エミリーの恋
――マシュー君が隣に来てからすごくドキドキする……なんだろうこれ。
「エミリーちゃんはいくつなの? あ……女性に歳を聞くのは失礼かな……僕まだ慣れてなくて」
「え!? あ……いや、大丈夫だよ。19歳……」
「そうなんだ、僕とそんなに変わらないね。僕は20歳だ、エミリーちゃんの一つ上だね」
――笑顔がすごくいい……なにこれ、すごく胸がキュッてなる……前にジュリアもそんな事言ってたな……。
「マ……マシュー君は……あっ、マシュー君って呼んだらいいのかな? さっき、男か女か分からないって……」
「あぁ、身体的な性は男だからね、普通はそう呼ばれるね。でも、好きなように呼んでくれたらいい。歳は変わらないんだ、マシューでいいよ」
「じゃぁ……エミリーって呼んでくれる……? マ……マシュー」
「あぁ、そう呼ばせてもらうよ、エミリー」
――ハァッ! 何この気持ち!
「どうしたエミリー。具合悪いのか? いつもの元気がないぞ?」
「えっ? ごめん、何か気に障る事言っちゃったかな……?」
「いやいやいや! 私は元気だよ! 何言ってんのさジュリア!」
「なら良かった……変なこと言っちゃったのかと思った。元気に楽しんでくれたら嬉しいな!」
――ダメだ……まともに顔を見れない……。
エミリーはマシューを直視出来ず反対側を向いた。
――ん……? ユーゴがこっち見てニヤニヤしてる……何あの腹立つ顔。
「ねぇ、エミリー達はすごい冒険者なんでしょ? 僕も小さい頃は冒険者に憧れてたんだ」
「そうなんだ……私はジュリアに色々教えてもらって、自然と冒険者になってたな……」
「剣と魔法は小さい頃から教えてもらってたんだけど、性自認で悩み始めてから内向的になっちゃって……ここで働き始めてから、やっと昔みたいに喋れるようになったんだ」
――そっか……すごく悩んでたんだね……。
「冒険者になりたいの……?」
「今からじゃ遅すぎるかなぁ……」
「そっ、そんな事ないよ! 遅すぎるなんてことはないよ」
「一応、剣は振り続けてるし、魔法も反復して練習してる。でも、師匠とは疎遠になっちゃったな……」
「じゃ……私で良ければ……時間のある時教えるよ……?」
「ホントに!? やった!」
――まともに顔も見れないのに教えられるかな……。
「今日初めて会ったのに、約束をするのは図々しいかな……?」
「いや! そんな事ないよ!」
「ホントに? じゃぁ、明後日の朝は空いてる?」
「うん、大丈夫だよ……」
「じゃ明後日の朝、南門前で待ち合わせでどう?」
「うん、わかったよ……」
「やった! 剣の手入れしとかないと!」
――約束しちゃった……楽しみ半分、あと半分は……何なんだろ……。
「よし、今日は帰ろうか!」
「あらそう? 楽しい時間はあっという間ね」
――え!? もう帰るの!?
「ん? エミリーどうした?」
「え!? い……いや、何でもないよ? 帰ろうか」
「じゃ、モレクさんありがとう。また来るよ」
「みんな、またなー!」
『ありがとうございましたぁ〜!』
皆で外に出て城に向かって歩き始めた。
「エミリー、今日はなんか調子悪そうだったな。大丈夫か?」
「え!? そんな事無いって!」
「いや、オレには楽しそうに見えたけどな!」
「うん! たっ…… 楽しかったよ!」
――ジュリアにはいつもと違うように見えたのか。そうだよね……私もそう思うし。
話しながら歩いてるとすぐに城に着いた。
「いい夜だったね。よく眠れそうだ」
「うん、当分ゆっくりするか! マモン達の情報は無いしな。魔都に居ると思っていいだろ」
「そうだね、王都の斥候とかがいるんでしょ? その情報を待つのが一番だね。レオナード王に情報もらうように頼んでみるのがいいかな」
「じゃ、みんな、おやすみ!」
「あぁ、おやすみ!」
(エミリー、明後日頑張れよ)
「え!?」
(あぁ、うん……)
――ユーゴが聞いてたのか。
頑張る? 何を? まぁいっか。
四人はオーベルジュ城に戻り、それぞれの部屋に帰って行った。
◇◇◇
あれから二日後の朝。
皆で朝食を食べている。
エミリーはマシューに剣と魔法を教える約束をしてる。
――眠い……緊張で眠れなかった。
今日も元気なジュリアが口を開いた。
「皆、今日は何するんだ?」
「僕は教えてもらった防具職人の所に行くよ。昨日皆に採寸させてもらったからね。いいの造るから期待しててよ」
「そりゃ楽しみだな。エミリーは何かあるのか?」
「え!? いや……うん、ちょっと外にね」
「そうか、ついて行こうか? アタシ用事ないんだよ」
「いやっ! ジュリア! オレとギルドの依頼を手伝ってくれないか?」
「ん? じゃあ、ユーゴを手伝うか。悪いなエミリー」
「いや……大丈夫だよ」
――あぁ、ビックリした。いや……何で隠したんだろ私……。
エミリーは部屋に戻り、ベッドに並べた服を眺めている。
――今から剣と魔法を教えるんだもんな。可愛いワンピースで行ったらおかしいよね……。
いつものシルクシャツに袖を通した。
冬も近い、防寒する程でもないがストッキングを履き込んだ。
服を選ぶのに時間を食い、いい時間になっている。南門へ向かった。
「あ、エミリー! おはよう!」
「おはよう、マシュー」
――笑顔が眩しい……。カッコいいとはまた違う。ううん! カッコいいんだよ。それだけじゃない、じゃないとこんなに緊張しない。
エミリーの胸は二日前よりときめいている。
顔が紅潮しているのを感じる。
――多分……私、マシューの事が好きになっちゃったんだ……普通に喋れないと、顔も見れずにモジモジしてたら嫌われちゃう……いつも通りにしなきゃ。
「じゃ、いこっか!」
「うん、お願いします!」
しかし、目を見ることは出来ない。