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ヴァロンティーヌブランド

 

 トリプレットの壊滅で、東の繁華街ソレムニー・アベニューにも活気が戻った。後ろ盾を無くしたゴロツキ共は綺麗に居なくなった。


『魔人マモン一派、マフィアを壊滅させる』

 

 王都やジョカルドから付きまとう新聞社が、また大袈裟に報道している。マモンにとってはどうでもいい事だが。

 

 マモン達はそれぞれの仕事に戻っている。金貸しの集金業務は連日大忙し。サディストマモンを満たしてくれる素晴らしい仕事だ。

 借金を繰り返す者達に支払い能力は無い。働いてもカジノで使い切り、また借りる。利息を支払う為だけに生きているクズ共だ。それでマフィアは儲かる、よく出来ている。


「ねぇマックス、カジノには相当護衛を入れてるんでしょ? ヤバいヤツが来たら押さえられないものね」

「そうだな、アンダーボスがオーナーとしてほとんどあそこにいるよ。あとは週替わりでカポが部下を連れて入っている。俺も良く入るよ!」

「なるほどね、それは安心だわ」



 

 そんな日々の業務をこなして三ヶ月。

 ヴァロンティーヌからアトリエに呼び出され、三人で向かった。


「出来たよ。悩んだ挙句、クロースアーマーとサーコートを作ったよ。気分によって使い分けてくれ」


 マネキンに着せた二着を食い入るように眺める。

 

「素晴らしいわ……やっぱりボスにお願いして良かったわ!」


 クロースアーマーは布製の防護服で今回作って貰った物は鎧の下に着込む物だ。


「鎧の下部分の素材は、うちのシルクを使っている。速乾性と吸湿性に優れているから鎧の中が蒸れにくい。エビルスパイダーの糸で織っているから防御力もある。鎧で守れない部分もあるだろ? お前達の鎧のデザインに合わせて作った。アレクの分もあるよ」


「……おぉ、これは素晴らしいね。大事に使うよ、ありがとう」


「サーコートは冬に使うのが良いかな。私のブランドのロゴをあしらってみた、会心の出来だよ。これも三人分だ」


 膝下まであるコートだ。素晴らしいデザインだ。防寒着としてこの上ない。


「完璧よボス、これ以上は無いわ」

「そう言ってくれると嬉しいよ。これらのパターンはサランに渡しておく。かなり丈夫だから、直しで済むと思うが」

「責任を持って直しますわ。一から作る事も出来ますわよ」


 パターンとは洋服の設計図にあたる型紙だ。サランはこの服の作成に携わっている。安心して任せられる。


「こんなに感動することは無いわね。出会えてよかったわボス」

「いや、それはこちらのセリフだ。お前達のような部下は探してもいないからな。トリプレットの壊滅はお前達の手柄だ。この服のお代は勿論いらない」

「いいの? じゃ、働いて返すわね」



 その後も三人はレパーデスでの仕事をこなした。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 バーレオパルドで三人で飲んでいる。


「ここに来てもうすぐ二年か……ボスも振り向いてくれないしね……」

「それは諦めなさい。他の女構成員に手を出していないのは褒めてあげるわ」

「そんなことしたら更にボスが振り向いてくれないからね……そろそろ移動しないか?」

「そうね……アナタもよく二年も持ったと思うわ……」

「わたくしはどこにでもついて行きますわよ」


 サランにヴァロンティーヌとの面会を頼む。

 一階厨房からワインと軽食を二階の応接室に持ってきてもらった。


「あぁ、ボス。忙しかったかしら?」

「いや、大丈夫だ。何か用か?」

「少し話があってね、飲みながら話さないかい?」

「あぁ、構わない」


 ヴァロンティーヌのグラスに赤ワインを注ぎ、四人で乾杯する。


「そろそろここを出ようと思うの。仕事の引継ぎもあるし、半月後くらいにしようかしら」

「そうか、急だな。と言っても、もう二年になるか」

「ねぇボス。ワタシね、ゆくゆくは自分達の国を作ろうと思ってるのよ」


 ヴァロンティーヌは、何を言ってるんだとでも言いたげにこっちを見ている。


「私は魔王リリスと人族の男との間に生まれた魔人だって事は話したわね? リリスには憎悪の念しかないの。前にアレクサンドと、魔都を乗っ取って自分達の国を作っても良いね、って話してた事があるの。ワタシは最近、本気でリリスを殺して魔都を自分の国にしようと思い始めたの」


「……お前が魔王の子だというのにも驚いたが、また突拍子も無いことを言うもんだね……」

「ねえボス、アナタはレトルコメルスに執着はある? 本当にここが好きでマフィアのボスを張ってるの?」

「いや、成り行きだよ。たまたまここに来て皆と出会い、血の気が多かった私達が暴れたらこうなった。今の地位に執着はしていない」

 

「……ワタシ達、ボスは大切な仲間だと思ってる。ワタシは必ず魔都を落として国を創る。その時は、アナタ達にも来て欲しいの」


 マモンが冗談で言ってる訳では無いことが伝わり、ヴァロンティーヌの顔が真剣になった。ゆっくりとワインを口に流しながら考えている。


「もうここに腰を据えて何年になるか。正直、刺激が無いよ、幹部の皆もそう思ってるはずだ。私が行くと言えば、皆も着いてくるはずだよ。私達は基本的には領民に嫌われてる悪党集団だ、お前達について行った方が居心地が良いだろうな」

「じゃあ、考えといてくれる? 魔都を落とした時には連絡をよこすわね」

「あぁ、分かったよ。でも、皆の気持ちもあるからな。どうなるかは分からない」

「えぇ、当然ね」


 その後は四人で遅くまで思い出話を肴にワインを楽しんだ。

 

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