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殴り込み


 ジョカルドに来て二ヶ月、アレクサンドとランチをしている。


「どう? いい女はいる?」

「あぁ、絶好調だよ。でもな……そうだマモン、鬱憤晴らしをする気はないかい?」

「どういう事?」

「このあいだ一夜を共にしたレディがね、初日に寄った焼肉屋の主人が言ってた、ラオン一派の幹部の女だったらしいんだよ」

「で? そいつがイチャモンつけてきてるって訳?」

「あぁ、そうだ。宿泊してるホテルはバレてるからね。次嫌がらせしてくるなら殺してやろうかと思ってね」


 ――こないだ、ここに住みにくくするのはやめてくれって言ってたくせに……。


「……まぁ、ワタシは良いわよ、付き合ってあげる。どうせならこっちから出向いてやったら?」

「あぁ、それもいいな。レディに場所を聞くか」

 


 その日の夜、アレクサンドは女からアジトの場所を聞いてきた。


「場所は分かったよ。レディは言いたくなかったようだけど、少し脅したら喋ってくれたよ」

「脅したらって……非道い男だわ。まぁ、行きましょうか」



 繁華街の裏路地に建つ大きな屋敷。

 これがラオン一派のアジトなのだろうか。


「とりあえず、入口から入れてもらおうか」


 流石に入口には人がいる。

 アレクサンドは足を止めることなく男の前に立ち、声を掛けた。


「おい、ヒョンジュンというヤツに会いに来たんだが」

「面会の約束はしてるのか?」

「あぁ、ヤツがボクに会いに来る前に来てやったんだ。いいから呼べ」


 全く会話になっていない。


「何なんだお前は。こんな危ない奴を通せるわけないだろ」

 

「よし、マモン。コイツはくれてやるよ」

「ええ、分かったわ」


 マモンは見張りをドアごと中に殴り飛ばした。

 声を出すことも無く気絶している。


「何よ、こんな弱いヤツを入口に置いて何の役に立つの?」


 中には沢山人がいる。

 突如飛んできた仲間を見て狼狽えている。


「なんだお前らは!」

「ヒョンジュンと言うヤツを出せと言ったんだが、門番には話が通じなくてな。キミらも死にたくなければ言うことを聞いた方がいい」


「ヒョンジュンさんは上だよ、通すわけはないけどな」


 そう言って十人程の戦闘員らしき男達は剣を抜いた。

 構わずアレクサンドは階段に向けて歩く。


「ボクは上に行くから、マモンはコイツらを頼むよ。顔を覚えられたら面倒だ、殺しといてくれ」


 男達の剣は、アレクサンドの守護術に弾き返されている。


『風魔法 空気銃(エアバレット)


 両手の指から無数の空気銃を放ち、全員の体を撃ち抜いた。

 雑魚たちの処理が今日のマモンの役目らしい。ついでに鬱憤晴らしに殴っておこう。


「グハッ! ブホッ! ブグッ!」


 全員を必要以上に殴り、撲殺した。


 ――はぁ……快感……。


 アレクサンドの後を追い、二階に上がる。

 もう既に戦闘員達が皆息絶えている。


「ヒョンジュンてのは何処にいるの?」

「この上かな?」


 二人で上がると、男が座っていた。


 三十前くらいの人族だ。

 いや、眼が緑色だ、昇化している。


 男は立ち上がり、アレクサンドと対峙した。


「キミがヒョンジュンか?」

「あぁ、そうだ。お前が俺の女に手を出した奴だな? 女を俺から奪いに来たのか?」


 アレクサンドは眉を顰めて言葉を返した。


「あのレディは一夜限りだ、もう興味はない。そんな事より問題なのは、キミがボクにちょっかいを出してきた事だ」

「その為だけに来たのか? 俺は怒りが収まらんがな。俺の女とは一夜限りだと……?」

「なんだ? 二回目に及んでも良いのか? なら有難く借りるが」

「舐めた野郎だ、覚悟は良いんだな?」


 そう言ってヒョンジュンは剣を抜いた。


「ほう、剣を抜いたという事は、斬られる覚悟があるという事だね? 良いだろう、久しぶりに剣を振るうかな」


 アレクサンドは空間から剣を出した。

 装飾が施された片手剣は眩しく光っている。


「なかなか見られないよ。『聖剣アスカロン』だ」

「ほう、良い剣を持ってるな。俺が頂こう」

「ボクの剣が見えるかな?」


『剣技 刺突剣(ソードストライク)


 速い。

 一気に間合いを詰めてヒョンジュンの胸に剣を突き刺した。

 相手は声も無く倒れた。


  

「アナタの剣術初めて見たわ、凄いのね」

「あぁ、腕のある者が剣を抜いたら、こちらも抜くのが礼儀だよ。さっきの雑魚達にはその価値はない」

「この男は仙人ね、強いんでしょうね」

「あぁ、見ることは出来なかったけどね。こいつの剣もなかなかいいよ。キミも剣を振ってみるか? レクチャーするよ?」

「そうね、杖で殴るのは違うわね。剣も使ってみようかしら」


 マモンはヒョンジュンの剣を拾い上げた。

 二級品らしいが、初めての剣には良すぎるくらいだ。


「石造りだし、中を燃やしとこうか」

「ホント、自分に楯突いたヤツには容赦ないわね」


 その後、屋敷内に火を放ち帰路についた。


「ラオン一派のアジトではなかったのね」

「そうだな、幹部の屋敷であの大きさだ。聞けば分かるだろうけど、ボク達には関係のない話だ」


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