龍王との対峙
浮遊術でリーベン島に上陸した。
「さてシュエンちゃん、案内してちょうだい」
「あぁ、ついて来てくれ」
「わたくしはお使いに行ってきますわね」
「あぁ悪いな、頼むよ。長居するつもりは無い、ルナポートのホテルに集合にするか」
「分かりましたわ」
島の中心部に向けて飛んでいくと、開けた場所に数人の龍族がいる。二人は仙族と人族だ。
「え……? 父さん?」
「シュエン! 久しぶりだな!」
皆シュエンとは顔見知りのようだ。
「ユーゴか……」
「あら、あれがアナタの子供? アナタに似ず、可愛いわね」
「父さん! いきなりいなくなるからびっくりしたぞ!」
「あぁ、二度と会いたく無かったがな」
「え?」
「二度と会いたくは無かったと言ったんだ。金輪際、俺の前に姿を見せるな」
そこに居る皆が、シュエンの発した言葉に驚きを隠せないでいる。
「……おぃ、シュエン! お前ぇ何言ってんだ!? 息子に冷てぇ上に、久しぶりに会う親友に見向きもしねぇのか!?」
「あぁ、懐かしいなヤン。お前の刀で色んな奴を殺せたよ、礼を言う」
「お前ぇ……どうしちまった……」
やはりシュエンの苛立ちや憎悪は親しい者に向けられている。
「変わり果てて帰って来るとはの。お主、外で何をしてきた」
「父上よ、俺は別に呑気に里帰りしに来たわけじゃない。要件はこいつが言う、素直に喋ったほうがいい。この里で暴れられると困るだろう」
――あれが龍王ね。流石は始祖四王……魔力の質が違うわね。
「初めまして龍王さん。ワタシはマモン・シルヴァニアよ。この赤髪とファミリーネームでピンとくるでしょ?」
「ふむ、魔族が何の用だ」
「魔族ね、半分だけ合ってるわ。ワタシは魔族と人族の間に産まれた魔人よ。聞いた事ないかしら?」
「知っておる。まさか、我が息子が従っておるとは思わなんだがな」
「なら良かった。じゃあ率直に言うわね。『翠の宝玉』を出してちょうだい」
「どこで聞いてきたかは知らぬが、この里にそんな物は無い。そもそも、それのせいで四種族は争っておったのだ。横の龍族に聞いておろう。儂等はその争いから降りた。そんな争いの火種を、わざわざ移住先に持ってくる訳が無かろう」
「……なるほどね、一理あるわ。じゃあ、どこにあるの?」
「元の龍族の土地に埋めてきた。見つけるには骨が折れるであろうの。千年以上前の話だ、儂ですらどこに埋めたかなど覚えておらぬ。儂等には必要の無い物だ、見つけたら好きにするが良い。あれが壊れておるなどという事は無かろう」
「なるほどね、それは大変そう。でも、流石にアナタからは抜くのは難しそうね。宝玉同士が共鳴するなんて事は無いの?」
「知らぬ。他の宝玉を見たこともない故に」
「そうなのね。じゃあ、翠は後回しが良さそうね……で? アナタはさっきから何をブツブツ言ってるの? 気持ち悪いわね」
アレクサンドがブツブツ言いながらマモンの腕を手の甲で叩いている。
「……キミは話が長いんだよ。ボクにも話をさせて欲しいね」
「勝手に話せばいいじゃない」
「コホン……。やぁ、久しぶりだね、メイファ。歳をとっても相変わらず美しい」
「あぁ、別に会いたくはなかったがな」
「このアレクサンドを忘れることは無かったようだね」
「お前みたいな変な奴、忘れたくても忘れられん」
アレクサンドが名乗った後、ウェーブが掛かった栗色髪の娘の顔色が変わった。
「アレクサンドォー!!」
「なんだこの小娘は、女の子が何て声を出すんだ」
「おい、クズ。リヴィア・オーベルジュを覚えてるだろ」
「リヴィア? 誰だそれは」
「あんたが孕ませて、家ごと焼き殺した人族だよ!」
「はて? どれの事かな。人族とは一夜限りなんだ。いちいち覚えてるわけ無いだろ」
「どこまでクズなんだ……私は焼き払われたリヴィアの子だ! あんたをぶん殴る為に生きてる!」
