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基本のパーティー


 店を出てホテルをチェックアウトする為に部屋に戻る。サランにも来てもらった。


「洋服が多いですわね……」

「えぇ、いつもアレクサンドに持ってもらってたけど、サランに任せていいかしら?」

「ええ、もちろんですわ。こんな能力を得たんですもの、わたくしもオシャレは好きですわ。わたくしの屋敷の各部屋には、クローゼットがありますのでご心配なく」



 そのままの足でサランの屋敷に向かった。


「この屋敷に一人で住んでいるのか?」

「いいえ、わたくしの部下は女性が多く使用人も女性ですわ。部下が常駐する部屋がありますが、もうラオン一派は解体ですわ。メイドが数人いるだけですわね」

「ほう、メイドに手を出しても?」

「やめなさいアレクサンド。追い出すわよ?」

「……分かったよ。外で済ませてくる」



 荷物を部屋に降ろし、三人で紅茶を飲んでいる。


「マモンはアレクから剣術を教わったのでしょう?」

「そうね、まだ習って数ヶ月よ。アナタの兄の剣を手にしてからだから」

「え……? それで父を斬り殺しましたの?」

「マモンは剣の才能があるよ。ボクの流派には双剣術もある。指南書も手元にあるから、指南しようか?」

「本当に? わたくしは回復術師ですが、剣を振るうのも好きですの。魔法も教えてくださる? マモンは魔族でしょう?」

「えぇ、魔法は得意よ。アレクサンドは仙術を使うし、それぞれの戦闘法を混ぜたらサランの戦闘力と回復術の効果が跳ね上がると思うわよ」

「攻撃役、盾役、回復役が揃ったね。では、明日から指南しよう」

「剣を振るうくらいならここの庭でもできますわよ。よろしくお願いしますわ」


 サランは回復術師、偶然ではあるが基本のパーティになった。



 ◆◆◆

 


 次の日、朝食を終え、屋敷の庭に出る。

 

「この庭じゃ、剣術のレクチャーは出来ても魔法や仙術はキツイね」


 この大きな屋敷の庭だ、とても広い。

 しかし、魔法や仙術を放つにはさすがに狭い。


「サランは冒険者カードは持ってるのか?」

「えぇ、外に出ることもありますので、Aランクは取得しましたわ」

「そうか、ギルドの依頼ついでに仙術をレクチャーしようか」


 ジョカルドのギルドの依頼は主に、南西に広がる森の魔物の討伐依頼だ。家畜を襲う魔物は多い。

 ただ、ランクの高い魔物の討伐依頼は多くない。SSランクの依頼は見当たらない。


「ホワイトファングっていうのがAランクね」

「ホワイトファングはBランクの魔物ですわ。でも、群れて行動するからAランクに相当する依頼ですわね」

「なるほど、狼の魔物だろ? ならスピードはありそうだ。とりあえずそいつを剣術や仙術で仕留めるか」


 ギルドでホワイトファング討伐の依頼を受け、森に向かう。

 森の入口で足を止めた。


「さて、サランに魔族の戦闘法と仙術を教えとこうかしら」

「そうだな。キミの能力はこういう時に本当に役に立つ」

「何をしますの……?」


 手を翳し、マモンの記憶とアレクサンドの記憶を、サランの脳裏に映す。


「え!? なんですのこれ!」

「どう? 理解した?」

「えぇ……凄くよく分かりましたわ……便利な能力ですわね」


「サランの回復術師としての記憶が欲しいわ」

「えぇ、構いませんわよ」


 サランの頭に手の平を乗せる。

 サランの記憶がマモンに流れてくる。


「へぇ、パク一族は養豚だけじゃないのね。医者の一族とはね」

「えぇ、本業は医者ですわ。養豚はお祖父様の趣味で研究していたものが成功しただけのようですわ」


 アレクサンドにもサランの記憶を映す。


「医療の知識があると無いとで、回復術の効果も変わるんだね。ボクがこの記憶を貰ったところで理解ができないな」

「そうですわね。わたくしはお祖父様に師事していましたので。ラオンはあの通り頭が良くはありませんでしたから、頭の良い医者の家系で落ちこぼれたのでしょうね。それで家を出たのもあったと思いますわ」


 サランは回復術はもちろん、魔法のレベルも高い。これに仙術の自然エネルギーを組み込むのが今後の目標だ。その後、魔法や仙術の圧縮と解放を習得するのがいい。


「自然エネルギー……これは凄いですわ。こんな戦闘法があったなんて」


 

 サランは自然エネルギーを魔力や気力に組み込むのに苦労している。マモンも最初は苦労した。

 属性魔力と自然エネルギーを気力に組込む事が出来れば仙術は完成する。浮遊術なら風エネルギーだけでいい。

 仙人は仙族に能力が近いが、魔力が魔族ほど多いわけでは無い。仙術が扱えればサランの戦闘力は跳ね上がる。

 修練あるのみだ。

 


「サランは切れた腕を接合できる程の術師なのかしら? ラオンが切れた腕をどうにかしろって言ってたけど」

「いえ、理屈では腕をくっつける方法は分かってますの。ただ、わたくしにそれが出来る程の力がありませんわ。くっつけても全ての指が動く保証はありませんわよ」

「それでも凄いことよ」


 アレクサンドの記憶では、龍族に切断した腕を完璧に接合出来るほどの術師がいたらしい。

 龍族の技術をサランが習得すれば更に化けそうだ。勿論マモンとアレクサンドも。



 毎日のように森に出向き、サランの仙術と剣術の習得に付き合った。マモンの剣術の修練もある。アレクサンドはたまに見に来るが、ほとんどはナンパに行っている。

 素早い動きで群れを成して襲ってくるホワイトファングの討伐は、剣術の上達に一役買った。

 

 

 サランは三ヶ月足らずで仙術を自分の物にした。自然エネルギーを組み込んだ補助術での身体強化は、サランの動きを変えた。


『剣技 剣光の舞(ソードダンス)

 

 双剣はスピードタイプの武器だ。

 双剣に風エネルギーと気力を纏い、まるで踊るようにホワイトファングを切り刻んでいる。


「いいね。元々剣術の技術は高かったけど、仙術で更に研ぎ澄まされたね」

 

 サランの戦闘力の強化はもちろん、サランの医療知識の記憶はマモン達の回復術と補助術を強化した。殆どは理解できない知識ではあったが、有益な知識も多々あった。


「強くなるっていいわ。ワタシは退屈が大っ嫌いなの、新しい術や技を習得する為に頑張るのが一番の退屈しのぎね。人を殴り殺すのも良いけど」

「そうですわね、わたくしも仙術のお陰でかなりレベルアップしましたわ。あと、回復術を圧縮する事で効果が跳ね上がりましたわよ」


 アレクサンドの指導で、二人は剣を振るい続けた。

 

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