アズガルシス鋼
朝早く準備して、ベアナードの作業場に向かう。
「おう、おはよう。見ての通りこの荷物だ。少し移動に時間がかかる」
「いや、これくらいならボクとサランが持とう」
そう言って空間魔法に大量の荷物をしまい込んだ。
「なに!? どこにやった!」
「心配するな、ボク達の能力だ」
手ぶらになった鉱夫達の足取りは軽い。
予定より相当早く着いたようだ。
「さて、実力を見せてもらっていいか? お前らの強さを疑ってる訳じゃない、命を預けるんだ、分かってくれ」
「ええ、当然ね。ワタシが行くわ、二人は皆の護衛ね」
「あぁ、分かった」
少し山に入ると、ヘルハウンドが二頭。
ヘルハウンドは一頭か、つがいで行動するようだ。
「おい、二頭だぞ……? 一人で大丈夫か?」
「あぁ、問題ない」
マモンは剣を抜いて二頭と対峙した。
「グルルル……」
牙を剥いて威嚇している。
二頭が同時に飛びかかって来た。
『剣技 剣光の舞』
踊る様に剣を振り回し、二頭を切り刻んだ。
鉱夫達は言葉も無い。口をあんぐりと開いて見入っていた。
「すごいな……本物だよあんた達は。じゃ、改めてよろしく頼むよ」
「こちらこそよろしくね」
これから何頭も倒すであろうヘルハウンドの処理も面倒だ。火葬して残った魔晶石と牙だけを回収して進む。毛皮は諦めよう。
「この間歩いた時にも思ったけど、鹿や小動物が多いわね。餌が豊富だからヘルハウンドが住み着いてる様ね。他の山には居ないの?」
「あぁ、見ないな。俺らが主に採掘するのは裸に近い岩山だ。植物があまり無いから草食の獣が住み着かん。いても俺らで対処出来るレベルの魔物だな」
「なるほどね、ここの山は鉱山とは言ってもかなり植物が茂ってるものね」
話しながら、時々襲ってくるヘルハウンドを処理して進む。
「着いたぞ、ここだ」
「えぇ、オルトロスを討伐したからね。知ってるわよ」
アレクサンドとサランが荷物を出す。それを鉱夫達がせっせと坑道内に運ぶ。中に魔物が居ないとも限らない。二人に入口を任せて、マモンがついて中に入る。
「思ったより荒れてないな。これなら早く採掘に入れそうだ」
中に一頭ヘルハウンドが居る、魔力を感じるから見落とす事は無い。切り刻んで先に進む。
「よし、ここが最奥だな。ありがとよマモン、後は外で見張りを頼む。昼飯時になったら出て行くよ」
「えぇ、分かったわ。頑張ってね」
皆を中に送ってマモンは外に出た。
「さて、しょっちゅう襲われることも無いから暇ね。何する?」
「キミ達は剣にハマってるんだろ? ボクも振っておかないと追い抜かれそうだ」
「模擬戦でもしとく?」
「そうだな。約一ヶ月あるんだ、剣と魔法と仙術をひたすら修練しよう」
坑道入口に居座る三人はたまに襲ってくるヘルハウンドを斬り捨てつつ、更に自らを鍛錬した。
毎日剣を振り、仙術を習い、さらにそれを圧縮し強力にした。
マモンは自らを鍛錬するのは嫌いではない。身体を動かす事自体が好きなのもある。
坑道の状態が思ったより良かったのもあり、一ヶ月かからずに採掘は終わった。
狩りすぎたからなのか、ヘルハウンドは途中からほとんど坑道に近寄らなくなった。結局一ヶ月足らずで三十頭以上討伐した。報酬は3000万ブールを超えた。
ベアナードの作業場に帰り皆を労う。一ヶ月の付き合いで皆とは仲良くなった。
「一ヶ月近くありがとうね。ワタシ達はヘルハウンドでかなり儲けさせてもらったから、報酬は上乗せして一人10万ブール払うわ。ボーナスだと思って」
「おいおい、良いのかよ」
「あぁ、構わない、ボク達だけ儲けるのもな。今日は酒宴を準備している。お礼に皆で騒ごう、キレイなレディも準備してるよ」
鉱夫達から歓声が上がった。
これから世話になるクラウスと弟子の鍛冶師達も呼んでいる。
皆で宴会場に向かう。男達の宴が始まった。
店は貸切だ。
アレクサンドが厳選した女達が男達の間に座っている。胸の谷間をあらわにした女達に、鉱夫と鍛冶師達の顔が緩みっぱなしだ。
「この女達、どこから連れてきたの?」
「雇ったんだよ。ボクのお気に入りの店のレディ達をね。店とレディに金を払ってこっちに回してもらったんだ」
「アレクはナンパ専門だと思ってましたわ。そういうお店にもおいでになるのね」
アレクサンドは仙神国で女性が働くバーを複数経営していたらしい。それもあって、各町のそういった店が気になるのかもしれない。
ベールブルグのお酒と言えばビールだ。皆にキンキンに冷えたビールが行き渡った。
「皆のお陰でアズガルシス鋼が手に入った。それをこれから加工してもらう。採掘してもらった鉱夫の皆へは感謝を、これから世話になる鍛冶師達には鋭気を養ってもらおうと酒宴を用意した。心ゆくまで楽しんで欲しい」
『では、乾杯!』
アレクサンドの乾杯で男達の大宴会が始まった。女達は仕事で来ている、隣の男達を楽しませてもらおう。
目の前のテーブルには、ぎっしりと料理が並んでいる。
「こういう宴会もなかなかいいわね、サランはうるさくない?」
「いいえ、父の一派はほとんど男でしたので、慣れてますわ」
「あぁ、そうね。ワタシもショーパブを経営してたからね。こういう雰囲気は好きだわ」
サランと喋っていると、隣の女が喋りかけてきた。
「初めまして! ハンナです。乾杯しましょうよ!」
「あぁ、ワタシはマモンよ。ワタシは良いからそっちの男の……あぁ、隣は向こうに夢中ね」
「わたし、店に入ったばっかりで……まだオドオドしちゃうんです……」
「そうなの、キレイな顔してるんだから自信持ちなさい」
「本当ですか? ありがとうございます!」
元気な子だ。
可愛らしい笑顔をマモン達に向けて、ハンナは喋り続けた。
「お二人とも凄くお綺麗ですよね! そして凄くオシャレ」
「あら、お世辞でも嬉しいわ。ありがとね」
「お世辞だなんて! わたしも見習わなくちゃ……」
たまには知らない女と喋るのも良い。無意識のうちに避けていたのかもしれない。




