第71話
ここは騎士たちの根城である騎士の城。セイラとラルクの二人はこの城を訪れ、祝勝会についての話し合いをオクト団長、ガラル副団長とともに行っていた。
「オクト様、僕の考えを聞き入れてくださり、ありがとうございます!」
「別に構わないさ。普段は近寄りがたい雰囲気であろう騎士の城に一般の人々を入れて、お互いの距離を縮めるというのも悪くはないからな」
祝勝会を行うよう提案したのは、ラルクの方からだった。それをオクトが認め、開催されることが決まったという流れだった。
「(クスクス…。団長、そんなことを言って本当は、セイラ様に会えるきっかけが欲しかっただけでしょう?素直にそういえばいいのに…(笑))」
すました表情でラルクと会話をするオクトの事を、にやにやとした表情で見つめるガラル。相変わらず奥手で、セイラとなにも進展がないオクトの事をからかうのが、ガラルは楽しくて仕方がない様子だった。
「そ、それにしてもお兄様、いったいどうして祝勝会なんて?」
セイラはそう言うと、ラルクを自身のもとへ振り向かせ、彼にしか聞こえない程度の声でそう疑問を投げかけた。それに対しラルクは、普段と変わらぬどや顔でこう答えた。
「ふっふっふ…。セイラも知っているだろう?僕が魔獣を倒して人々を救ったという噂が広まって、僕のもとに届くラブレターも日に日に増していっている!このタイミングで大々的に魔獣退治成功の祝勝会を行えば、国中の麗しき女性たちが僕のもとに集まってくる!そうなればもう…完璧なハーレム状態の完成だ!これを逃す手はないだろう!!」
「はぁーーー……。(まぁそんなことだろうとは思ってたけど…)」
「これで…これで手紙だけでなく、僕の事を慕ってくれている美しき女性たちと、直接会って話をすることができる…!もちろん文字のやり取りだけでも素敵なのだけれど、やはり人間同士、お互いの思いを情熱的に伝えるためには、やはり直接的に」
「はいはいわかりましたから…」
やれやれといった表情でラルクの言葉を制するセイラ。けれどラルクのこの振る舞いは、セイラにとっても悪いものではなかった。現実に魔獣の退治にあたったのは彼女の方ではあるが、それが知られて有名になったり、もてはやされたりすることを彼女は嫌っていた。その役目をラルクが引き受けてくれるというのは、あながちセイラにとって都合の悪いものではなかったからだ。
それになにより、ラルクが調子に乗る姿に飽き飽きしていながらも、セイラは心の中ではその姿を一番楽しんでいるのだから。
「あぁ、そうと決まればのんびりはしていられない!すぐに準備に取り掛からないと!!」
「ちょ、ちょっとお兄様っ!?」
セイラがそう言葉を発したのもつかの間、ラルクはオクトとガラルに一礼したかと思えば、次の瞬間には勢いよく部屋を後にしていった。
「ああぁぁもう!いつもうちのばか兄がすみません!後できっちりしばいておきますので!!あ、あとオクト様、これよかったらどうぞ!」
セイラはやや早口で二人にそう告げると、ラルクの後を追って彼女もまた勢いよく部屋から飛び出していった。あまりのスピードに固まるしかないオクトであったものの、彼ははっと意識を戻し、自身の手に渡されたセイラからの贈り物の方に視線を移した。そこにはセイラの手作りと思わしきタバコが一箱置かれていた。
そしてどたばたと去っていった二人の姿を見届けた後、先にガラルが言葉を発した。
「ほんと、楽しい方ですねぇ。さすがはオクト団長が心惹かれる人物であるだけの事はあります…??」
「…」
いつものようにオクトの事をからかってやろうとしたガラル。彼がオクトの方へと視線を移してみると、セイラから渡されたタバコを一つも傷がつかないよう懇切丁寧に大事そうに机の中にしまうオクトの姿があった。
「あらまぁ♪」
「な、なんだ?」
「いえ、別に♪」
からかいの視線を送るガラルに、いぶかしげな視線を返すオクト。どこか少しだけやりずらそうなオクトは、いつものように懐からタバコを取り出し…。
ドタドタドタ!!!!
「おい!!今セイラが来ていただろう!!いったい何の話をしていやがった!!」
ノックもなく団長室に突入してきたのは、まだまだ新入りの騎士であるターナーだった。彼の前に、新人騎士と団長騎士の階級差など関係ない様子。
「なんだターナー、礼儀がなっていないな。挨拶もなく部屋に押し入ってくるなど、人間として論外な」
「うるせぇ、いいから質問に答えろ。セイラと何の話をしていやがった…」
…修羅場のような雰囲気を醸し出す二人。その状況が楽しくなったのか、ガラルはあえて二人を引っ掻き回すことにした。
「ごめんねターナー君…。これは騎士団の中でも知る人ぞ知る秘密なのです…」
「はぁ??」
「しかし一つ言えるとすれば……団長とセイラ様はすでに、その距離をかなり縮められているという事でしょうか…♪」
「っ!?!?」
「っ!?!?」
その言葉を聞いた途端、ターナーはオクトの事をにらみつけ、オクトはガラルの事をにらみつけ、ガラルは一人うっきうきな表情を浮かべるのだった。




