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第74話

 伯爵の座を奪われて以降、伯爵家の裏にあるうす暗い小屋のような場所で隠居のような生活を送っているファーラ。多くの貴族家を従えるかつての華々しさは鳴りを潜め、すっかり落ちぶれた雰囲気を醸し出していた。

 しかしそんな状況にあっても、伯爵家におけるいろいろな噂話はその耳に入ってくる。最近はなにやらクライムとレリアがその距離を縮め、またなにか新しいことを企んでいるらしいという噂話だ。


「(やれやれ…。この僕抜きで伯爵としての仕事が務まるとでも思っているのかねぇ…。クライムの自意識過剰ぶりには驚かされるばかりだ…)」


 自分抜きで事が進んでいることに嫉妬しているのか、それとも単純に面白くないからか、ファーラはそう悪態をつく。彼は別にここに閉じ込められているわけではないのだが、自分の座を奪ったクライムと、自分を捨てていったレリアに顔を合わせたくないからか、伯爵家の方にはまったく顔を出してはいなかった。


「(レリアもレリアだ…。クライムとつるんだところで、うまく行くはずがないだろうに…)」


 …自分とて今の今まで全く同じことをしていたというのに、その点についてはあまり触れない様子のファーラ。

 いずれにしてもファーラにとって今の状況は、不愉快極まりないものなのだろう。彼は床に寝そべって天井を見上げ、二人になにか物でも落ちてこないだろうかと願っている様子。

 …そんなファーラのもとに、招かれざる客人が訪れた。


「…お久しぶりですね、ファーラ伯爵様。…いや、《《元》》伯爵様とお呼びする方が正しいですかな?」

「き、貴様レーチス!?い、今までどこで何をしていた!?」


 ファーラから見ればレーチスは、セイラの一件を機にどこかへと姿を消してしまっていた。それはまるで、自分に降りかかる責任から逃げ出すかのように。


「お前、今更ノコノコと現れよって!!いったい何のつもりだ!」

「おっと、興奮ならさないでくださいな、《《元》》伯爵様♪もう私は以前までの私とは違います。クライム様に拾い上げていただき、新たな私として生まれ変わったのです!」

「…なんだって?」

「…ファーラ様、今までよくもぞんざいに扱ってくれましたなぁ…。誰かさんの機嫌を損ねないように細心の注意を払って、誰かさんのプライドを傷つけないように配慮して、誰かさんの立場を壊さないように汚れ役もたくさん引き受けて…。いやいや、思い返しても我ながらよくもやり遂げたと思いますね。しかもその果てにあったものは、くだらない婚約破棄に巻き込まれてすべてを失うというゴールなのだから、一層たちが悪い」

「はぁ?すべてを失ったのはお前の責任だろう?自分が勝手にやったことじゃないか。セイラにちょっかいをかけたのだって元は」

「うるさいうるさいうるさい!!!!!」


 もう機嫌を取る必要も、持ち上げる必要もない。その安心感からか、レーチスはこれまでにため込んでいた負の感情をすべて放出するかのように言葉をつづけた。


「全部ファーラ様が悪いのですよ!!私はあんなにもファーラ様のために尽くしてきたというのに、何も得ることができませんでした!その責任はきっちりと取っていただきます!!」

「責任逃れしかしてないお前に言われたくなはいな。そもそも僕は、クライムが伯爵家を立て直せるなど到底思っていないが」

「ふふふ…。それじゃあ教えてあげましょうか?クライム様がお考えになっているとっておきの方法を…!」


 その言葉を待っていたと言わんばかりの雰囲気で、レーチスは決め顔を放ち説明を開始した。


「…伯爵家をここまで貶めた張本人は他でもない、セイラです。だから今一度彼女に攻撃を仕掛け、すべての罪を彼女にかぶってもらいます。…そうすれば伯爵家への信頼は復活し、同時にセイラに天罰を与えることができる…!クライム様はもうすでに、その具体的な方法も手配済みです。…もう動き始めているのですよ…!」

「…!?」


 不敵な笑みを浮かべながら楽しそうにそう話すレーチス。しかし彼の言葉を聞いて、ファーラは驚きと同時にやや焦りを感じた様子。


「ちょ、ちょっと待て!!も、もう一度セイラに仕掛けるだと!?そ、それは絶対にやめておくんだ!!今度の今度こそ、反撃されたらもう伯爵家は二度と立ち直れなくなるぞ!!」


 セイラにぶちのめされた経験があるファーラは、彼女の事をよく心得ていた。ゆえにもう二度と彼女にかかわることはないように注意していたというのに、まさか自分たちの方から再びかかわりに行こうなどと言い出すとは、さすがのファーラも想像だにしていなかった様子。

 しかしそんな警告を聞いても、レーチスは全く本気にしていなかった。


「やれやれ…。《《元》》伯爵様、前回の時は少し間が悪かっただけですよ。セイラの悪運もここまでです。今度こそ、その調子に乗った態度を打ち崩して差し上げるのですから」

「だから無理だと言っているだろ!!」

「はぁ…。すっかり弱気になっている様子ですねぇ…。そんなことだから伯爵を追われて、こんな場所で余生を過ごすみじめな人生になるのですよ…。まぁせいぜい、ここから見ておくことですね。私とクライム様があなた抜きで完全に計画を成功させる姿を…!」

「おいちょっと待て!!それはお前が勝手に言っていることだろう!!クライムは自分勝手で滅茶苦茶だが、いくらなんでもそんなことを考えたりは」

「おいおい、本人のいないところで悪口を言わないでもらいたいなぁ、兄上♪」


 ファーラがクライムの名前を出した途端、第三の人物がこの場に現れたのだった。

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