第80話
ガラルが無駄に神妙な表情で二人の決闘を認めてしまったがために、騎士たちの心は大きく動揺していた。これまでに起きたことない前代未聞のこの決闘、一体どんな決着を迎えることになるのかなど、誰にも想像ができなかった…。
…しかし、こうなるに至った理由は実にシンプルで単純だった。
――今から数日前の事――
「だから何度も言っているだろう!セイラをエスコートするのはこの俺だ!」
「身の程をわきまえろ。お前にはまだまだ騎士としての品位が備わっていない。ゆえにセイラ様の事を任せるなど」
「そんなもの関係ないね。よりふさわしい人間がセイラの手を引くべきだ」
「あぁ、その通りだ。ゆえにセイラ様にふさわしい人間とは、他でもないこの私であり」
「それが違うって言ってるんだよ!」
…祝勝会の場でどちらがセイラをエスコートするのか、まだ揉めている二人…。騎士の本丸であるこの城の中で開催される催しの場とあっては、二人ともセイラにかっこのいい姿を見せたいらしい…。
「祝勝会の意義を忘れたか?これは魔獣の退治を祝うものである。ならば、セイラ様とともに一丸となって魔獣の退治にあたったこの私が、最もふさわしいと考えるのが普通だろう?」
「詭弁だね。団長はタイミングが良かっただけじゃねえか。その時俺が退治に向かっていたなら、団長に負けないほどの活躍をすることができたに決まっている」
お互いに引かず、このままでは永遠に終わらなさそうな雰囲気さえ醸し出す二人。その様子を遠目からにっこにこで眺めていたガラルは、二人を挑発するかのような口調で言葉を投げかけた。
「そこまでおっしゃるのでしたら、いっそ直接対決でお決めになるのはどうですか?この城の地下にある闘剣場ならば、誰に遠慮する必要もなく全力で対峙することができるかと思いますよ?♪」
いたずら心満載でそう問いかけるガラル。普通に考えればそんな危険で冗談にしか思えない提案は受け入れられるはずもないのだが、二人は互いに引くに引けなくなっている様子…。
「お、俺は別に構わないが、だがもしも俺に負けたら団長は恥をかく程度じゃすまない思いをすることになるなぁ。俺はやってもいいが、団長が嫌だって言うなら仕方ない、他の手立てを…」
「それはこっちのセリフだな。騎士を束ねる長である私が負けるはずがない。しかし新米騎士が身の程をわきまえずに団長である私に対決を挑み、あえなく倒されたなどと騎士たちに噂が回ったら、それはお前の名誉を大きく傷つけることになる。…私は別に構わないが、お前が嫌だろうから私は」
「は、はぁ!?俺は構わないと言っているだろうが!!」
「そ、それならば私だって構いはしない。やろうじゃないか」
「(笑笑笑笑笑笑笑笑笑)」
内心ではやや焦りを浮かべながらも、絶対に相手にそれを見せるまいと胸を張る二人。そんな二人を見て、内心では爆笑しながらもそれを悟られたら殺されてしまうと察し、必死に我慢しているガラル。騎士の城の一室で繰り広げられるものとしては異様ともいえる光景がそこにはあった…。
「それじゃあ、お互いの同意は得られたという事よろしいですね?決闘の手配は僕が行いますで、お二人はこれから準備の方にあたっていただければと思います♪」
「けっ。やってやろうじゃねぇか」
「あぁ、望むところだ」
「(お、お二人とも一気に顔つきが変わった…)」
先ほどまでとは打って変わって、二人とも一気に戦う男の表情を浮かべていた。二人は正真正銘の騎士であるため、もしかしたら二人とも心の中ではこうなることを望んでいたのかもしれない。
「それじゃあ、時間は今から3時間後といたしましょう。ルールは先に相手に一撃与えた者を勝者とする一撃必中ルールが良いと思われますが、いかがですか?」
「なんでもいいぜ、俺は」
「私も構わない」
…もうすっかり戦う気満々の二人は、見る者に緊張感さえ与えるほどの殺気を醸し出していた。ガラルはオクトとの付き合いをかなり長いものとしているが、それでもオクトがここまでのオーラをにじみだす姿は、初めて見たかもしれない様子だった。
「あと3時間だけか、団長様が団長室に堂々と座っていられるのも。まぁせいぜい最後の時を後悔なく過ごしておくんだな。俺は俺の準備をさせてもらうよ」
ターナーは挑発的な口調でそう言うと、二人の前から姿を消していった。部屋の中にはガラルとオクトの二人が残され、二人の間を独特な雰囲気が包む。
「…いやぁ、大変なことになってしまいましたねぇ、団長…」
「はぁ~……」
オクトはガラルの言葉を一旦スルーすると、慣れた手つきでタバコを一本取り出し、マッチを使って火をつけた。
ちなみにそのマッチは、かつてセイラからプレゼントされたものである。
「フーーーッ…………大変な事?ガラル、お前は楽しんでいるようにしか見えないが?」
「さぁて、何のことでしょう?♪」
「はぁ……。フーーーッ…」
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