ラオン一派
紅茶を楽しんでいると、ゾロゾロと男達が来て囲まれた。
オープンカフェの客が皆逃げていく。
明らかに只者ではない男が声をかけてきた。
昇化している為年齢は測れないが、人族で言う所の三十代後半くらいか。
「お前らだな? ヒョンジュンを殺って屋敷を燃やした野郎は。まさか魔族とはな」
「野郎は失礼よ。アナタ達嫌われ者なのね、皆逃げていったわ。それにワタシは魔族と人族のミックス・ブラッド、魔人よ」
「こんなオカマ野郎に殺られたのかあいつは。俺の名前を落とす様な奴は死んで当然だな」
「オカマって言葉は野郎よりも嫌いよ。何コイツ、ケンカ売ってるの?」
「あぁ、そう取ってもらって構わん。向こうに開けた場所がある、ついてこい」
マモンは命令されるのを好まない。
まだ紅茶が残っている。ティーカップの持ち手を掴み、口に運んだ。
「おい! ついて来いっつってんだろ!」
「何偉そうに命令してるの? ワタシ達が紅茶を楽しんでるのが分からない? 先に行って準備でもしときなさいよ。後で殺してやるから」
「……チッ。おいサラン、逃がさず連れてこいよ」
男は部下をゾロゾロと引き連れて歩いて行った。
「キミはサランと言うのか。ボクはアレクサンドだ、アレクと呼んでくれ」
「……あなた達……全く動じないのね……父はまぁまぁ強いですわよ?」
「領主達が手を出せないんだもの、強いんでしょうね。だから何? 従わないといけないの?」
「まぁ、そうですけど……」
「心配しないで、アイツは殺しに行くから。アナタも紅茶飲んでたら良かったわね。ワタシはもう一杯おかわりするわよ」
「……ほんと変な人達。じゃあ、わたくしも一杯くださる?」
「そうかい、じゃ、ボクの横に来なよ」
ゆっくり紅茶を楽しんで腰を上げた。サランの後について行く。
開けた場所には、男達が並んでいた。
「おい、この野郎……どれだけ待たすんだよ……」
「知らないわよ、アナタ達が勝手に決めた事でしょ。来てやっただけ感謝しなさい」
真ん中の偉そうな男がラオンだろう。当たり前の様に昇化してる。
その後ろには三十人程の男達が付き従っている。
「で、ボク達に何の用だ?」
「俺はこの街の顔だ、その顔に泥をぶちまけたんだ、殺してやるよ」
「は? たったの二人を相手に何十人の男を連れて囲む様な弱虫が、この街の顔ですって? どうせ自分は何もせず後ろの男達に戦わせるんでしょ? 弱虫野郎だから」
「……俺が……弱虫野郎だと?」
「事実じゃない、群れてないと一人じゃ何も出来ないんだから。一対一で戦えないんでしょ? 弱いから。まぁいいわ、後ろの雑魚共まとめてかかってらっしゃい」
ラオンはワナワナと怒りで震えている。もう一押しでマモンの剣の相手になってくれそうだ。
「なに? 怖くて震えてるの? 弱虫野郎さん」
「てめぇ……ぶっ殺す……おめぇら! 手出すなよ!」
ラオンは剣を抜いた。
やはり良い剣を持っている。頂こう。
マモンも剣を抜き、右足を引いて構える。自然エネルギーで身体を強化する事も忘れない。
修練の成果を出す時だ。
怒り狂ったラオンと、剣を構えて対峙している。
「ぶっ殺す!」
ラオンが斬りかかってきた。
剣を媒介に守護術を張る、守護術と気力を纏った剣で二枚の防御。
高い金属音が鳴り響く。
流石は組織のボス、強い。が、動きは見える。
この数ヶ月、色々な型や技を覚えた。しかし、それは基本。自分の自由に動いて斬ればいい。
色んな相手を想定して剣を振り続けた。
ラオンの動きは想定内、全ての攻撃を捌くと体勢を崩した。マモンはそれを見逃さない、反撃だ。
『剣技 流星斬り』
半身踏み込んで斜めに斬りつける。
風エネルギーを纏う事で速く鋭さを増した剣戟はラオンの守護術を破壊し、咄嗟に出た左手を斬り落とした。
腕だけか、踏み込みが甘かった。
「グッ……お前ら! 俺を守れ!」
そう言い終わる前に、アレクサンドが取り巻き達の前に移動した。
「おいおい、一騎討ちはキミが受けた事だろう? 形勢が悪くなったら部下に頼るのか? 流石は弱虫野郎だな」
マモンは剣を構え直し、事の顛末を笑みを浮かべて見守っている。
「……クッソ……サラン! 俺の腕をどうにかしろ!」
「お父様、わたくしもこの方達と同意見ですわ。華々しく散ってくださる?」
「お前っ……」
サランと呼ばれた女は、切断された腕をどうにかできる程の回復術師らしい。
「さぁて、覚悟は出来た?」
「まっ、待ってくれ! 金を払おう! よし、俺がお前達の下につこう!」
「興味無いわね、さようなら」
『剣技 刺突剣』
流れる様な刺突をラオンの心臓に突き刺した。ゆっくりと倒れるボスを取り巻き達が見守っている。
剣をビュッ振って血を落とし、マモンは男達に目を向けた。
「さて、取り巻きの皆さんはどうする?」
『ヒィ――ッッ!』
皆、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。




