依頼
「オルトロスを討伐したわよ。領主の所まで案内してちょうだい」
「え……? オルトロスを……?」
驚いた表情の門衛について領主の部屋まで歩く。
執務室と書かれた部屋の扉を入ると、昇化した人族が出迎えた。
領主は机に眼鏡を置くと立ち上がり、三人に近付き一礼した。
「オルトロスの討伐、心より感謝申し上げる。これでこの町の産業の一つが活気を取り戻すでしょう」
「いいえ、ワタシ達はアズガルシス鋼の防具が欲しいだけ。報酬を頂くわ、ヘルハウンドの分もこっちでいい?」
「えぇ、まとめてこちらで承りますよ」
領主の部下が、並んだ依頼品を元に計算する。
「オルトロスとヘルハウンドが五頭、合わせて1200万ブールでございますね」
「一人400万ね、振込でお願いするわ」
「かしこまりました」
サランの冒険者カードがSSに昇級した。
「わたくしも立派な冒険者ですわね」
「あぁ、キミはこのパーティに必須だよ」
「えぇそうね、回復サポート役の重要性を改めて感じたわ」
マモンとアレクサンド二人よりも、当たり前だが戦闘の安定性が増した。
単純に三人になったからではなく、役割の分担がしっかりできるようになったからだ。
マモンはアタッカー、アレクサンドはタンクとして専念出来るようになったのは、間違いなくサランのお陰だ。
領主の屋敷を後にして、鍛冶屋に行く。
「ご主人、オルトロス討伐してきたわよ。ついでにヘルハウンド五頭もね」
「ほぉ……あんな武器を使ってるんだ、タダ者じゃねぇとは思ったが……本当にありがとうな。またアズガルシス鋼が扱えるようになりそうだ、礼を言う」
鍛冶屋の主人は頭を下げた。
「俺の名前はクラウスだ、宜しくな」
「えぇ、ワタシはマモン、アレクサンドとサランよ。こちらこそよろしく」
「腕のいい鉱夫達にも声をかけといた。が、受けるかどうかはアイツら次第だ、ベアナードという男に声をかけるといい。地図を書いたから行ってみな」
「ベアナードね、分かったわ。ありがとう」
とりあえずお腹がすいた。
昼食をゆっくりと楽しみ、食後のコーヒーを飲む。
「さて、鉱夫達と交渉ね。ワタシ達の実力を見せるのが手っ取り早そうね」
「ヘルハウンドごときの相手なんて造作もない事ですわね」
「最悪、金を積めば受けるだろう。護衛でヘルハウンドを狩りまくれば金はいくらでも手に入る」
いつもは紅茶だが、コーヒーもたまにはいい。
店を出て地図を頼りに歩いていくと、鉱物が運び込まれていく建物を見つけた。おそらくあれだろう、適当に声をかける。
「失礼、採掘の依頼をしたいんだけど、ここにベアナードという人は居る?」
「あぁ、案内するよ。こっちだ」
建物の二階の一室に案内された。
「カシラ、お客さんです」
「おう、入ってもらえ」
大柄で屈強な男が机に向かっている。
「あなたがベアナード? クラウスから聞いてきたんだけど」
「あぁ、聞いてるぜ。オルトロスを討伐するとか何とか。随分早く来たな、怖気付いたか?」
「討伐したから来たんじゃない。正式に採掘の依頼をしに来たの」
ベアナードは目を見開いて驚いている。
「クラウスに聞いたのが今朝だぞ……? 午前中に倒してきたのか……?」
「えぇ、ついでにヘルハウンドも五体ほど狩って来たわ。で、いくらで請け負ってくれるの?」
「SSランクの冒険者って事か……Sランク以下の奴の依頼なら受けない。受けるとしたら最低一人30万ブールだな。大体十人で行くとして、300万だ」
「そう。じゃあ、倍出すわ」
「……へっ?」
ベアナードは情けない声を漏らした後、咳払いして会話を続けた。
「……随分と羽振りが良いんだな」
「ヘルハウンド五体分でしょ。それくらい問題無いわ。それに、アナタ達は危険な依頼って言ってるけど、ワタシ達は一人でヘルハウンドを瞬殺できるわよ」
「……嘘じゃないなら護衛としては完璧だ。当然山に入る前に実力を見せてもらうがな。一人60万も貰えるなら請け負ってもいい」
「嘘なんてつかないわよ。一人も死なせないわ、約束する」
「よし分かった、早速明日からでいいか? 二十年以上手付かずの坑道だ、すぐには掘れない。大体一ヶ月は見てくれ」
「一ヶ月毎日護衛するのね。ヘルハウンド絶滅しないかしら」
「絶滅させてくれればありがたいがな。じゃ、明日の朝ここに集合だ、さすがにSランクの魔物がうろつく山に泊まるのは無理だ。日が沈む前にはここに戻る」
「分かったわ、じゃ、明日ね」
話はついた。
明日から一ヶ月間の護衛の日々が始まる。
夜はサランのSSランク昇級祝いに、高級店に来てスパークリングワインで乾杯だ。
「ワタシ達の防具が変わるわね」
「あぁ、デザインにまでこだわらないとな。あの金属を超えるものはなかなか無いからね」
「武器も作れるのかしら? 胡蝶剣を超えるものが出来るならお願いしたいですわ」
「クラウスに聞いてみないとね」
美味しい料理に美味しいお酒を楽しみ、話に花を咲かせた。
アレクサンドは夜の街に消えて行った。
「さて、帰ってゆっくり休もうかしらね」
「えぇ、明日から剣を振るう毎日ですものね」
シャワーを浴び、程よく疲れた身体をふかふかのベッドに横たえる。
目を瞑るとすぐに眠りについた。




