エミリーの恋 3
箱の中は狭い。
ゆっくりと動く箱は徐々に高度を上げていく。
「これは高い所を楽しむの?」
「それもあるけど、普通の男女はこういう二人だけの空間を楽しむみたいだよ」
――そっか、マシューは恋愛とかが解んないって言ってた。私も今まで分からなかったけど……。
「マシューは誰かを好きになったことは無いの?」
「ん? それは誰かを愛した事があるかってこと?」
「うん、それもあるけど、もっと単純な話。一緒にいて楽しいなとか、また一緒に過ごしたいなとか」
「それはもちろんあるよ」
「私はマシューと一日いて、すっごく楽しかったよ? そういう意味で言えば、私は……マシューの事好きだな……」
――言っちゃった……。
「そっか、僕も今日一日楽しかったよ。そんなに深く考える事じゃないのかもね……でも、今まで生きてきて、性が男に寄ったり女に寄ったりする時期があるんだ。そういう時は凄く悩むんだ……」
「そっか……それは悩むよね」
「自分の性も分からない、愛するべき相手の性も分からないんだ。人を愛するっていうのは、僕には分からない感情だね……でも、エミリーとはまた遊びたいな。これが好きって事なのかな? 分からないや」
――やった!
「じゃあ、また遊んでよ! 術の経過報告以外にもさ!」
「うん、もちろんだよ! また誘って欲しい。僕も誘うよ。そうだ」
マシューは紙に何かを書いて渡してくれた。
「これ、僕の家だ、いつでも遊びに来てよ。また教えてほしいこともあるしさ」
――これは師弟関係のってことかな……? それでもいい、また会えるんだ。
「うん、また遊びに行くね!」
パークを出て南エリアに帰った。
「エミリー、今日は一日ありがとう! 凄く楽しかったよ。術も毎日修練するよ!」
「うん! また遊ぼうね! 分からないことあったらいつでも聞いてね!」
手を降って別れた。
――あぁ、楽しかった……また会えるんだ、やった!
エミリーのお腹が大きな音を立てた。
冒険野郎に行こう。
三人の魔力を感じる。
ドアを押し開けると、手前の席でビアジョッキを持つ三人が見えた。
「おぉ、エミリー! アタシ達は今日も大儲けだよ! もうギャンブルで使い切れないかもな……」
「あぁ、今日も乱獲したな。ワイバーン絶滅するんじゃないか?」
ビールを頼んで、食事を食べる。
「トーマスはどうだった?」
「あぁ、なかなか腕のいい職人だったよ。いまは革を鞣してる途中だ。あの革はすごいよ! 確実に特級品の防具が出来上がる」
「へぇ凄い……それは楽しみだね」
やはりこの三人と一緒は落ち着く。
いつものエミリーに戻った。
「トーマス! バーに連れて行ってもらう約束だったな!」
「あぁ、行こうかジュリア」
「オレが払っとくからいいよ。今日は儲けすぎた」
「そうか? じゃ、頼むよ!」
ジュリアとトーマスは出ていった。
「エミリー、今日は楽しかったか?」
「うん、すっごく楽しかった」
「マシューが好きなんだろ?」
「うん……今日一日を一緒に過ごして分かった。私はマシューが好きだよ」
「マシューは自分の性が分からないって言ってたな……でも、エミリーにはそんな事は関係ないんだろ?」
「うん、男とか女とか関係ない。私はマシューが好き」
「いつか伝わるよ。エミリーの想いは純粋だ」
「うん……ありがとう」
ユーゴは分かってくれている。
そう言えば一昨日も頑張れと言ってくれた。
「トーマスも気付いてるぞ?」
「え……何で……?」
「エミリー、お前は分かり易すぎる。それがお前の良いところなんだけどな。気付いてないのはジュリアだけだ、モレクさんも多分わかってる。マシューに言うとこはないから安心しろ」
――あぁ、それで今日はジュリアを依頼に誘ってくれたんだ……。
「ユーゴ、気を使わせたね……」
「いいって! オレは嬉しいんだ。エミリーを応援したい」
「今日一日、マシューの笑顔を見る度に胸がキュッてなるんだ……」
「それが恋だな、正常な反応だ」
「やっぱりそうなんだ……ジュリアもレトルコメルスでそんなこと言ってたな」
「え……? 誰に?」
――言っていいのかなこれ……? まぁいっか、ユーゴなら言わないだろうし。
「トーマスと二人で一日遊んでた日あったでしょ? ジュリアがオシャレしてた日」
「あぁ、あったな」
「その日の夜、トーマスと一緒にいて胸が締め付けられるような瞬間が何回もあったって言ってた」
「てことは……ジュリアはトーマスに恋をしてるってことか……?」
「私の事を重ね合わせたら、そうかもしれないね」
「ジュリアは恐らく恋に気づいてないな……だとしたら、今のシチュエーションは最高だな。いや、その前にあの二人は仙神国まで二人きりだった。しかもサウナで裸の付き合いもしてる。もしかするともう既に……」
