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宝玉の力


 オーベルジュ城、王の間の一室。

 扉を開くと円卓についた各種族の幹部達が一斉にユーゴに目を向けた。


「戻りました」

「あぁ、本当に二人で来たようだな。見えない所に兵を伏せている可能性も考えたが」


 ユーゴはマモンの話と、シュエンの記憶を皆に話した。


 二千年以上生きている四王の二人ですら、目を見開いて驚きを隠せないでいる。


「魔神だと……? 何者だそれは……聞いた事も無い……それがお主の中に居ると?」

 

「ユーゴ、我は初めて君の目を見た時から、人族の子でないことは分かっていた。当然、仙族の子でもない。君の母親が何者なのかも我には分からぬ。その眼の色は見たことがない」


 ――始祖四王も知らない事か……。


「後は、新しい鬼王と魔王の誕生です」

「リリスも自称であったしな、それはどうでもいい話だ」

「四王など大した称号では無い。儂は誰かに譲りたいくらいだ」

「堪えてつかーさいや里長……誰が龍族を纏めんだよ……」


 シャオウの言う通りだ。

 里長でなければあの里は纏まらない。 


 

 一番大事なのは宝玉の件だ。

 

「奴らは今の所、ここを攻める気は無いようです。懸念の一つは晴れました。ただ、奴らは宝玉を狙っています」

 

「……確かに、ヤマタノオロチを封印する時に宝玉を使った。しかし、あれを封印したあの(ほこら)は、儂らがその為に作ったものでは無い。元々あの島にあったものだ」

 

 メイファの話では、里長の能力で封印したと言っていた。ユーゴはてっきり、里長の特異能力は封印術ではないかと思っていた。

 誰にも知らせていなかったらしい。

 


「これは誰にも言うておらぬ話だが……」


 里長は、そう前置きして話し始めた。


「五十年近く前のある日、ヤマタノオロチの封印が何故か解けた。シュエンとヤンガスが討ち取ってくれたお陰で大事には至らなんだが……何故封印が解けたのかは未だに分からぬ。その後、その祠に宝玉を回収しに行った時の話だ、封印する時は無我夢中で祠の中など見もせんかったが、改めて祠の中を詳しく見てみた。最奥に祭壇のような物があり、その上には四つの(くぼ)みがある台があった。それに宝玉をはめてみたところ、ぴたりと合いおった」


「なんだと……?」


 里長と仙王が知らない事。

 始祖四種族が生まれる前からある物ということらしい。


「今思えばだが……ヤマタノオロチはあの祠を護るようにそこにおった。確かに、あの宝玉には封印術式が組み込まれておる。それを四つ合わせれば、術式が反転し何かが起こるのは間違いない。例えば『創造の力』などだな」


「恐らく、魔人は……今は魔王か。その力が魔神の復活に使えるかもしれないと結論付けたのか」

「うむ、封印術を良く勉強しておるようだ。儂と同じような結論に至っておるな」


 仙王は、ハッとした表情で顔を上げた。


「……今思い出した。あれは最初『封玉(ふうぎょく)』と呼んでいた」

「儂にもその記憶があるな……誰がそう呼び始めたのか、いつの間にか宝玉と呼んでおった。封印術式が組み込まれておることは認識しておったしの」

 

 皆静まり返っている。

 当然皆が知る話ではない。


「トーマス、エミリー。君達の気持ちは分かっているつもりだ。だが、君達の仇討ちの為に、この世界を危険に晒すことは出来ない」


 二人の顔は雲らない。

 真っ直ぐに仙王を見つめている。


「当然です。そこまでして仇討ちをしたいとは思いません。僕の一族はそれを望まない、復讐をしたところで一族の皆は生き返らない。僕の心が晴れないのも分かっています。ただ……どうすればいいかは分からない。これは僕自身の問題です」


「私もです、私達の寿命は長い。復讐はいつでも出来る。そして、昨日対峙して分かった。私はまだあいつには敵わない……」


「すまぬ……では、奴らには提案を飲むと伝えよう。そして、皆で奴らを討つ。奴らの暇潰しで世界を危険に晒すなど有り得ん」


 皆、同意見だ。卑怯なのは分かっている。

 が、確かに奴らの暇潰しで世界が滅びかねない。


「最後に、奴らを迎える場所だが、大戦時に魔族の抑えの為に建てた砦がある。今も駐屯の騎士がいる為、普通に生活出来るほど綺麗に保っている。ここから北に徒歩で二日程の距離だ、皆の移動速度ならすぐだろう」


 さすがに直接王都を攻められるような事はないようだ。

 

「では、使者を遣わそう。もう一度君ら四人で奴らを迎えてくれ。その後、魔力を抑えて潜んだ我々が砦から出ていく」

「分かりました」

「ラファさん、ここの厳戒態勢は勿論(ロンモチ)解かないが、(デートリ)の守備人員を増やすよ。当然精鋭でね」

「あぁ、頼む」



 何を企んでいるのかさっぱり分からなかったが、奴らの狙いは宝玉だ。

 更に言えば、魔神の復活だ。それが宝玉で叶うかどうかは分からない。


 奴らの遊びに付き合うのは終わりだ。

 卑怯でもいい。そこでシュエンを正気に戻す。


 精鋭が揃っている、拘束は容易だ。奴らはその可能性は考えてないのだろうか。何か、手があるのだろうか。


 皆、仙王の案に賛成している。

 これは決定事項だ。


 皆で考えた文面をユーゴが手紙に書いた。

 使者達はもちろん精鋭だ、魔都に向かって出発した。


 

 ◇◇◇



 半月後、使者は手紙を渡して帰ってきた。


 提案は飲むと返事している。

 場所と日時も指定した。

 

 奴らの暇潰しが終わるのも、あと半月程だ。



 【第三章 大陸冒険編 完】

 

【作者からのお願い】


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