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フォーユー  作者: 白河田沼
第一部 第一章 連続老若男女失踪事件
2/4

第01話 目覚め


夢を見ていた

パチリと目が覚める。


白い天井。




首を横に向ければ目に映るのは開いた扉そして姿見そこに

女がいた。



白く長い髪に疲れた赤い目をした頬のこけた女。

長い前髪のせいか少しだけ姿は捉えずらいが顔は整っている。

それがワタシであると認識するのにそう時間は要さなかった。


ワタシ、私か



頭に包帯がついていることからどうやら何かの事故に遭ったらしい

そのまま体を起こす。

少しだけ頭が重いなと考えつつ

長い前髪を横にずらして

私は観察する。




まずは手。



布団の中に埋もれた手も引き抜き出来るだけ客観的に目に映る情報を整理する。



白い手。

栄養を取っていないのかその指は皮と骨で出来ているような細さをしていた。


腕も同じだ全く肉がついていない。

ついているものと言えば細い管と皮くらいだ。




布団をベロンとまくり足を露出させる。



外の気温故だろうか少し肌寒い

体を抱きしめこすっても少しだけ温かみが生まれるだけで完全には暖が取れなかった。

そうしながらも目に映る足はなんとも細く便りないものだ。


一体私は何ヶ月眠っていたのだろう。

食事すらとれていないのではないかと考え思いつく

私は未だ一番重要なモノを観察していないのだと


例えば自分の腹の具合とか






ぐぅ~と腹の虫が声を上げる。



こういう時はしょうがない。

お腹が減ったのを誤魔化す為にも




「運動するか。」







バタンと何かが落ちた音がした。












その音を気にすることなく布団の上を立ち上がり飛び跳ねようと試みれば





「待って!!待ってください!!」

と呼びかける声が聞こえた。

声がする方に顔を向けてみればナース服を着た女性がいつの間にか近づき私になんとしがみつき動きを封じてこようとしてくるではありませんか。



「落ち着いてナースさんちょっと運動するだけです。」




「いや、色々と外れちゃいけないものまでとれちゃいますから!!」

何をそんなに慌てることがあるのだろうか。



「股の間に入ってた管ならもうとれたよ。」



「ああ一番とれちゃだめなやつ!!!」

布団に転がっている管を見せながらの言葉に看護師は大きく動揺する。

正直に言うなら立ち上がったタイミングで取れていた。長さ的にはどうやらゆとりが無かったようだ。

寝たきり状態だったからか立ち上がる想定をしていなかったのだろう無理もない。



「その通りですけどまずはベッドから降りてください!!」


手で頭を抑えられながらの彼女の言葉に少し瞠目する。

運動は大切だろうに




「今は!!しなくていいんです!」

廊下から多くの人の声が聞こえる

その声は年寄りから若者、引いては子供まで様々だ

おそらくはこの騒ぎで人が集まってきたのだろう

・・・・それにしても


「あの人が。」「あれ、起きてる。」「あのお姉さんだあれ。」「うわ、すっげぇ美人。」「っていうか何してるの?」「痩せすぎじゃね。」「白髪赤目って現実にいるんだ。」「ここから見ても肌スベスベだすごい。」


「多いな。」

一言口に出して顔を上げれば一部の人は気まずげに視線を逸らしまた一部の人は視線にすら気づかないのか私の顔や体をジロジロと見る。そしてもう一部の人は頭髪や服などの身なりに気を使い出した。


どうしたんだろうここは面接会場じゃないのに。





「あー!ダメ、ダメですよここは立ち入り禁止ですから」

と看護師が部屋に入りかけていた彼らを無理矢理押し退け扉を閉めた。



ガチャリとカギも忘れずに。




「全く油断する隙もないんだから。」


この看護師はいつのまにか私の手を抜けて一連の動作をとった、中々の手練れかもしれない。




「何が手練れですか早く寝ますよ。」

私を座らせベットに横たえた動作にも全くの隙がなかった。



「隙ってなんですか。全く昔っから手がかかるんだから。」

ふんすと少しだけ怒りつつも発せられた言葉はしかしどこか温もりに満ちていた。けれどワタシはその顔をすぐに悲痛なものに変えてしまう。

だって





「昔って、なんの話?」






(ワタシ)は何も覚えていないのだから



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