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サラン


「さて、ボスの剣はワタシが頂こうかしらね」

「あぁ、勝者の特権だ。なかなか良い剣だ、一級品だね」

「へぇ、ランクが上がったわね。一級品に見合うように強くならないとね。で、アナタは逃げないの?」


 マモンが目を向けた先のサランは、逃げもせずに腕を組んでそこに立っている。表情も変わらない。


「あら、逃がしてくださるの?」

「好きにすればいいわ、アナタはワタシ達の楽しみを奪う事はしなかったものね」

 

「……ホント、いい方達なのか悪党なのか……全く分かりませんわ……」

「悪党には変わりないわね」


 サランは組んだ腕を解き、二人に近づいた。

 

「……わたくし、あなた達に興味が湧きましたわ。仲間に入れてくださらない?」

「ワタシはアナタの父親の仇よ?」

「お父様には、お母様の願いを聞いて従っていただけですわ。お母様はもう亡くなったし、死人に従う訳にはいきませんもの」

「そういえば、さっき突き放してたわね……」


 アレクサンドの方を見る。


「ボクは構わないよ。美しいレディなら尚更だ」

「あらそう、ワタシもアナタは嫌いじゃないわ、ワタシも構わないわよ。回復術師なんでしょ?」

「えぇ、回復術師よ。よろしくお願いしますわ。ではお詫びに、父の屋敷の物を差し上げましょう」

「気に入る物があれば良いけどね。じゃあ、案内してくれるかい?」



 サランの案内でラオンの屋敷に着いた。

 石造りの四階建て、流石に大きな屋敷だ。


「誰も居ませんわ、ご心配なく」


 四階のラオンの居室に着いた。


「ほぅ、武具のコレクターだったんだな」

「そうですわね、使いもしない武器や防具を溜め込んでますわ。わたくしの目的はこれ」


 サランは二本の短い剣を手に取った。


「この双剣がずっと欲しかった。使わないなら下さいとお願いしていましたのに、結局くださらなかった。一級品の上位『胡蝶剣(こちょうけん)』ですわ」


 サランは腰に左右一本づつ剣を差している。

 手に取った胡蝶剣を腰に携えた。


 更に奥には、大事に飾ってある剣が光り輝いている。


「これは素晴らしい剣ね、素人目で見ても全然違うわ」

「おいおい、これは……」

「えぇ、聖剣として名高い『デュランダル』ですわ」

「こんな素晴らしい剣を……使わずに飾るとはね……」


 確実に特級品だ。

 見るからに質が違う。


「アレクサンドが使う?」

「いや、ボクにはアスカロンがあるからね。キミが使うといい」

「サランはいいの?」

「わたくしは双剣使いですもの。あなたがお使いになって」


 デュランダルを持ってみる。

 長さは今まで振っていた剣と変わらない。少し長いくらいだ。グリップは両手持ちが出来るよう長めに作ってある。


「これは素晴らしいわね、これ以上は無さそうだわ。ありがたく使わせてもらうわね」


 防具はあるが、重い全身鎧(プレートアーマー)が飾ってあるだけで、冒険者には実用的ではない。


「これはいい収穫だったな。サランも半分持ってくれよ」

「あなた……さっきからどこにしまってらっしゃるの……?」

「え? 空間魔法を扱わないのか?」


 アレクサンドは首を傾げているサランに、空間を開く方法を教えた。


「わたくしにこんな能力があったなんて……」

「これはその眼の能力の一つだ。他にも能力を開眼する者もいる」


 昇化した人族にも眼の力が宿るらしい。空間魔法の能力者が増えた。

 マモンは洋服も増やせると頬を緩ませた。


「お二人、わたくしの屋敷を拠点にしませんこと? ホテル住まいと仰ったわよね?」

「子供それぞれに、あの規模の屋敷を与えてるのか……相当儲けてたんだろうね」

「まぁ、祖父が大富豪なのもありますわね。悪党の息子にも甘かったのでしょう」


 そうなれば、ホテルをチェックアウトしなければならない。


「じゃ、街に出るなら食事をしましょうか」

「そうだね、サランとの出会いに乾杯しよう。ボク達お気に入りのお店に招待するよ」

「ありがたいですわ、そういえばお腹がすきましたわね」



 ラオンの屋敷を後にして、お気に入りの焼肉屋に向かった。


「ご主人、また来たわよ」

「あら、いらっしゃい! え、ラオン一派の娘さんじゃないか……?」

「えぇ、お邪魔しますわね」

「有名人なんだな、サラン」



 ビールを三人分オーダーする。


「では、サラン、これからよろしくね。乾杯」

 

 サムギョプサルを焼きながら、ビールで乾杯した。


「改めてよろしくお願いしますわ。わたくしはパク・サラン。ここを出るなら『サラン・パーク』と名乗りますわね」

「ワタシはマモン・シルヴァニア。よろしくね」

「ボクはアレクサンド・ノルマンディだ。アレクと呼んでくれ」


 やはりここの肉は美味しい。

 進む食の手を止める事なく話を進める。


「でも、ラオンも領主が手を出せないほど強いって事は無かったわね。ワタシが強くなったの?」

「領主が手を出せなかったのは、ラオンがパク一族だからですわよ。領主達が本気で動いたらら、ラオン一派なんてすぐに壊滅ですわ」

「ラオンもそうだが、キミもキミの兄も相当早く昇化したようだね。20歳過ぎで昇化したのか?」

「いいえ、パク一族は特殊ですのよ」


「……特殊?」

「えぇ、わたくし達は生まれながらにして昇化している。理由は分かりませんが、突然変異の類ではないかと結論づけられましたわ」


 生まれながらに眼の力を宿す一族。

 パク一族本家は相当な武闘派なのかもしれない。


「何故ラオンは本家を出たの?」

「パク一族は皆温厚な人達ですの。領主との関係も良好で、町の人達からも尊敬されている。お父様はあの通り粗暴な人、だから家を出たんでしょうね。町の厄介者でしたわ」


 どこの家にもはみだし者はいるものだ。あの男は頭が足りなかった。


 サランも焼肉はよく食べるらしく、この店の味は相当気に入った様子だ。


「ほんと、この店は美味しいですわ。もっと人気が出ても良さそうですのに」

「いやいや、人気が出すぎたらボク達が食べられなくなる」


 サランは空気感がマモン達と似ている、一緒にいて苦にならない。

 美味しいサムギョプサルで乾杯し、新しい仲間との親睦を深めた。

 

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