第82話
「な、なぁ…。お前はいったいどっちが勝つと思う?」
「そ、そんなの団長に決まってるだろ!あんな生意気な新入りに負けたりしたら、それこそ今まで団長に仕えてきた騎士たちの面目丸つぶれじゃないか!」
「…でもだからこそ、こんなありえない決闘が開かれたとは思わないか?そのまさかが現実になった時、それこそ騎士が築き上げてきた秩序は根底から覆されることになりかねない…!」
「し、しかし…!いくらなんでも…!」
多くの者たちはもうすっかり、『負けた方は騎士団を辞める』ものだと思い込んでいる様子。互いに剣を構えるオクトとターナーの姿を見た騎士たちは、各々の言葉で会話を行っていた。二人が互いを目指して駆けだすまでの時間は、現実にはごくわずかなものであったが、それを見守る者たちにとっては永遠のように長く感じられたことだろう。
「…く、くるぞ…!!!」
…二人にしかわからない間合いを合図とし、美しい姿で剣を構える二人は互いを目指していっせいに駆けだした。目にも止まらない速さで突き進む二人の姿は、同じ立場である騎士たちでさえ目で追うのがやっとであった。
「は、はやいっ!!!」
「この気合の入りよう…。やはり二人には、なにか負けられない大きな理由が…!!」
「間違いない!二人とも騎士の誇りを背負っているんだろう!そうでなければこんな重く苦しい雰囲気、ありえるものか…!」
鬼気迫る表情を浮かべる二人の雰囲気と緊張感に会場全体が支配されたその時、あろうことか突然ガラルが二人の間に割って入った!
「はい!!!!!!!そこまでですよ二人とも!!!!!!!」
「っ!?」
「っ!?」
攻撃を仕掛けた瞬間に横から人間が飛び込んできた場合、普通ならばそのまま体を止めることができず飛び込んできた人間を攻撃してしまうことだろう。
しかし互いにたぐいまれなる実力を有する二人は、振りかざした剣先を命中寸分のところでとどめ、攻撃中止を実現させた。結果的に誰にも剣先が当たることなく着地することが叶ったが、しかし当然ガラルの危険な行動に2人からは非難の声が上がる。
「おい!副団長様よ、危ないじゃないか!!遊びじゃないんだぞ!!」
「……ガラル、いったい何のつもりだ?」
もうすっかり戦う気であった二人は、ガラルによって中断されてしまったことをあまり快くは思っていない様子。二人の決闘を見守っていた者たちもまた、驚きの声を上げていた。
「な、なんだなんだ!?何が起こってるんだ!?」
「あ、あまりにやばすぎる事態になったから、いよいよ副団長様が止めに入ったんだろうか…?でもそれにしても遅すぎるよな…」
「お、おい……ま、まさか二人を戦わせるように仕向けた黒幕は副団長だったんじゃ!?」
「いやいや、そんなことあるはずないだろう…」
中には正解を言っている人間もいたものの、やはり目の前で繰り広げられているこの光景を正確に理解できるものはどこにもいない様子だった。
そんな混沌とした雰囲気の中にある会場の中にあっても、ガラルだけは相変わらずくすくすと笑みを浮かべていた。そんなガラルに対し、ターナーはやや口調を荒げながら言葉を発する。
「…まさか、あんたまでこの戦いに名乗りを上げようっていうんじゃないだろうな?」
「(こ、この戦いに名乗りを!?それはじゃあガラル様も団長の座を狙っているということなのか!?)」
「くすくす…。確かに僕にとってもそれ(セイラ様のエスコート)は非常に魅力のあるもの…。あながち間違いでもないかもしれないねぇ…」
「(や、やばいよやばいよ……!?副団長様まで騎士団の乗っ取りか何かをたくらんでいるって……この騎士団これからどうなっちゃうのよ…)」
「まぁですがご安心ください、お二人とも。別に僕は、お二人の戦いに割って入るつもりはありませんから♪」
「(ふぅーーー…。さすがに副団長様はまともだった……よかったよかった……)」
「…割って入る気がないのなら、とっととそこをどいてもらおうか。でないと団長様に一撃入れることができないんだが」
「ガラル、そもそも決闘で決着をつけろと言い出したのはお前だろう。それを今になってやめろとは、いったい何を考えている?」
二人からそう言葉をかけられたガラルは、やれやれここまでかといった表情を浮かべていた。それはまさに、ずっと待ち焦がれていた劇を見に来たというのに、その楽しい時間は一瞬のうちに終わってしまって、残念そうな表情を浮かべる人間のそれであった。
「(本当はもっともっと引っ張って、二人をセイラ様に告白させるほかなくなる段階まで遊びたかったのだけれど…、まぁ、今回はこのあたりで十分でしょう♪)」
「…ガラル?」
ガラルはオクトとターナーに自分に近づくよう手で合図を送った。その通りに二人がガラルのもとまで近づいてきたとことで、彼は二人にしか聞こえない程度の声でこう言葉を発した。
「えぇ、実はですね、今お二人が会いたくて仕方がないであろう方をここにお呼びしております♪」
「…は!?」
「なっ!?」
「戦いたくて仕方がないくらい好きなのでしたら、直接言ってみたらいかがですか?あぁ、集まった観衆たちはこの僕が対応いたしますのでどうぞお構いなく♪」
ガラルはいたずらっ子のような表情で二人にそう告げると、ある一角に向けて手で合図を送った。それを確認した後、二人の人物が会場に現れ、そのまま3人のもとを目指して進み始めた。
それはほかでもない…。
「「セ、セイラ!?」様!?!?」




