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第66話

 シャルナの家出騒動がひと段落していたその裏で、伯爵家では新たな展開が繰り広げられつつあった。


「二人ともよく来たな。まあ座れ」


 ライオネル上級伯爵は自室に、息子二人であるファーラとクライムを呼び出していた。ファーラはどこかやりずらそうな様子で、一方のクライムはうきうきとした様子でライオネルの前に姿を現した。


「…こうしてお前たちと顔を合わせるのは、かなり久しぶりだな。クライムよ、向こうでも元気にやっていたか?」

「あぁ、父上と兄上に飛ばしてもらったおかげで、自由に楽しく暮らさせてもらったよ。その節はどーも」

「だから、その原因を作ったのはお前の方に…。まぁ、今は言うまい…」


 …クライムは相変わらず自分勝手な振る舞いを見せているものの、今彼と火花を散らしあうことは賢明ではない…。そう考えたライオネルは、自分の中に湧き上がる怒りの感情をなんとか押しとどめる。


「父上、クライムと話があるのならお二人で話をされたらいかがですか?僕には関係がないのでは?」

「お前にも関係のあることだから呼び出したのだ。ほかでもない、伯爵家の未来について…」


 伯爵家の未来、という言葉をライオネルから聞いた途端、クライムはその口角を上げる。彼はこれから何を告げられるのか、うすうす気づいている様子だった。


「単刀直入に告げよう。クライム、今まではファーラに授けていた伯爵の立場、それをお前に与えることとした。…まだまだ粗の目立つお前だが、この私の血を引いているのだ。必ずや上手くやってみせろ」

「ククク…♪」

「…」


 伯爵の位を与える。ライオネルから直接そう言われたクライムは、こぼれる笑みを隠せなかった。一方のファーラは、やはり居心地の悪さを隠せない様子。

 クライムはわざとらしく二人の姿を見回しながら、言葉を発した。


「それにしても、伯爵家が見たこともないほどボロボロになってしまっていたな。俺の前に伯爵をやっていたやつは、さぞ頭の悪い奴だったんだろうなぁ…。そしてそんな男に伯爵の位を任せていた者もまた、頭の悪い奴なんだろうなぁ…♪」

「…(やれやれ…)」

「…(まったく、どこまでも性格の悪い…)」


 クライムはけらけらと笑いながら、二人の事を楽しくて仕方がないといった表情で順に見る。…彼がこれまでに抱いてきた逆恨みの感情は、尋常ではないようだ…。


「(クライム、どこまでも調子に乗りよって…。こうなるのが嫌だったからファーラに伯爵の位を任せていたというのに…。そもそもどうしてこうなってしまったんだ?もとはといえば………おかしくなったのは、セイラの一件からではないか…?彼女がおとなしくファーラの隣にい続けたなら、こんなことにはならなかったろうに…。はぁ、こんなことなら最初から二人の婚約に反対しておくんだったか…)」

「(クライム…。後はもう好きにやってくれ…。あぁ、もっと早くレリアの呪いから目を覚ますことができていたなら、きっと今頃は僕とセイラで順風満帆な生活を送ることができていただろうに、本当にもったいないことをした…)」


 …男たちの考えていることは三者三様な様子だが、そろいもそろって自分に非があるとは一切思っていない様子だった…。


「(まぁ、気は進まないが仕方がない…。伯爵となったクライムにあの話を…)」


 ライオネルは自分の中で覚悟を決めると、クライムにある提案を持ちかけ始めた。


「クライム、お前にもう一つ大事な話がある。…伯爵となった祝いと言っては何であるが、お前に相応しい婚約相手を用意させてもらった」

「ほう、いったい誰だ?かわいいんだろうな?♪不細工な女はごめんだぞ?」

「焦るな…。この国でも大きな影響力を持つ財閥である、カタリーナ家を知っているな?その令嬢であるシャルナと結ばれるのが、お前には一番いいのではないかと思っている」

「(ほぅ、財閥令嬢か…♪金も体も楽しめるなら、この上ない相手だな…♪)」

「し、しかし父上、シャルナ様とのかかわりなど我々にあるのですか?」

「心配はいらない。シャルナ自身は気弱で内気、さらに言われたことを断れない性格とのことだ。それになんでも両親の言うことをきく理想的な女なのだと聞いている。ならば話は早い。上級伯爵であるこの私が直接関係を持ち掛ければ、簡単に婚約は成立することだろう」

「なるほど、なかなか考えてるじゃないか♪(それじゃあレリアとの重婚になるが……まぁ構いはしないとも。俺は伯爵になったのだから、その隣に立つ女が一人だろうと二人だろうと同じことだ♪)」


 ライオネルからの提案を聞いて、先ほどにもましてうきうきとした表情を浮かべるクライム。自分が蒔いた種であるとはいえ、今まで地方で飼い殺しにされていたうっぷんがたまりにたまっていたからか、その反動で欲望もまた深く大きくなっている様子だった。


「ともかく、伯爵家を再建できるかどうかはお前にかかっているというわけだ。私もできる限りのサポートはするが、そのことはゆめゆめ忘れるな?」

「あぁ、わかっているとも♪ダメな兄さまがめちゃくちゃにした分まで、俺が取り戻してやるさ♪」

「…」


 その後、迅速に伯爵の位の移譲手続きが行われ、晴れてクライムは伯爵となるに至ったのだった。

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