剣術との出会い
次の日からアレクサンドによる剣の指南が始まった。せっかくいい剣を手に入れた、寝かせておくのは勿体ない。
「キミの片手剣はブロードソードだ。ボクの剣と長さは変わらない。けど、両手持ちも出来るようにグリップが長めに作ってあるね」
「へぇ、どうやって持つの?」
「持ち方は色々あるが、ボクは四本指を合わせて手を広げた時に親指と人差指の間のL字になった部分で、上からグリップを自然に握り込む」
言われた通りに握ってみるが、剣を持つのは初めてだ。まだしっくりこない。
「……なるほどね、とりあえずこれで振ってみるわ」
「両手剣等にはパワーで劣るけど、片手剣のいい所は半身を乗り出して振った時のリーチの長さにある。あとは盾を装備して戦える所だね。だから盾役の武器は片手剣が大多数だ」
「ワタシは魔法アタッカーだし、軽い片手剣が良いかもね」
「ボクは『仙神剣術』を使う。その名の通り仙族が編み出した剣術だ。仙王は剣聖と呼ばれる程の使い手だよ」
「へぇ、仙術の呼吸法を取り入れただけで私の魔法は変わったものね。剣術も取り入れるべきね、魔法が効かない敵もいる事だし」
仙神剣術の基礎を教わった。
仙術を基本とした仙族の剣術だけあって、自然エネルギーを使うようだ。
「自然エネルギーを気力と混ぜて剣に纏うんだ。風エネルギーだと斬れ味と剣速が増す。基本は風エネルギーだね。魔法を纏って放つ魔法剣とは根本的に違う」
「なるほどね、やってみるわ」
特にいつもやっている事と変わらない。
それを剣に纏うだけ。
「なるべく薄く纏うように意識してみてくれ」
マモンは気力の操作が甘い、これで気力の使い方も練習できる。
「なかなかいいぞ、初めてにしては素晴らしい。昨日ボクが見せたソードストライクが突き技の基礎だ。そうだな……その大木に突き刺してみようか」
基礎は学んだ。
構えは左足を前に右足を半身引く。
剣先を後ろに向けて下ろす構えからだと、斬るか突きか分からない。対人ではこの構えが多いらしい。
腰の捻りから、肩、肘、腕まで力を伝え、一気に突く。
『剣技 刺突剣』
対象の木に突き刺すつもりだった。
が、木は微塵に砕け散り、大木は音を立てて倒れた。
「え……凄いわね……」
「うん、良い突きだ。才能があるよマモン」
剣を振るうのは意外と楽しかった。
マモンは魔力は突出しているが、気力はそこまで多くない。ただ、魔族の中ではかなり多い方だ。仙神剣術を扱うには十分な気力量ではあるらしい。
突きや斬撃を含む、様々な仙神剣術を学んだ。剣を振っているだけで一日が終わる。
マモンは剣術に夢中になった。
アレクサンドも弟子が出来た様で楽しかったのかもしれない。マモンは彼の指導で剣を振り続けた。自分でも信じられない、手の平のマメが潰れるまで振った。
それくらい剣はマモンにピタリとハマった。
◆◆◆
何ヶ月剣を振り続けただろう。
更に守護術を学び、ギルドの依頼を剣でこなすうちに、マモンは自分の心が落ち着いている事に気がついた。
ショーパブでショーをしている時もそうだった。何か打ち込める事があれば、それに一心不乱に取り組む。
マモンのストレスやイライラは、単純に退屈から来るものなのかもしれない。
「マモン、だいぶ良くなったよ。キミは意外と真面目に取り組むタイプなんだね」
「えぇ、ワタシはハマったらトコトンよ、男もね。こういう時はストレスが無くなって良いわ、もっと良い剣が欲しくなってきたわね」
街に戻りアレクサンドと昼食を食べていると、一人の女が近付いてきた。
「食事が終わってからでいいですわ。外で待っていますので声を掛けてくださる?」
「は? まぁもちろん外には出るからね。分かったわ」
二人にそれだけ伝え、女は外に出て行った。
「何だ? なかなか美しいレディだったな。ボクに用かな?」
「眼が緑色だったわね、まぁ出れば分かるでしょ」
食事を終え外に出ると、さっきの女が待っていた。
「何か用かしら?」
「残存魔力を辿ってやっと見つけましたわよ。まさか二人とはね、緑の眼とこの髪色でピンときませんこと?」
――髪色?
ダークブラウンのロングヘアーだ。
「あぁ、こないだの何とかってヤツと同じ髪色だ。名前も忘れたが」
「ヒョンジュンはわたくしの兄。赤髪のあなたが殺したのね? その剣は兄の物ですわ」
「ワタシは貰っただけよ、殺したのはこっちの男」
「正直、兄の死なんてどうでもいいこと。父のラオンからあなた達を探してこいと命じられただけですの。アジトを教えてくださる?」
「アジト? そんなものはない。ボクのホテルに来るかい? キミの様な美しいレディなら大歓迎だよ」
目の前の女は全く動じない二人に対し、怪訝な表情を向ける。
「……わたくしの部下を父の元に送りましたわ。皆が来るまで、わたくしはあなた達から離れない」
「へぇ、どうぞ好きにしてちょうだい」
女は一定の距離を置いてついて来る。
昇化している人族だ、かなりの使い手だろう。
「ねぇアレクサンド、お茶でもしない?」
「あぁ、いいね。キミも一緒にどうだい?」
アレクサンドが女の方に振り返り声を掛ける。
「……はぁ? わたしは敵ですわよ?」
「いや、ボクは自分の不利益になるヤツや、直接何かをされたりしなければ、相手を敵だとは思わない。しかも、キミは美しいレディだ」
「……変な人ね。わたくしはもちろんいりませんわ。調子の狂う人達……」




