初仕事
朝起きてメイクをして洋服を選び、ゆっくりと朝食を楽しむ。そしてさらにゆっくりと紅茶を味わう事からマモンの朝は始まる。それは揺るがない。
アレクサンドとサランも朝食を済ませて一緒に紅茶を楽しむ。
「さて、出勤しましょうか」
アレクサンドは美しいボスの為にと張り切っている。
レオパルドに着いた。
一階部分はバーだ。建物の裏手にある階段で二階に行くと、ロビーがあるが誰もいない。
「あら、早かったかしら」
先の部屋から男が出てきた。
「何者が来たと思ったら、君たちか。アンダーボスから聞いてるよ」
「アンダーボス? 組織のNo.2かしら。アナタは昨日トリプレットの対応してた人ね」
「あぁ、僕はカポのエヴァンだ。君たちは僕の下に付いてもらうよ」
次々と知らない言葉がエヴァンと名乗る男の口から放たれる。
「……カポ? なんだいそれは?」
「幹部だと思ってもらえればいい。アンダーボス直属の部下だ、僕を合わせて五人いる。その下に構成員がいるよ。うちには準構成員はいない、精鋭揃いだ」
エヴァンの後に続き、屋敷内を案内してもらう。
二階から五階までかなり多くの部屋がある。五人のカポの部屋と構成員が使う部屋だ。
ボスの部屋とアトリエには、二階から専用の階段で上がる。
「今日はボスいないわね」
「あぁ、今日は朝からお出かけになった」
「そうか、残念だ 」
数ある部屋の一室、扉の前に立ち止まった。
「君たちはこの部屋を使ってくれ。君たちを含む僕の部下たちは30人ほどだ。ここから向こうの三部屋にチームごとに別れて使って貰っている」
「なるほどね。部屋ごとにチームのリーダーがいる感じ?」
「あぁ、そうだ。紹介するよ」
そう言ってエヴァンは扉を押し開け、一人の男を呼んだ。
「マックス、彼ら三人がさっき話した新入りだ。よろしく頼むよ」
「分かりました! ビシバシ行きますよ! 俺はマックス、よろしくな!」
紹介されたマックスは三十歳にはならないだろうか、元気な青年だ。
「えぇ、こちらこそよろしくね。ワタシはマモン、アレクサンドとサランよ」
部屋の中には数人の構成員がいる。
マフィアと言うから殺伐とした雰囲気かと思ったが、喋ると皆気のいいヤツらだ。
「どういう仕事をするの?」
アジトの一室、皆とある程度言葉を交わし、部屋のリーダーであるマックスに質問をする。
「マフィアと言うと聞こえが悪いけど、レパーデスの収入は主に不動産業とカジノ、金貸しだ。普通は銀行口座から引き落としだけど、払わない奴らもいる。そういう奴らの所には俺たち構成員が直接取立てに行く。払わなければ脅してもいい」
「へぇ、殺しはしないのね」
「いや、するよ。一般人には基本的には手を出さないけど、うちの組織に仇なす様な連中は殺していい。トリプレットとかだな、分からないように殺すけどな!」
「なるほどね」
意外とクリーンな組織らしい。
もっと脅して金を取っているのかと思ったが。
「東の繁華街『ソレムニー・アベニュー』の土地のほとんどはレパーデスの所有だ。土地を貸すだけでかなりの収入になる。金貸しに関しては、銀行から借りられないような奴らに貸すから利息が高い。返せないやつが多いから取立てに行くことがほとんどだ。カジノで搾り取って借金させて、利息で更に搾り取るシステムだな」
後はパブやバーを複数経営しており、店の警護も仕事の内のようだ。金を受け取り他の店の警護を請け負うこともあるらしい。街で暴れる冒険者や、一般人に危害を加える様な者達の処罰は領主側の仕事だ。
風俗業はしていないらしく、娼館等との競合は無いらしい。ボスが女性という事も関係しているのだろうか。気にしなさそうだが。
「よし、早速だけど、俺に着いて来てくれ!」
昼を過ぎてマックスについて行く。
借金返済を滞納している男の家に行くようだ。
「よし、マモンだったっけ? お前行ってみな、方法は任せるよ!」
「あら、好きにさせてくれるのね。分かったわ」
呼鈴を鳴らす。が、出てこない。
誰かが中に居るのは間違いない。魔力を感じ取る事ができる者に居留守は通用しない。
「出てこないわね。よし、拷問したヤツから抜き取った記憶を流して込んでやろうかしら。場所は、あの辺ね」
手をかざして記憶を対象に流す。
脳に直接苦痛を与えると、同じような痛みを体験出来る。身体の損傷は無いが。
『ギャァァァ――!』
のたうち回っているようだ。バタバタと音がする。
「居るのは分かってるわよ、やめて欲しけりゃ出てきなさい!」
男は飛び出てきて転げ回っている。
「居留守を使うとはいい度胸ね、もっと凄い物見せて欲しい?」
「やっ……やめてくれ! 払うから! でも……今は金がないんだ!」
マックスの方を向いて男の借金額を聞く。
「4万ブールだ」
「それくらい普通に働けば返せるでしょ。さてはギャンブルね?」
「はい……」
「ギャンブルを辞めろとは言わないわ。一週間猶予をあげる、利息分をレオパルドに持ってきなさい。タダじゃないわよ? そうね……爪を一枚貰おうかしら」
「や……やめてくれ……」
男の左腕を掴み、小指の爪を剥ぎ取った。
『ギャァァァ――!』
「一週間後持ってこなかったらもう一枚爪が無くなるわよ? 利息分だけで良いって言ってるの、必ず持ってきなさい」
「わっ、分かりました! 持っていきますから!」
「そう、じゃあ待ってるわね」
――何これ、スカッとするわ。
「お前、容赦ないな……天職じゃないのか……?」
「あぁ、能力との相性が抜群だ。まさか拷問相手の記憶まで持ってるとはね。その趣味の悪さには脱帽だよ」




