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第9話

 ファーラ伯爵との会話を終えてからというもの、レーチスの様子は誰の目にも明らかに、なにか良いことがあったのだと見て取れるほどに上機嫌になっていた。


「(くふふ…。この私が次期伯爵の座を手にできるとは…!これまで苦労に苦労を重ねて伯爵の機嫌を取り続けてきたかいがあったというもの…!)」


 今まで伯爵に逆らうことなく、そして同時に伯爵の機嫌を損ねないよう細心の注意を払った行動をとってきたレーチス。その喜びようは、これまで感じたことのないほどのものだったことだろう。


「それもこれもすべて、ある意味セイラのおかげだ…。まさか彼女に聖女の力などがあろうとはいまだに信じられないが、それでも結果よければすべてよし…!」


 レーチスはセイラとそれほど多くの接点があったわけではなかったものの、彼女の名前を口にしたことで、その思い出を脳裏によみがえらせた。


――――


「…やれやれ、伯爵様の悪口を言うつもりはないが…。こんな女のどこがいいというのか…」


「ご、ご期待にそえられず、申し訳ありません…」


「はぁ…。それが君の中でのあいさつなのか?君の口からはそれしか毎日聞いていないんだが?」


「は、はい…。ごめんなさい…」


 伯爵に媚びを売ることに精神をすり減らしていたレーチスは、このように気弱で絶対に反撃をしてこないセイラに言葉で攻撃を行い、そのストレスを発散していた。


「…あまり私をイライラさせるものではないぞ?私が一言伯爵様に君の悪口を吹き込めば、たちまち君の立場は危ないものになるのだからな?それを忘れるなよ?」


 仮にレーチスが本当にセイラの悪口を伯爵に告げたところで、そうなるはずなどはないのだが…。


「は、はい…。レーチス様の仰せのままに…」


 それでも何も言い返してこないセイラの存在が、レーチスにとっては都合がよかった。そしてこのような会話は、何度も何度も繰り返し行われていた。


 本来ならば、レーチスは伯爵の婚約者となるセイラに媚を売って、自分を売り込むの最適な行動であろう。しかし彼女に媚を売ったところでなんの得にもならないと、レーチスの本能は分析していた様子…。


――――


「(ある意味、今の私があるのは彼女のおかげかもしれないな。し、しかし…)」


 上機嫌なレーチスの表情が、少しだけ曇る。


「(もしもセイラが本当に聖女だったなら、はたして仕返しをしてこないと言い切れるだろうか…?あれだけいびってきたのだから、なにかやってきても不思議はない…のか?)」


 その不安は正しいものであった。けれどそれを払拭して有り余るほど、次期伯爵という言葉は魅力あるものだったようで…。


「(まぁ、仮に本当にセイラが聖女などだったとしても、気弱で貧弱な性格のセイラに、私に仕返しをしてくるほど度胸のあることができるはずもないか。伯爵様の操り聖女となる予定のセイラになど…。それになにより、その頃にはこの私は伯爵となっているのだ。なにか反撃をしてこようとも、伯爵の権限の前に彼女の考えなど消え去ることだろう)」


 これまで伯爵に仕え続けてきたからこそ、貴族としてのその権力の強さも心得ているレーチス。自分がセイラに追い落とされることなどありえない。そう確信した表情を浮かべていた。


「(次期伯爵となったらまずはなにをするか…。欲しかったものをすべて買って、抱きたいと思った女たちをすべて自分の屋敷に集めて…。あとは、そうだな…。私も誰か自分にとって都合のいい婚約者を立てても面白いな…)」


 ぐへへへと下品な表情を浮かべ、明らかに何か楽し気な妄想を繰り広げているレーチスのもとに、伯爵家の使用人が足早にあることを知らせに来る。


「レーチス様、お客様がお見えです」


「まったく、人が楽しい時に…。お客様だと?一体誰だ?」


「オクト騎士団長様と、ガラル副団長様でございます。…いかがいたしますか?」


「い、いかがしますかと言われても…。そもそも伯爵様はどちらにいらっしゃるのだ?まずは伯爵様にお伺いを…」


「そ、それが伯爵様はレリア様をお連れになって外出中でございまして…。さらに騎士のお二人は、伯爵様でなくレーチス様でも構わないからお話をされたいと…」


「な、なんだって?それは面倒な…」


 こんなことが今までになかったために、レーチスはその頭を悩ませる。


「(わ、わざわざ訪ねてきた騎士団長を追い返すことなどできるはずはない…。しかし私は今まで話したこともない初対面だぞ…ま、まともに話ができるとも思えないが…う、うーむ…)」


「ど、どうされますか、レーチス様…?」


「よ、よし、分かった。お通ししてくれ。何の話をしに来たのかは分からないが、伯爵様はいないわけだし、まぁ適当に世間話をしてあしらえば満足して返ることだろう…」


 レーチスはそう判断し、二人との会話を始めることとしたのだった…。

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