――ユーゴの妄想が先に進んでるけど……そっか、トーマスとジュリアは二人でバーに行ったんだもんね。
「ジュリアに言ってみようかな? トーマスの事が好きなのかもよって」
「あいつは……ギクシャクしないか……?」
「あぁ、そうかもね……」
「うん、やめとこう……」
――そっか、私には分かってくれる仲間がいるんだ。一人で悩まなくても相談できるんだ。
「ユーゴは、エマが好きなんでしょ?」
「え……? あぁ、うん、まぁそうだな……」
「おっぱいおっきかったもんね」
「おい! それだけで好きにならねーよ!」
「分かってるよ。何ムキになってんのさ」
「あ、いや……すまん……」
「エマが言ってたよ。すごい美人とすごい可愛い子が一緒だから心配だって」
「ジュリアと私の事?」
「あぁ、オレ達から見てもエミリーは可愛いと思う。心配はするわな」
「ユーゴは……無いわ……」
「おい、ハッキリ言うな。ヘコむから」
ユーゴの奢りで店を出た。
ユーゴは今日は500万ブールくらい儲けたらしい。エミリーが一人で行ってもそれくらい儲ける事は出来る。
――マシューに武具を買ってあげても良いのかな。プライドってのがあるのかな……難しいな。
「ユーゴ、ごちそうさま」
「いや、いいよ。頑張れよエミリー」
「うん、今のところマシューは私の弟子でしか無いからね。マシューはアタッカーなんだ、またユーゴに相談してもいいかな?」
「あぁ、もちろん」
「ありがとう! おやすみ!」
「あぁ、おやすみ!」
――やっぱりユーゴはいい奴だ。出会った頃からそうだった、お人好しなんだよね。
エミリーの恋は始まったばかりだ。
どうなるか分からないが、なるようにしかな、ない。
遅くなった。
風呂に入ってゆっくり休もう。
◇◇◇
――あれ、誰か入ってるのか……男の人だったら嫌だな……。
シャワーを浴びて汗を流す。
――露天風呂に行きたいけど……男の人がいたらやめよう。
「あれ、リナさんか!」
「あぁ、エミリー様!」
「良かった、男の人だったら上がろうと思ってたんだ」
「私も、またどなたか入って来られたかなって……」
「えっ、前もあったの?」
「先日ユーゴ様と一緒になってしまって……」
「え!? あのスケベ野郎……」
「いや! 違うんです! やめてくださいそんな言い方!」
「えらくユーゴを庇うね……」
「ユーゴ様からしたら、まさか私が入っているなんて思いもしませんよ……一汗かいて二度目のお風呂だった様です。寝る前にお体を動かすほど熱心な方じゃないと、あそこまでの冒険者にはなれないのだと感心致しました」
――ユーゴ、いつもそんな事してるんだ……。
「ユーゴ様はすごくお優しくて、いつも私が良くしてくれるからって……いつも労いの言葉を掛けてくださって……外出の際にはお土産まで買って来て下さって……」
リナの頬はどんどん赤く染まっていく。
――ん? これは……?
「リナさん、ユーゴの事好きなの?」
「え!? いっ……いやっ……まさか……そんな事はっ……」
「いや、いいよ隠さなくて」
「いや……お優しい方だとは思います……すごくカッコいいし、私の仕事を認めて下さるし、すごく笑顔が素敵だし……それに……」
――ユーゴ愛が止まらないじゃないか。罪な奴だよ。
「はい……正直、ユーゴ様が頭から離れません……どうすれば良いでしょうか……初めて人に打ち明けました……」
「実は私も恋してるんだ……分かるよその気持ち」
「エミリー様もですか! でも私、今すごく楽しいんです。この恋は片想いで終わるのは分かってます。でも……今はユーゴ様に尽くしたい。あ! もちろん皆様のお世話を疎かにする訳ではございませんよ!」
「お互い頑張ろうね! もちろんユーゴには言わないよ。またご飯でも行こうよ」
「本当ですか……? 私、この想いを外に出さないと、どうにかなってしまいそうで……ありがとうございます……」
――ん? 誰か入ってきた?
ドアが空いた。
「ユーゴ!」
「え!? エミリーとリナさん!?」
リナがあたふたしている。
「出ていきなさいユーゴ!」
「あっ……あぁ、失礼しました!」
「いっ……いや、ユーゴ様! お気遣いなく!」
ユーゴは逃げるように出ていった。
――何てタイミングの悪い……。
「あの……聞かれてませんよね……?」
「うん……あの反応だと大丈夫だと思うよ……?」
リナとエミリーは仲良くなった。
近々一緒にご飯食べに行こう。
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