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シュエンの剣技


「見失ったが魔力を辿れて良かった、やっとバラバラに別れたな。上手いこと良い武器持ちの二人が残った。お前らSランクのパーティだろ? そこの黒髪のカードが見えたからな。俺たちはSランクの五人パーティーだ。五対二じゃ結果は見えてるぞ。死にたくなけりゃその武器を置いて行け」


 ギルドで二人の武器を見て奪おうと思ったらしい。アレクサンドとサランは武器を異空間に入れている。


 ――魔力は辿れても魔力量や質までは測れないみたいね。おめでたい人達。


「マモン、こいつらは俺が貰うぞ。誰かを斬りたくてウズウズしていた所だ」

「えぇ、構わないわよ」


 シュエンは刀を抜き、持った右手をダラリと下ろした。


「おいおい、五人を相手に一人で来るのか? バカでラッキーだぜ!  やっちまえ!」


『剣技 (おど)独楽(こま)


 踊る様に一瞬で四人を切り刻み、リーダー格の男の喉元に切っ先を向けた。


 ――これが龍族の剣術……速すぎる。


「……えっ?」

「もっと楽しませてくれよ、なぁ!」


 シュエンは、男の利腕を持った剣ごと切り落とした。


「ヒィィ――ッッ!」

「ハーッハッ! あれだけいきがってこの程度かぁ!?」


 この半年で見たこともない狂気の笑顔で男を切り刻んでいる。

 最後にもう飽きたと言わんばかりに首を刎ねた。


「ふん、何がSランクだ。下らん」

「見事ねシュエンちゃん。いい顔して人を斬るのね」

「あんな小さな町で人を斬る訳にはいかなかった、少しは鬱憤が晴れたよ。火葬しとくか」


 Sランク冒険者とは言っても、基本のパーティーでSランクの魔物を一体仕留めれば手に入る称号だ。シュエンの敵ではない。

 武具を漁り、五人の死体を火魔法で火葬する。マモンの魔法にかかれば骨も残らない。


「武具は……二級品の上位ってとこか。売れば少しは金になるな」

「そうね、その金で夜は酒盛りしましょ」

「まぁ、金は腐るほどあるがな……」



 その後、シュエンから直接指導を受け地を駆け回った。覆い茂る木々を避けながら錬気の扱いに慣れていく。


「空を駆ける事が出来ればさっきのシュエンちゃんの速さに繋がるのね」

「そうだな、自身の速さは剣の速さに繋がる」



 夕方まで森を駆け回り、冒険者達の武具を売り払った。

 サランの屋敷に戻り汗を流す。リビングルームに行くとアレクサンドとサランは既に寛いでいた。


「あぶく銭を手に入れたぞ、外に飲みに行かないか?」

「ずっと追いかけて来ていた五人組か?」

「あぁ、武具を売り払った」

「では、いつもの焼肉屋に行きませんこと?」

「そうね、サムギョプサルが食べたいわ」


 

 肉を焼きビールで流し込む。美味しい夕食で会話も弾む。

 マモン達は順調に強くなっている。



 ◆◆◆



「浮遊術が別物になったわ。空中を自由に動けるわね」

 

 ジョカルドに戻り一年が経った。

 マモンもサランも空を駆ける事ができるようになっている。今まで習得した術の中でも一番難易度が高かった。

 それに伴い、錬気術の精度も上がり剣の斬れ味や術の威力が格段に増している。


「そろそろ龍王に挨拶しに行かないか?」

「そうだな、万が一があってもこの四人が負けることはない。ただ、手を出すなよ? 龍族の幹部を舐めてはいけない」

「分かってるわよ、手を出す理由がないわ」


 

 準備をして、次の日の朝リーベン島へ向け飛び立った。

 野営を一泊挟みレトルコメルスに到着。一年ぶりにレオパルドに顔を出し、皆にシュエンを紹介して一泊した。


 二日後、ルナポートに到着した。

 ホテルにチェックインし、まずは昼食だ。


「ここには初めて来るな。シュエン、キミはここから旅を始めたんだろ? 何が美味しい?」

「魚料理だな。生で食べる料理もある、龍族にも生魚を食べる文化はあるが」

「あぁ、龍族のサシミと言うやつだな。あれは美味かった。仙神国にも魚料理はあるが、ムニエルが多い」

「魚は初めて食べるわ、楽しみね」

「わたくしもですわ。シュエン、案内してくださる?」


 シュエンが記憶を辿り、店に着いた。


「あぁここだ、まだあったか。もうここを出て40年以上経つからな、代は変わってるだろうが」


 ドアをくぐり、席に座る。


「ここのカルパッチョが美味しかった記憶があるな。あとはパエリアとピッツァだ」


 テーブルいっぱいに海鮮料理が並んだ。


「あら、美味しいですわ」

「ホント、美味しいわね。ここを離れたら食べられないから楽しまないと」

「このカルパッチョってのが美味いな。これは発見だよ」

 

 初めての魚料理を楽しみ、ティータイムだ。

 リーベン島に入ってからの話に移る。


「俺はあまり人に会いたくは無いな。顔見知りが多いからな」

「じゃあ、龍王の魔力の方に直接行こうかしら?」

「あぁ、屋敷から出ている時が良いな。俺が門番に話つけてもいいが、会いたくない。あの人はよく一人で外に出る」


 シュエンは魔力障害で変わり果てている。しかも、身内や親交があった者達に敵意が向いている。そう思うのも無理はないだろう。


「そうは言っても、買って帰りたい物があるんだが……」

「では、わたくしが買ってきますわよ? 町の人に聞けば分かるでしょうし」

「頼めるか? 醤油と味噌とリーベン島産の米が欲しい。生卵も買っておいてくれ、もう40年以上食べていない。紙に書いて渡すよ」

「卵を生で食うのか……?」

「あぁ、食わせてやるよ。美味いぞ」

「いや、遠慮したいが……」



 ルナポートの町を離れ海上を浮遊する。

 

 ――あれが龍王の住む島、リーベン島ね。

 

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