ベールブルグ
サランの屋敷を拠点にして二年が経った。
モレクと始めたショーパブを捨て、王都を出たのはもう三年半ほど前の話だ。
ラオン一派は、ラオンと息子のヒョンジュンが死んだ事で事実上壊滅した。白昼堂々と殺人を犯したり、屋敷に火をかけたりと悪事を働いたが、領主がマモン達に接触してくることは無かった。
町の有力者の息子という事で手を出せなかった犯罪組織を壊滅してくれたと、むしろ喜んでいるのかもしれない。
ただ、魔人マモンとアレクサンドの名は悪名として町中に広がっている。
とにかく、お気に入りの町で平穏に暮らすことが出来た。
私生活では、剣術と魔法や仙術でホワイトファングが絶滅するのではないかと心配するほど討伐した。
マモンは立派な剣士に成長していた。
「そろそろ他の町に行かないか?」
「そうですわね。かなり仙術も双剣術も物に出来ましたわ」
「この町の女が相手してくれなくなったんでしょ?」
「いや……まぁ、そうだな……」
最近アレクサンドの機嫌が悪いと感じていた。よく二年も持ったものだ。
「で、どこに行くの?」
「王都の南の方に町がある。ボクは行ったことが無いからそこでもいいかなと思ってね」
「じゃ、そこにしましょうか。王都には会いたくない人達がいるけど、東エリアから入ったら誰とも合う事はなさそうね」
「わたくしはどこでもついて行きますわ」
次の目的地は決まった、ここから王都までは二日もかからない。モレクには感謝しているが、恩人だからこそ会いたくない。
マモンは人族の世ではただの犯罪者だ。
王都で一泊した後、そこから南下し『ベールブルグ』を目指す。
サランの屋敷の荷物をまとめ、西の王都に向け移動する。
「わたくしのお母様が王都の貴族街出身ですの。兄とは異母兄妹ですわ」
「サランは言葉遣いが丁寧だもんな。母親の影響か」
「祖父母のせいで王都を追われたらしく、その恨みを聞かされ続けたお陰で心は歪みましたけどね」
「まぁ、そのお陰で出会えたなら良しとしようじゃない」
野営を一日はさみ、王都に到着。
王都で一泊し、南に伸びる街道を進むこと三日、昼前に目的地に到着した。
「着いたわね、ここが『ベールブルグ』ね」
「あぁ、そこまで大きな町じゃないな。いや、王都を経由したから余計にそう思うのかもしれないが……」
「とりあえずお腹がすいたわ。でもまずは、ホテルにチェックインして汗を流したいわね」
ジョカルド程大きな町ではない。
道は舗装されているが、時折邪魔な石ころが転がっている。高い階層の建物は殆どない。寂れてはいないが、田舎町といった印象を受けた。
街の中でも一際豪華なホテルにチェックインし、三日ぶりにシャワーを浴びる。防具からオシャレな服に着替えてメイクし、ロビーに集合した。
「遅いんだよキミ達は。遅いだろうと思ってかなりゆっくりしたつもりだったが、それでも待たされたよ」
アレクサンドは腕組み足組みでソファに深く腰掛けていた。イラつきが顔に出ている。
「アナタはレディがスッピンでウロウロする事についてはどう思うの?」
「それは……メイクはするべきだな」
「では、待つべきですわね」
「……そうだな」
三人はホテルのフロントでおすすめの店を聞いてそこに向かっている。
ベールブルグはパラメオント山脈に近い町だ。鉱夫風の男が多い所を見ると、鉱山で栄えた町なのは間違いない。
「なかなか活気のある町だな」
「そうね、鉱山があるということは、鍛冶屋が多そうね。ワタシ達の武具もいい加減整備してもらわないと」
「あぁ、そうだな。こういう町の鍛治は腕が良さそうだ。食事をしてから向かうか」
高級ホテルで聞いた店だけあって上品な店構えだ、客の品がいい。
「あまりうるさい店は好きじゃないからちょうど良いわね。お酒なら賑やかで良いけど、食事は静かに食べたいわ。」
「えぇ、同感ですわ」
「ここの町はソーセージの種類が豊富だな。王都にもあったがここまで選べなかった。となれば飲み物はビールだな」
ビールとソーセージの盛合せ等をオーダーし乾杯する。
「これは美味しいわ。燻製の香りが王都の物とは別物ね」
「あぁ、すごくビールに合う」
「初めて食べますわ、同じ豚肉を使う料理でもこうも違うものなのですね」
王都には各地の色々な食べ物が揃っているが、本場の物は全く違う。各地に赴いて食事を楽しめるのも冒険者のいい所だ。
お腹を満たし、武具の整備のために鍛冶屋を探す。どの町もだいたい鍛冶屋と武具屋が集まっている、すぐに見つかった。
「初めての町は店選びに困るわね」
「鍛冶屋でも武具を売ってる店は多い。売り物の等級が高い店は良い鍛冶屋だよ」
「なるほどね」
時間をかけて見て回ると、売場に一級品の武具が数点ある鍛冶屋を見つけた。
中にいる50歳前後くらいの主人に声をかけた。眼が緑色だ、昇化している。
「失礼するわね。武具の整備をして欲しいんだけど」
「あぁ、預かるよ」
三人分の武具をカウンターに並べた。
「ほぉ、一級品の武具かい。いや、こっちは特級品か……こりゃすげぇ冒険者が来たもんだ。責任を持って整備する、身が引き締まるな」
店の武具を見て回る。
防具は金属製のものが多い印象だ、持ってみるとなかなか軽い。
「冒険者はレザーアーマーを好むけど、ボクは金属鎧だな。動きにくさは確かにあるが、美しさが違う」
「そうね、着けるのもブレストプレートとガントレット、グリーヴくらいだものね。ご主人、着けてみてもいい?」
「あぁ、好きなだけ試してくれ 」
胸甲と篭手を身につけ、腕と肩を回してみる。軽いうえに動きやすい。金属鎧なのに動きを邪魔しない。
「これはいいな。何故こんなに動きやすいんだ?」
「動きがある部分の金属を重ねて作ってるんだ。関節の動きを邪魔しねぇように工夫してある」
確かに、プレートが重なっている部分がある。普通に見るとそうは見えない。
職人技だ。
「ここは軽い金属防具が多いわね。良い鉱物が採れるの?」
「あぁ、ここの鋼は質がいい上に加工の技術も高けぇ。かなり頑丈でしかも軽い。でもな……」
「でも?」
主人は残念そうな顔で話し始めた。




