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男達の大宴会

 

 宴会は盛り上がり、立ち上がって席を移動する者も出てきた。鉱夫と鍛冶師は元々仲が良いらしい。


 サランと共にクラウスの横に座る。


「クラウス、これから世話になるわね」

「あぁ、こちらこそだ。久々にアズガルシス鋼を触れるんだ。楽しみで仕方ない」

「どれくらいの物が出来そう?」


 マモンはなんともアバウトな質問を投げかけた。

 

「金属防具ってのは簡単に言えば、鋼を加工し板にして、それを形成するんだ。だから元の金属の質と、加工技術の善し悪しで防具のランクはほぼ決まる」

「特級品相当の板金が出来たら、それで作った防具は特級品って事かしら?」

「あぁ、その認識でいい。レザーアーマーのランクも、ほぼ革の善し悪しで決まるからな」


 サランも一番聞きたかった質問を投げかける。


「アズガルシス鋼で武器は作れますの?」

「あぁ、武器も作る。が、武器に関しては熱した鋼を叩く『鍛造(たんぞう)』が主流だ。だから、特級品が出来るかどうかは分からねぇ。チャレンジしてみてぇところではあるがな」


「……マモン、わたくしの武器を作ってもらっても良いかしら?」


 サランはマモンに向き直って懇願する。


「勿論よ。クラウス、鋼の余裕はあるのよね?」

「あぁ、あれだけあれば特級品の防具は約束する。が、武器は分からねぇ、一級品は出来るだろうがな」

「胡蝶剣を超える双剣が出来たら頂きますわ」

「あの剣を超えられなかったら、作った分の鋼は俺が買い取るよ、かなり高く売れそうだ。作成期間は、そうだな……アレクサンドにかなりこだわりがありそうだからな、武器もとなると最低でも半年は欲しいな。一年はかからねぇと思うが」

「分かったわ、任せるわね」


 クラウスとの話を終えたタイミングで、ベアナードが正面の席に着いた。


「あらベアナード、楽しんでる?」

「あぁ、キレイなねーちゃんと美味い酒、ありがとよ。で、マモン、交渉なんだが聞いてくれるか?」


 ――ワタシに交渉?

 

「アレクサンドは……あぁ、女との会話に夢中だわ」


 これだけの酒宴を開いたのも、自分が楽しみたかっただけなのかもしれない。

 

「どうしたの?」

「あぁ、お前らの強さには感服した、そこで頼みがある。俺のところの鉱夫を総動員してアズガルシス鋼を採掘しに行きたいんだ。その護衛をお前らに依頼したい。ずっとここにいるわけじゃないんだろ?」

「とりあえず、武具が出来るまでは滞在するわよ、一年は居るかもね。ワタシ達は基本的に暇だからね、構わないわよ。この一ヶ月もそうだったけど、Sランクの魔物の相手はいい修練になるわ」

「そうか、じゃあいい返事が聞けそうだな」

「百人の護衛をとかになると無理よ? ワタシ達は三人なんだから」

「あぁ、三十人くらいかな。また声をかけるよ、泊まってるホテルを教えてくれるか?」


 ホテルの名前と部屋番号を伝えた。


「ありがとな。また伝言を言付けるよ」

「えぇ、分かったわ」


 かなり鉱夫達の信頼を得たものだ。後でアレクサンドと相談しよう。



 宴会は大盛り上がりのまま終わった。


「ありがとな! 護衛の件、頼んだぞ!」

「アズガルシス鋼は受け取っとく、明日以降いつでも来てくれ」


 男達はそれぞれ家路につき、女達が残った。


「レディ達、今日はありがとうね。また店に行くから待っててくれ」


 アレクサンドは上機嫌だ。

 女一人ひとりにお小遣いを渡して投げキッスを浴びせている。相当酔っ払っているらしい。金は腐るほどあるから問題は無いだろうが。


「さて、帰りましょうか。アレクサンドに話があるけど、今したら忘れそうね。明日言うわ」

「ボクは酔っ払ってないぞ? さぁ、帰るか。サラン、今日はボクと一夜を共にしないか?」

「ええ、構いませんわよ? ただ、わたくしを抱いたあとで他の女を抱くというのなら、アレクのモノを切り落として差し上げますわ」

 

「……いや、今回はやめておこう……」


 サランの脅しでアレクサンドが青ざめる。サランなら本当に切り落とすだろう。

 マモンの股間にも同じ物が付いている。背筋にゾワッと悪寒が走った。



 ◆◆◆



 二日後、朝食後の紅茶を楽しんでいる。

 昨日アレクサンドは部屋から出てこなかった。


「アレク、昨日はどうなさったの?」

「あぁ、久しぶりに重度の二日酔いだったよ……思い出しても気持ち悪い……」

「あら、言ってくだされば解毒して差し上げたのに」

「え……? 解毒って二日酔いにも効くのか?」

「毒性のある代謝物が原因ですもの。当然ですわ」

「次からはお願いしよう……」

 

 アレクサンドにベアナードからの依頼の話をした。


「クラウスの武具作成は最低でも半年はかかるんだろ? 今回の防具はこだわりたいからね、もっとかかるだろうね。ボクは構わないよ、キミ達に追い抜かれない様に剣術を磨かないとね」

「じゃ、決まりね。またホテルに伝言を言付けると言ってたわ」



 紅茶を飲み干し、クラウスの鍛冶場に向かった。


「おはようクラウス」

「おぅ、おはよう。昨日は二日酔いで店を閉めたよ……ご馳走になったな」

「アナタ達……どれだけ飲んだのよ……」


 この感じだとベアナード達もそうだろう。


「じゃあ、まずは採寸させてもらおうか。あとはデザインの打ち合わせだな」


 採寸を終え、アレクサンドとクラウスが防具のデザインを話し合っている。アレクサンドはセンスがいい、一応マモン達の要望は伝えてあるが、任せておけばかなりいい物が出来上がるだろう。


 アズガルシス鋼を手に取って観察したが、マモンには何が違うのかさっぱり分からない。全てを任せて待つことにしよう。



 

 数日後、ホテルにベアナードからの伝言が届いた。べアナードの事務所に向かう。


「おう、待ってたぞ。採掘の護衛、引き受けてくれるか?」

「ええ、大丈夫よ」

「そうか! ありがたい。で、報酬なんだが、一月一人100万でどうだ? 安すぎるか……?」


 三人は顔を見合わせて頷いた。


「いいえ、ヘルハウンドで儲かるからね、いくらでもいいわ。もし、ワタシ達の武具の材料が足りなかったら貰っても良いわね?」

「あぁ、もちろんだ!」


 正直報酬などいくらでもいい。

 マモン達の目的は()()()()だ。


 アズガルシス山での護衛の日々が始まった。

 

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