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第78話

 セイラへの再攻撃やシャルナとの政略結婚を目論むクライム、そして今よりもさらに上の権力の掌握を目論むレリアの二人を中心として、伯爵家は大きく揺れ動いていた。

 そしてそんな彼らの動きを知らせるかのように、今日もまたラルクのもとには助けを求めて駆け込む人々が現れていた。


「ラルク様、なんとかお助けいただけませんでしょうか…。ファーラ様からラルク様に伯爵様が変わられてからというもの、私の娘を自分のもとに差し出せという脅迫文がひっきりなしに送り付けられているのです…」


 そう、クライムは伯爵という立場のもとに無数の側室を取ることを画策し、自分が気に入った見た目をしている相手に片っ端からこのような手紙を送り付けていた。

 ラルクは差し出された手紙を受け取り、その内容を読み上げる。彼の隣ではセイラもまた手紙の内容に目を向けていた。


「なになに…。『喜べ、お前が愛情をかけて育て上げたセレッサは、これより伯爵であるこの俺の側室として預かることに決めた。早急に支度をせよ。なお、断ることは許されない』…ねぇ…」

「(ファーラ様からクライム様に伯爵位が移っているというのはオクト様から聞いていたけれど、これを見る限り人間性は何も変わっていないみたい…)」


 さすがは兄弟、といった様子でため息をつくセイラに対し、ラルクはなにやらふっふっふと怪しげな笑い声をあげた。


「…なんですかお兄様?」

「ふっふっふ…。こんな脅迫めいた手紙を送り付けてくるということは、男として自分に自信がないなによりの証拠…。僕ならば、自分の魅力を全霊をかけて相手にぶつけ、惚れさせてみせるね♪」

「……は?」


 普段通りのどや顔でそう言葉を漏らすラルクの事を、いぶかしげに見つめるセイラ。しかしそんなラルクの言葉を聞いて、依頼人の男は体を震わせはじめ…。


「さ、さすがはあのファーラ伯爵をも倒したと目されるラルク様!!なんと男らしい方なのでしょう!!その自信に満ち溢れた美しき雰囲気!!まことに素晴らしい!」

「…やはり、わかってしまいますか…。本当は隠しておきたかったのですが…(キラッ」


 ファーラを倒したと言えるセイラの方なのだが、こうなる展開はこれまでと相変わらず。それをさも自分がやり遂げたかのように演出するラルクは、まさに千両役者と言える。


「隠されることなどできませんとも!私はあなたのような方にこそ娘をもらっていただきたく」

「ちょ、ちょっと待ってください!!話がずれてますから!!」


 …これ以上持ち上げられたら、またラルクが調子に乗ってしまう…。そう考えたセイラは全力でそれを阻止しにかかった。…もっとも、もうすでに手遅れである様子もあるが…。


「ご安心ください!あなたの愛する大切なご令嬢は、このラルクが責任をもってお守りいたしましょう!」

「おお!!」

「この僕を前にして、貴族も盗賊も、果ては魔獣に至るまで尻尾を巻いて逃げ出していったのです。僕には《《勝利の女神》》が味方しているのですから、うまくいかないはずはございません!」

「おおぉぉぉぉ!!!!」

「そしてフィナーレには……ご令嬢の心さえも、僕はつかんで御覧に入れましょう♪」

「おおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 胸を張って堂々とそう言い放ったラルクの姿に、依頼人の男はすっかり心を奪われている様子。形式的に嘘は言っていないとはいえ、ここまで自分を大きく見せられるのはもはや才能だろう。


「(お、お兄様……。そ、その自信は一体どこから……)」


 恥ずかしさからか、それともいたたまれなさからか、セイラはその場でがっくりとうなだれる。そんな彼女の近くでは、二人の男たちが熱い熱い抱擁を行っているのだった…。


――――


 依頼人の男はうっきうきな様子で二人に挨拶をした後、帰路に就いたのだった。彼を見届けた後、セイラはジト目でラルクの事を見つめ、言葉を放った。


「あんなことを言ってしまって、ほんとに大丈夫なのですかお兄様?相手は貴族家の中でも影響力の大きい、伯爵家ですよ?」

「くっくっく…。セイラ、相手が強ければ強いほど、この僕の力はより強力なものになっていくのだよ…!今までだってそうだったじゃないか…!」

「(今まで…?。騎士様の前では泣き出しそうになってたし、魔獣の前では一瞬で気絶していたような…)」

「これはまたなにか、もう一波乱起きる気がするぞ…!魔獣の一件で終わってしまったんじゃないかと心配していたけれど、そんなものは無用だったようだ…!」

「なにを心配していたんですか?」

「このまますんなり終わてしまったら、僕のファンが増えないじゃないか!!それは困る!僕はもっと人気者になりたい!!」

「はぁーーー………」


 どこまでも能天気でお気楽なラルクの前に、セイラはどでかいため息をついてうなだれる。そんな彼女の姿を見て、ラルクはそれまでとは少し違った口調でこう言った。


「なにも心配はいらないさ。さっきもいっただろう?僕の隣には常に、《《勝利の女神》》さまがついているのだから♪」


 ラルクは優しくそう言うと、隣でうなだれていたセイラの頭をぽんぽんとたたいた。セイラは言葉を返さなかったものの、その表情はどこか嬉しそうであった。

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