「ほぉ、ボクの子に会うのは初めてだな。まぁ、今はお祖父様にバレようがどうでもいいから見逃してやるけどね」
娘は剣を抜き、いや、刀だ。アレクサンドに斬り掛かった。速い。
『キィィーーン』
速くて良い剣だが、アレクサンドの守護術は突破出来ない。
『火遁! 煉獄!』
『風遁! 鎌鼬!』
シュエンが扱う龍族の術だ。
この娘は仙族だ、ここで修練したらしい。威力も申し分ないが、アレクサンドの守護術はそれ以上だ。
「ほう、なかなかやるね、いい術だ。さすがボクの娘と言ったところか。もっと強くなったら遊んでやるよ。しかし……ぶん殴ると言いながら斬りかかって来るとはね。行儀の悪い子だ」
「クソッ……私はエミリー・スペンサーだ! 覚えとけ! 次に会ったときにはぶっ殺してやる!」
「エミリーか、成長した姿を楽しみにしとくかな」
――親子喧嘩はまたのお預けね。それよりもワタシが気になってるのは……。
「さっきから気になってたんだけど、そっちの赤茶髪の少年はセンビア族ね? 生き残りがいたとはね」
「え……?」
「あの噴火で生き残るって事は、どこかに出かけてたの?」
「何で知ってる……?」
「そりゃ知ってるわよ。ワタシが火山を噴火させたんだから」
「は……? なんだって?」
「理解力のない子ねぇ、見せてあげるわ」
センビアの少年に手をかざし、脳裏にマモンの記憶を映す。
「何だ……これは……ゥワァァーッ!!」
――フフッ、いい反応だわ。見たくないものを無理矢理見せるのはやっぱり快感ね。
「おい! トーマスに何をした!?」
「うるさいわね、何もしてないわよ。あの時ワタシは荒れてたの、魔族と人族の間でね。アナタ達って人族で、しかも髪が赤っぽいじゃない? 自分を見てるみたいで気に食わなくて皆殺しにしたの」
「……そんな理由で……僕の家族たちを殺したのか……?」
「あぁ、でも安心して、あの噴火でいい魔法思いついたの。アナタの一族は無駄死にではなかったわ」
「このクズ野郎……」
「あら、野郎とは失礼しちゃうわね」
『ウオォォォー!! お前……殺してやる……』
――ん? 昇化した。怒りで昇化する事もあるのね。
速い。
が、マモンに一太刀浴びせられる程ではない。
「キィィーーン!」
シュエンが間に入り、センビアの少年の斬撃を止めた。
刀を抜きながら斬り掛かるような技があるとは。シュエンに教わる必要がある。
「おいマモン、趣味の悪いやつだな。あまり煽るな」
「あら、ありがとね。シュエンちゃん」
人族であの動きは脅威だ。
練気術はこうも力を底上げする。
「あの赤茶髪の男、昇化したぞ?」
「ワタシの記憶、そんなに良かったかしら? 感謝してもらわないとね」
「おい、俺は楽しく里帰りに来たわけじゃ無いと言っただろう。こいつ等がベラベラと喋りすぎたのは詫びる。トーマス、エミリー、もっと強くなってこいつらを殺しに来るなら大歓迎だ。ユーゴ、お前に言うことは一つだ。二度と俺の前に姿を現すな」
――ユーゴか。あの子の中に魔神がいるのね。
アレクサンドの娘とセンビアの少年、この三人はまだまだ強くなるに違いない。
「じゃ、お邪魔したわね。帰るわね」
マモン達はそのままルナポートに向けて飛んだ。
「シュエンちゃん、あなたの息子とその仲間はいくつなの?」
「俺が出ていった時に18だったから、19になるか。トーマスも同じだ。エミリーは知らないが同じくらいだろ」
――19歳であの強さか、楽しみだわ。
ルナポートのホテルに戻った。
サランはまだ帰っていない。
「意外と早く戻って来たな」
「サランもすぐに戻るでしょうね」
「夜まで少しゆっくりしてディナーを楽しもうか」
「そうね、サランにはフロントに伝言を言付けときましょ」
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