第73話
ライオネルはシャルナに盛大にフラれ、セイラは逃げ出したラルクをひっつかまえてしばきあげ、クライムとレリアが共謀してよからぬことをたくらんでいたその一方、騎士たちにもまた動きがみられていた。
「…」
「…」
「♪」
たった今、ある一室の中に3人の男たちがいる。そのうち二人は無言ながら互いに視線をバチバチとかみ合わせて火花を散らしあい、残る一人はその様子を楽しそうに見つめていた。
「…オクト団長、祝勝会でセイラをエスコートするのは俺の役目ということで決着がついたはずだろう?それを今更どうして認めないなどと言い始めるんだ?」
「無茶苦茶を言うな。私はそんなことを認めた覚えはない。ありもしない記憶をひけらかすなど、やはり人を守る騎士としてはまだまだだな…」
「…なんだと?」
言い争っているのはほかでもない、騎士たちを統括する立場にあるオクト団長と、かなりの実力者ながらまだ新人のターナーの二人だ。
祝勝会にセイラが出席するということが決まって以降、二人は何度もこうして衝突していた。その議題はたったひとつ、いったいどちらがセイラをエスコートするにふさわしい男かというものだった。
「祝勝会は騎士が主導となって行われる。そして私は騎士団を束ねる団長である。この私がセイラ様をエスコートすることは、団長として当然のことだろう?こんな簡単なことがわからないか?」
「あぁ、わからないね。そんなものわざわざお偉い団長様がやるまでもない。俺のような下っ端に任せて、同じくお偉い貴族様のお相手をするのが団長の仕事だろう?わからないか?」
「まだまだ騎士として未熟であるお前に、そんなことを任せられるはずがなかろう。少しは人間性を磨いてから言うんだな」
「あぁ?」
全く終わる様子のない二人の言い争いに、俯瞰してみていたガラルが悪い笑みを浮かべながら割って入った。
「そんなにセイラ様の隣に立ちたいのなら、どちらがセイラ様の事をより愛しているかで決めればいいのではありませんか?お二人ともセイラ様に対するただならぬ恋心をお持ちなのでしょう?」
「っ!?」
「っ!?」
ガラルの発した言葉に、二人は分かりやすく反応してみせる。
「そうではない!セイラ様に不快な思いをさせるわけにはいかないから、それならば私が最もふさわしいと言っているだけだ!」
「こ、恋とかじゃないとも!ただなんで全部団長が好きかって決めてしまうのか、俺はそれが気に入らないだけだ!」
…認めたら負けだとでも思っているのか、決して二人は自分が心に秘める気持ちを表にしようとはしなかった。
「それなら、僕がセイラ様のエスコートを担当してもいいのですか?お二人さえご納得いただければそのように」
「「うるさい!!!!」」
「……」
ついさきほどまでは気持ちをたがえていた二人、今度はその息をぴったりにしてガラルに言葉を返した。どこまでも自分たちの思いを譲らない二人の姿に、ガラルもやれやれと言うほかなかった…。
――――
そして、祝勝会の知らせはカタリーナ家にも届けられていた。
「お父様、お母様、私必ず、祝勝会の場でラルク様との距離を縮めてみせます!」
「よく言ったシャルナ!!それでこそこの私の娘というもの!」
「が、がんばるのよシャルナ…!(あ、あんなに内気だったこの子がここまで夢中になるだなんて、いったいどんな色男なのかしら…??それに、この子に相応しい相手の話になると、この人はいつも立場や能力の話をされていたけれど、この雰囲気をみるに彼も二人の関係に賛成しているってことよね…?それってつまり、そのラルクなる男性はとてつもない能力や階級をお持ちなんじゃ…!?)」
シャルナが家出をしてセイラやラルクと関わって以降、彼女の家庭環境は劇的なほどに改善されていた。それまでの抑圧されていた彼女の雰囲気はすっかり鳴りを潜め、両親ともまっとうに話ができるようになっていた。
シャルナはこの家に戻ってなお相変わらずラルクに夢中なままで、それこそ朝から夜まで彼の事を考えて過ごしている様子だった。
彼女の父であるアーロンもまた、ラルクの事を気に入っているままであり、最近もたらされたシャルナに対する良い条件の婚約話も、ラルクの存在を理由に断ったほどだ。
そして彼女の母であるレベッカは、二人ががこれほどまでに心を許す相手とはいったいどんな相手なのだろうかと、日々妄想にふけっていた。あえて詳しく聞かないのは、彼女の趣味である様子。
「(ラルク様ぁ…♪。また私に、その美しくかっこいいお言葉をかけてくださいませぇ♪)」
「(ラルク殿…!次に会った時こそ、必ずこの財閥を継いでもらうことを認めてもらうぞ…!)」
「(そ、そんなにかっこいい相手だというのなら、もしかして私と禁断の愛が始まっちゃったりなんかしちゃったり…!!!!)」
…それぞれの思惑が交錯する中、祝勝会までの時間は着々と迫っていくのだった。




