちろん当てはある。
「ワタシが魔都で世話になったメイドがいたの。ワタシとモレクが出て行った後にそのメイドは故郷に帰った。そこがシルヴァニアの最南端の町で、ノースラインから北の山を超えた所にあるわ」
「そのメイドに聞けば分かるのかい?」
「そうね、彼女の父親が鬼人討伐の部隊に参加したって聞いた事があるわ。何かしらの話は聞けると思うわよ」
「なるほどね、次の目的地はその町か。魔都に入るのは初めてだな」
そしてその後の話に移る。
「鬼人の封印を解いた後の事は考えてますの?」
「そうね、ワタシ達は相当強くなった。シルヴァニア城を落とせるかもね」
「では、この屋敷も用無しですわね。メイド達に売りに出すよう伝えておきますわ。彼女達の退職金としては十分過ぎますわね」
「退職金で思い出した、魔都でブールは使えないだろ?」
「あぁそうね、何かに変えて向こうで売るのが良いかもね。宝石ならどこに行っても高値で売れるわ」
「じゃあ、各自お金を宝石に変えておくとしよう」
目的地は決まった。
ノースライン北部の山を越えて魔都を目指す。




